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俺の主
しおりを挟む俺の主人は変わり者だ。何処がって聞かれると全体的に。今まで何度も、俺は彼を選んでよかったのか?と自問自答している。まぁ、それなりに楽しませてもらってはいるけど。
コンコンコンッ
・・・カチャッ
「・・・どうかしたんですか?ラーヤ様」
「少し時間ありますか?」
目の前の侍女にそう聞くと、一度後ろの様子を伺い了承してくれた。
彼女は俺の主人の婚約者の侍女だ。濃い茶色の髪をきっちりとお団子にまとめ、濃紺の瞳はキリリと釣り上がった猫目。綺麗めの美人だ。
「お嬢様は湯浴みをされてますので、少しなら時間があります。」
湯浴み?1人でか?ご令嬢にしては珍しいな。まぁ、俺には関係ないか。
「これ、殿下からです。日記の内容を知りたいそうなので、エミリア様が日記を書いてる時にこっそり内容が見えそうな位置に取り付けといてください。」
もっと、ちゃんと説明しろよ。コイツ。というラナからの視線を軽く流して、魔道具を手の平に乗せる。
「じゃあ、そういうことで。」
「・・・着替えを覗くようなことしたら、八つ裂きにします。」
バタンッ!
・・・俺の知り合いはすぐに俺を八つ裂きにしたがるな。なんでそんなに血の気が多いんだ。それから訂正させてもらうと、覗くのは俺じゃない。殿下だ。そして俺が主人に逆らえると思ってるのか?
閉じられた扉の前で溜め息をついた。
さぁ、ここでこんなことしててもどうしようもない。戻ろっと。
俺の家は代々王家に仕えている家系だ。僕は王子たちが生まれる前から、彼らに仕えることが決まっていた。器用な僕は、求められればある程度のことは簡単にできた。
小さい頃は3人の遊び役として一緒にいた。でも、将来はこの中の誰か1人に使えることになる。その1人に王太子であるライト様を望まれている。家族にも王家にも。それはわかっていた。
『ラーヤはつまらなそうな人生を生きてるね。』
ある日、ルカ様に言われた言葉だ。
ムカッとした。その時の俺は、その道しかないと思ってたから。求められてるなら、そうするべきだと思ったから。こんなガキンチョに何がわかるんだ、と。
「ルカ様、ここにいらっしゃったんですか?」
寮の中でも最上級の部屋を与えられている殿下。1人部屋なのに通常より2倍くらいあるんじゃないかと思える部屋の広さ。小さなバルコニーまでついている。
いないと思ったら、大抵バルコニーにいる。今日もそうだった。
「温かい飲み物でも用意しましょうか?」
「いや、いい。紙を用意しといて。転写するから。」
「わかりました。」
殿下は王子の中で1番魔法の能力が高い。王太子の候補として担ぎ上げられたこともある。でも主人は自らその道を絶った。
『僕の能力は自分の為にしか使わない。国の為に使い続けるなんて、真っ平ごめんだ。』
後に主人はそう言っていた。
品行方正、正義の塊みたいなライト様には絶対出てこない言葉だ。
そんなルカ様の言葉に毒されていき、ロボットみたいに周りに従って生きていた人生を投げ捨てた。
「うーん、確かにこれは見たことない字だね。」
背後から殿下の手元を覗いてみる。
「うわぁ、これは複雑な文字ですね。」
殿下も俺も、仕事上様々な国の文字に目を通す。しかし、これは見たことがない。検討もつかない。
「これは・・・どうしましょうか?」
「はぁ・・・・・・最悪の手段を取るしかなさそうだ。」
「・・・休暇申請を出しておきます。」
殿下の行き先の検討はついている。ただ、正式な場所は知らない。この先も知ることはないだろう。殿下は1人でも自分の身を守れる。俺は察しの良さを買われてそばにいるため、こういう時に深掘りは絶対しない。
「・・・エミリア様にはなんと説明いたしましょうか?」
「魔塔の仕事とでも言っておいて。」
「ご自身でお伝えしないのですか?」
「明日の朝にはここを去るよ。これは早急に対処した方がいい気がするから。」
「かしこまりました。」
はぁ・・・なんて言ったけど、留守中に仕事を溜めるわけにはいかないからな。どうせ俺が処理することになるんだ。
自分の為に力を使うと言った主人。その割につまらなそうに生きていた子ども。そんな彼が見つけた、唯一の生き甲斐にしている婚約者のことだ。どうしたって俺が逆らうことなんてできない。
・・・つまらなそうな顔に笑顔が灯った時、俺だってそれなりに嬉しかったんだ。
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