将来、悲運な結末を迎える令嬢は幸せに生きる

都築稔

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追求5

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「じゃあ、明日の午後2時にいつものファミレスで。」

シーズン3の物語ができたので、ヒカルに連絡を入れた。
ちょうど明日、予定が空いているとのことなので早速確認してもらうことになった。

そうだ、俺の給料も安定してきたし何か手土産でも持っていこう。日頃の感謝とか、柄じゃないけどたまにはいいだろう。

近くに酒屋があることを思い出し、そこでお高めの酒瓶とおつまみを購入した。

初めて人にプレゼントをすることで気持ちが高揚して、ヒカルがファミレスでいつも何を飲んでいたかなんて思い出しもしなかった。

翌日、ヒカルは俺のプレゼントを喜んでくれた。

「ありがとう、今夜にでも飲んでみるよ。」

俺は今でもこの時を後悔している。

まさか、翌日に訃報を聞かされるなんて思ってもいなかった。

翌朝、知らない番号から電話が来た。

この時はまだ、もしかして新しい仕事が来たのかもしれないくらいに思っていた。

電話は、ヒカルの母親からだった。
そこで俺はヒカルがなくなったことを知ったんだ。

ヒカルが、もうこの世にいない。
俺には信じがたい話だった。

お葬式で棺に入ったヒカルを見ても、まだ信じられなかった。

ヒカルは…ヒカルはなんで死んだんだ。だって、前日に会った時はあんなに元気だったじゃないか。

どこかで、ここは現実ではないのではないか、ヒカルが俺に盛大なドッキリを仕掛けてるのではないかと思っていた。
後ろから「びっくりしただろ?」なんて言って、現れるんじゃないか。いや、現れて欲しいと思っていた。

「ヒカルはなんで死んだんですか?」

お葬式が終わり、帰る間際に尋ねた。
ヒカルの母親とは顔見知りだった。

彼女は少し言いづらそうに、どこか迷ったような素振りを見せた。

「…中で話しませんか?」

そんな言いづらいことでもあるのだろうか。
そんな考えはかすめたが、廃人同然の俺は迷うことなく彼女についていった。

連れて行かれたのは、ヒカルの部屋だった。
そういえば、ヒカルの部屋に一度も行ったことがない。

「私、本当に感謝してるの。」

「え?」

肩が震えている。おそらく泣いているんだろう。

「ヒカルは交通事故で亡くなったの。」

交通事故?それなら別に、わざわざここに来て話すことでもないんじゃないか?
いや、それよりも。

「犯人は逮捕されたんですか?」

「えぇ、犯人は捕まってるわ。でもね、どうやらヒカルが飛び出したみたいで。」

話す声が震えている。

「ヒカルが飛び出した?」

「…酔っていたみたいなの。何を思っていたかは分からないけど、車のカメラからも道路に飛び出してくるヒカルが確認できた。」

酔っていた?
そういえば、俺が渡した酒を夜に飲むと言っていた。

「あの子ね、小さい頃は体が弱くて学校にもあまり行けなかったのよ。大学生になる頃には、病院に通うこともほとんどなくなったんだけど…。また病院に逆戻りしたくない、折角友だちができたからってお酒を飲まないようにしてたの。」

は?聞いてない。そんなの聞いてない。

「…勘違いしないで。あなたを責めたいわけじゃないの。」

「…知ってるんですか?俺が渡したこと。」

「ヒカルが、連絡してきてね。お酒を飲むなって医者に言われてた訳じゃないし、友人に初めてプレゼントされたものだからって…。あなたが悪いなら、私はもっと悪いわ。私はヒカルが体が弱いことも、初めてお酒を飲むことも知ってた。…でも、止めなかったのよ。」

「違う、そもそも俺が違うものを渡していれば!」

「いいえ。ヒカルが話さしてないんだから、その可能性はこの先もあったの。」

なんで、なんで俺のせいだと言ってくれない?どう考えても俺のせいだろ。

「どうか、自分を責めないで。あなたが前を向いてくれなきゃ、私がヒカルに怒られちゃうわ。余計なこと言うなって。」

ヒカルが自分から言わなくても、ちゃんと見ていれば気づけたかもしれない。

そういえば、ヒカルはいつもファミレスでオレンジジュースを頼んでいた。
初めてそれを見た時は、どことなくコーラじゃないことに違和感を持ったはずなのに。大人になってからも、お酒を頼まないことに気がついてもおかしくなかった。
俺の勝手なイメージで違和感を持つのはおかしいと、それ以上考えないようにしてしまった。
自分もお酒はあまり飲まないから、ありがたいとすら思っていた。

一言呟いていたら、ヒカルは教えてくれたかもしれない。

せめて、一緒に飲もうと言えばよかった。そうしたら、ヒカルはまだここにいたかもしれない。

「あなたと出かけるようになって、ヒカルは生き生きしてた。楽しそうな顔をするようになった。本当に感謝してる。」

やめてくれ。どうしたら息子を殺した相手に感謝なんてできるんだ。

その後、俺はどうやってヒカルの部屋を出たか覚えていない。

これからヒカルと完成させるはずだった未完成の物語。
ヒカルがいなければ、俺1人では完成させることができない。

だって、俺は才能のない男だから。

ヒカルがいたからここまで来れたのに。

それでも、最初は1人でも完成させようとした。
ヒカルが成し遂げようとしたものを俺なんかが壊してはいけない。ヒカルが見るはずだった未来を成し遂げないといけない。

寝る間も惜しんで原稿に向き合った。

ヒカルならなんて言うだろう。どうしたらヒカルが満足する物語を作れるだろう。

そんなことばかり考えていた。

母や姉が何か言っていた気がするけど、どうでもよかった。とにかくこれを完成させなければならない。

食事は、気が向いたら飲むゼリーやカロリーバーを口にした。
味はわからなかった。

寝てしまったら、見ていない事故を夢に見てしまう。

親友が目の前で死ぬ夢なんて、見たいはずがない。

自分が病んでいることにも、不眠症になっていることにも、気がついたのは転生したとわかってからだった。
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