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第1章
初めての街
しおりを挟む「・・・カリ、アカリ!朝だよ?起きれそうかい?」
んん・・・?誰の声?・・・・・・あぁ、そっか。
「おはようございます、ジェイドさん。」
「おはよう。ごめんね、起こしちゃって。」
「いえいえ。ありがとうございます。支度したら、直ぐ降りますね。」
「急がなくて大丈夫だよ。ゆっくり支度したらいいよ。」
私がここでお世話になって、1ヶ月が経った。
たくさん泣いたあの日の次の朝、私は知らぬ間に異世界に転移してしまっていたことを知った。得にあの世界に未練はなかったので、すぐにどうやってこの世界で生きていくかを考え始めた。
ジェイドさんは私に帰る家がないことを知り、自分の家に留まるよう提案してくれた。この世界について何も知らなかったので、その提案は本当にありがたかった。
「カフェオレとミルクティー。今日はどっちにする?」
「カフェオレがいいです。」
「了解。ちょっと待ってね。」
ガリガリガリ・・・ガリガリガリ・・・・・・。
ジェイドさんはコーヒー豆からコーヒーを作るタイプだ。頼んだら、いつも快くコーヒーを入れてくれる。私は今までインスタントのコーヒーばかり飲んでいたため、初めてジェイドさんの入れたコーヒーを飲んだ時は感動した。
徐々にコーヒー豆のいい香りがしてくる。
始めは毎回こうやって豆から挽いて作るのは大変ではないかと思っていた。しかしジェイドさんは穏やかな顔で、少し嬉しそうに豆を挽く。私はそれを見てるのが好きになった。こうやって、コーヒーができるまでのんびり待つのも悪くない。今まではそんな余裕なかったから。
「お待たせ。」
ジェイドさんが席に着いてたことを確認して、私は朝食を食べ始めた。
今日の朝食はカリカリに焼いたベーコンエッグとトースト、庭で採れた野菜で作ったサラダ、そしてカフェオレ。
「ん~!!今日も美味しいですね!」
「そうだね。」
この世界に来て、私は改めて気付くことが多かった。
きちんと睡眠をとると次の日、身体の疲れがとれていること。朝ご飯をしっかり食べると、しっかり目が覚めて元気が出ることなど。健康的な生活を送ったことで心に余裕ができて、小さな幸せに目が向けられるようになった。
「今日は街へ行かないか?」
「街、ですか?」
「あぁ、そうだ。村だとそろわない物もあるからな。少し遠出をしようと思う。」
「楽しそうですね。わかりました、行きましょう。」
★
「うわぁ、さすが。人がいっぱい居ますね。」
村で馬車を借りて街までやって来た。
窓から見える街並みが中世のヨーロッパ風でとても私好みで、自然とニヤける。
多少ジェイドさんから聞いていたが、近くの村とは違って活気がある。店も人も、比べ物にならない。
村の雰囲気も穏やかで、私は好きだけど。
「アカリ、降りるよ。」
先に降りたジェイドさんが、私に手を差し出してくれる。
これ、あれだ。見たことある。貴族のお嬢様がされてるやつだ。
平静を装いつつ、ジェイドさんの手を借りて馬車から降りた。女の子扱いに慣れてないせいで、すぐ顔が赤くなるのをどうにかしたい。
今も顔が熱いので、多分平静を保ててはいない。
「おいで、こっち。」
ジェイドさんはそんな私に気づいてないのか、そのまま手を繋いで歩き出した。
目的の場所はすぐ近くらしい。
隠れて手で顔を仰ぎながら歩いた。右手が繋がれたままなのでしばらく熱は引きそうにはなかったが。
「ここだよ。僕の知り合いの店なんだ。」
「ブティック・・・ですか?」
「そうだよ。」
木でできた扉を押すと、カランコロンと綺麗な音が鳴った。
「いらっしゃいませ・・・て、なんだジェイドか。」
「お邪魔するよ。」
「珍しいな。連れがいるのか。」
「あぁ。今日はこの子の服を買いに来た。何着か見積もってもらえるかな?」
「わかった。俺はノア・クローシアだ。よろしくな。」
「アカリです。よろしくお願いします。」
ノアさんは差し出した手を私が握り返すと、満足したようにニカッと笑った。とても人好きしそうな笑顔だ。そして私を少し観察して、「ちょっと待ってな」と店の奥に入っていった。
「ジェイドさん、用事って私の服を買うことだったんですね。」
「まぁね。僕が前に着ていた服を貸しているけど、いつまでもそれじゃ不便でしょ?サイズが合ってないみたいだし。」
そうなのだ。私は今、ジェイドさんが子供の頃に着ていたという服を借りている。
それでも丈が長かったり靴がブカブカだったりしているので、裾は折ってウエストはベルトを閉め、靴は紐をキツめに結んでいる。
それに、実はそろそろ下着の替えが欲しいなと思っていた。男性のジェイドさんには言い辛くて、どうしようかと思っていたのだ。
今はどうしてるかって?
さすがにつけないままというわけにはいかないので、ジェイドさんに小物を作りたいと言って布生地をもらってそれらしいのを作ったよ。
「お待たせ~。あら、可愛い子じゃない。」
店の奥から出てきたのはノアさんではなく、綺麗な女の人だった。
「ビオレット、久しぶりだね。」
「お久しぶり。ジェイドが女の子を連れてきたって聞いたから、私の出番かと思って。」
「そうだね。彼女の相談に乗ってもらえると嬉しいよ。」
「もちろん!初めまして、アカリちゃん。ノアの姉のビオレットよ。よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします。」
ビオレットさんの笑顔はすごく色っぽい。女の私でも見とれてしまいそうだ。
紫がかった青の瞳が彼女の雰囲気をミステリアスにしている気がする。
「じゃあ、2階に行きましょうか。ジェイドはノアに案内させるわね。アカリちゃんは私について来てちょうだい。」
ジェイドさんは、奥からまだ出てきていないノアさんを1階で待つそうなので、ビオレットさんと2人で2階にあがった。
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