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第1章
カリスマ店員ビオレット
しおりを挟む「アカリちゃん。あなた、ジェイドと住んでいるのでしょう?彼のことだから、色々と気が回ってないのではなくて?」
「一緒に、住んでいます。でも、あの、とても親切にしていただいてますよ?」
「あぁ、違うの。彼は優しいわ。でも、そうじゃなくてね?例えば、下着や月のものはどうしていたの?どうせお小遣いももらってないんでしょう?」
「あ・・・はい。でも、どうして・・・」
「お金を持っていないことも知ってるかって?見たらわかるわよ!私だって半人前とはいえ、服屋を営む商人なんだから。それに、お金を持っていたらジェイドの服なんて着てないでしょ?」
「仰る通りで・・・。」
「これからは、私に頼るといいわ。この街も初めてみたいだしね。」
そう言って、パチリとウインクをするビオレットさん。似合いすぎて怖い。
彼女は「商人だから」と言っていたが、本当に私の事情をなんとなく察しているようだった。
「ノアには服を厳選してもらっているの。だから、その間に下着とか見ちゃいましょう。」
そう言って、2階の奥の階段から3階へ案内された。
「ほら、ここよ。入って。」
少し重そうな扉を開くと、思っていたより広い部屋だった。色んな種類のランジェリーが置いてあって、ワクワクした。
「まずはサイズを計らないとね。」
どうやら、採寸するための部屋があるらしい。
ここは街外からも人気で、採寸する回数も多いから設けたそうだ。また、現代でいう試着室も兼ねている。
「そういえば、今まで下着の替えはどうしていたの?」
「ジェイドさんに布をもらっていたので、それで自作を。」
「あらまぁ、あなた裁縫ができるのね!」
ビオレットさんは何やらブツブツと呟いて、考え事を始めちゃいました。それでもしっかり採寸をしいるところがさすがです。
終わった採寸結果をメモして、従業員の方に渡す。
「どんなものがいいとかある?ショーツの形とか、色とか。デザインも好みがあれば聞くわよ?」
「普通の、シンプルなやつがいいです。」
「とびきりセクシーなもので、ジェイドを落とさなくていいの?」
「っ!!ぃぃぃいいですっ!!」
「ふふふふ。あら、残念。」
私、絶対にからかわれてる!助けてくれた命の恩人に色仕掛けってなんだ。そんな恩を仇で返すことなんてできないよ!!・・・ビオレットさんほどナイスバディなら恩返しなったかもしれないな。
自分の身体、特に胸の辺りを見てため息をついた。
★
ビオレットさんは現代でいうカリスマ店員というやつで、私に似合う下着をいくつか選んでくれた。自分では選ばないようなものもあったけど、いざ着てみると意外としっくりきて驚いた。恐るべし、カリスマ店員。さすかだぞ、ビオレットさん。
まぁ、やっぱり可愛い下着を着るとワクワクするよね。
1着をそのまま着ていくことにして、肌着や生理用品まで色々揃えてもらった。
「お待たせ。」
2階の客室に入ると、ジェイドさんとノアさんが向かい合って座っていた。なんだか心なしかジェイドさんがシュンとしているように見える。
「そっちは終わったのか?」
「バッチリよ!」
「じゃあ、こっちも始めますか。」
ノアさんが従業員さんに頼んで、部屋にラックごと衣装を部屋に運んでくれた。
「好きなものを選んでくれ。試着もできるからな。」
すごい、どれも可愛い!でも、この感じだと女性用のズボンはなさそうね。スカート、着慣れてないんだよなぁ。
短すぎるのは却下。動きやすさを考えたら膝丈かな。ミモレ丈のも欲しいな。
「このブラウスも似合うんじゃない?」
「可愛い!!でも、似合いますかね?」
「不安なら試着すればいいのよ。もちろん、私は似合うってわかってるけどね。時には、服を着るのにも自信が必要でしょ?」
なぜビオレットさんがカリスマ店員なのか、わかる気がする。普段、自分が着ていないものを「似合う」と言われてもお世辞だと受け取ってしまうことが多い。自分で着て確かめて、周りの反応も確かめて、やっと自信がつく人もいる。そしてビオレットさんは本人が嫌がる服を薦めて、無理に買わせたりはしない。
お言葉に甘えて何着か試着してみることにした。
「着替えたら、1度出てきてちょうだいね。自信がなければ、ジェイドの反応を見るといいわ。彼、嘘がつけないから判断材料にいいのよ。」
「わかりました。」
私は現世でズボンを着ることが多かった。ジャンルでいえばスポーティ系やボーイッシュ系。今手に持っている、フリルが付いたブラウスやシフォンのスカートなんて子どもの頃にも着ていない。
ここはビオレットさんを信じよう。ノアさんだって、私が似合うことを前提で部屋に運んでくれたはず。大丈夫。
自分によく言い聞かせておかないと、着るまでにも時間がかかりそうだ。
「よしっ!」
この試着室には、先程ビオレットさんと選んだ肌着も用意してくれてあった。
ありがたくそれも着て、ブラウスに袖を通した。
★
「わぁ!アカリ、とっても似合ってるよ。」
本当かなぁ。ジェイドさん、さっきからそればっかりなんだけど。
ビオレットさんに参考にしたらいいと言われてジェイドさんの反応を見てるが、イマイチわからない。
ニコニコと上機嫌で言ってくれてるので、嘘じゃないのかと詰め寄るのは気がひけるし。
「アカリ、どうする?」
「うーーん。」
「アカリ、今着たやつは全部買おうよ!」
いや、全部はダメでしょ。他にも買ってるのし、払うのジェイドさんだし。・・・あれ、でも払う本人が買おうって言ってるからいいのか?
・・・いやいやいや。ダメでしょ。さすがに甘えすぎ。
最低、上下4枚ずつくらいあれば足りるよね。
色々悩んで、ワンピースを2枚、ブラウスを4枚、スカートを3枚ほど選んだ。
「これでお願いします。」
「アカリ、今着ている服はそのまま着て帰ろう。下で待っててくれるかい?支払いを終えたら、僕もすぐに降りるよ。」
「わかりました。あの、ありがとうございます。」
ジェイドさんはふわりと笑って頷いた。
私を先に下へ降ろしたのは、きっと金額を見たら遠慮すると思ったからだろう。
ノアさんに案内されて、先に降りることにした。
「あ、そうだ。これ渡しとくよ。」
「お店のカード、ですか?」
「そう。念のためにな。住所もここに書いてるから。」
「ありがとうございます!お手紙でも書きますね。」
シックな雰囲気の、オシャレなショップカード。
折れないように手作りのポシェットに入れた。
「もしかして、それは手作りか?」
「はい、ちょっとした趣味で。」
「へぇ。上手じゃねぇか。」
まぁ、高校生の時はコスプレ服を作ってたからね。お店の物には劣るけど、自信はある。とはいえかなり久しぶりに作ったから、少し衰えているけど。
「お待たせ、アカリ。」
「初めての街なんでしょう?服は家に届けておくわ。折角だから他にも行ってみたら?」
「そうしようか。どこか行きたいところはある?」
行きたいところ・・・何があるかわかってないしな。お店に行っても払うのはジェイドさんだし。
「見ながら決めてもいいでしょうか?街の雰囲気を楽しみたくて。」
「もちろん、いいよ。そうしようか。ノア、ビオレット、世話になったね。また来るよ。」
「楽しんできてね。」
2人の笑顔に見送られて、お店を後にした。
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