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第1章
夜のお茶会
しおりを挟むコンコンコンッ!
ドアが叩く音がした。
この家には僕とアカリしかいない。
街から家に帰ってくると、今日の夜ご飯は自分か用意するから先にシャワーでも浴びて来て欲しいとお願いされた。なんだか張り切っているようだったので、お願いすることにした。
今はシャワーを浴び終え、部屋で待っているところだった。ドアが叩かれたということはもう降りてもいいのだろうか。
そう思ってドアを開けると、誰もいない。
あれ、おかしいな。ドアを叩く音はちゃんとしたのに。
辺りを見回すと、部屋の前の床に一枚のカードが置かれていた。手に取って見てみるとティーパーティーの招待状だった。
~招待状~
親愛なるジェイド様へ
とても素敵な茶葉が手に入ったので、是非あなたと共にお茶ができたらと思いこの招待状を送ります。
1F ダイニングルームにてお待ちしております。
明里
彼女らしい、綺麗な字。
字は人柄を表すと言うけれど、本当に彼女の心を表しているようだ。それに、この"明里"という名前。彼女にピッタリじゃないか。
そっと、明里の文字を親指でなぞった。ただのカードなのに、こんなにも愛しい。
これは部屋の引き出しに大切にしまっておこう。僕の宝物だ。
1番上の鍵付きの引き出しは、自分の大切なものが入っている。誰にも取られないように、人目につかないようにここへ入れるようにしていた。
あぁ、早く下へ降りないと。アカリを待たせているんだった。宝物を眺めるのは後にしよう。ティーパーティーが終わってから、余韻に浸りながらでも遅くない。
下へ降りると、アカリはキッチンにいた。すぐに僕に気づいて、柔らかく微笑んだ。
「ようこそ、夜のお茶会へ。」
テーブルには数種類のホットサンドや手のひらサイズの丸くて平たいもの、小さいパンケーキサンド、さっきもらったごま団子といった、見たことのないものばかりが並んでいた。
「今日は私の世界の食べ物を再現してみました。お茶も私の世界にもあるものです。さぁ、座ってください。」
そう言って、アカリは椅子を引いて着席を促した。
テーブルに並んだものは彼女の思い出が詰まったもの。そう考えたらワクワクした。どんな味だろう。どれも美味しそうだ。
「おほん。それでは本日のお茶、煎茶です。お供の軽食は今川焼きもどき、お煎餅、ミニどら焼き、ごま団子です。どれから食べますか?」
一通り名前を教えられ、さてどれにしようかと彼女の顔を見ると目が合った。自信と不安が入り混じったような顔をしている。心配なんてしなくても、きっと君のオススメは僕の口に合うのに。
「温かいうちに食べた方がいいのはどれかな?」
「そうですね・・・。温かいもので言えば、今川焼きが1番美味しいかもしれません。餡子が入ったものは甘くて、こっちは変わり種で生ハムとチーズを入れてみました。」
「じゃあ・・・これからいただこうかな。」
手に取ったのは餡子の方。ごま団子の時にも餡子の話をしたが、実は食べたことがないのだ。"餡子"という甘いものがあると聞いたことはあったのだけど。今日、アカリとごま団子の話をして食べてみたいと思っていた。
「じゃあ、私も。」
「いただきます。」
アカリが同じものを手にしたのを見て、食べ始めた。
皮はパンのようだけど甘味があって、少しもっちりとしている。餡子はチョコレートとは違った甘さで、しつこすぎずに丁度良い。この粒々感は・・・そうか、餡子は豆から作るのか!煎茶との相性がいい。なんだか、ほっこりするな。
「本当は分厚いパンケーキみたいな見た目で、中に餡子やカスタードなんかが入ってるんですけど・・・焼き型がなくて。ホットサンドメーカーを使ったんです。」
「へぇ、分厚いパンケーキか。」
「はい。手に持って食べやすい大きさで、屋台なんかで売られていたりするんです。」
確かに、屋台で売るには最適な食べ物だな。中の餡を選べるのも良い。そう、クレープみたいに。
一切れ目をペロリと平らげ、生ハムの方を手に取った。一口食べると、熱で溶けたチーズが糸を引く。
うん、甘めの皮と生ハムチーズの塩気が抜群に合う。美味しい。甘いものの間にこれを食べてしまったら、無限に甘いものと塩気のループに浸ってしまうだろう。
アカリの方を見ると、彼女も口からチーズを伸ばしていた。やっぱりそうなるよね。可愛い。
次にどら焼きに手を伸ばした。こちらの餡子は今川焼きより少し固めに作られているようだ。サンドしている小さいパンケーキは甘めで、これまたほっこりする味だ。
「今日は街をたくさん案内してもらったから、そのお礼にと言いますか・・・美味しいを分け合えたらと思いまして。1人で食べるより2人で共有すると、その分美味しいしさが増す気がするので・・・。」
そう言って微笑む顔が愛しい。
アカリは僕に元の世界に帰りたいと言わないし、その素振りも見せない。隠しているだけかもしれないけれど、ここに来た時のアカリのほっとした顔を見ていると戻りたくないのだろうと思っていた。
知らない土地、知らない人ばかりの世界に来てほっとするなんてよっぽどだと思うんだ。あえて聞いたりはしてないけど・・・。
彼女を助けたのは、たまたま彼女が倒れていたのが家の前だったからだ。違うところで倒れていたら、助けていないかもしれない。気付かず、知らずに前と同じように過ごしていただろう。
この世界で初めて会ったのが僕だったから、彼女は今目の前にいる。頼ってくれる。
でももし、違う人に助けられていたら?
この笑顔は違う人に向けられていたのだろうか。
ここに来てくれてよかった。
何度恨んだかわからない神に、今日は心から感謝した。
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