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第3章

童話

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私は図書館から帰ってきたその日の夜、普段通りジェイドの作ったご飯を食べて自室に篭っていた。お風呂はもう入っている。

手に持っているのはジェイドが選んでくれた童話。パッとタイトルだけを見た限り、日本でも有名な王子様とお姫様の話や動物と女の子の話、動物同士の話みたいだ。その中でも私が気になったのが竜と女の子の話。タイトルは『竜と運命の乙女』。
今日は寝る前に、これを読もうと思っていた。

ベッドに腰掛けて本を開いた。





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むかしむかしのお話です。

人が誰も住んでいないような山奥に、1頭の竜が住んでいました。

竜は自分がいつからそこにいるのは知りません。いつまでそこにいるのかもわかりませんでした。ただそこでじぃっと、人の世が変化していく様を見ていました。

ある日のことです。
いつものように、竜はただそこでぼうっとしていました。嵐の夜のことです。
突然、となりの山の頂きに向かって一筋の光が落ちていきました。

どうせ雷だろう。

そう思うのに、なんだかとても気になりました。竜にとっては初めてのことです。

竜は立ち上がるととなりの山までひとっ飛び!
すぐに目的地付近まで来ましたが、ここに雷が落ちたようすはありません。
以前、すみかの近くに雷が落ちた時は、木が焦げていたり真っ二つになっていたりしたことを知っていたのです。

おかしいなぁ。雷じゃなかったのかな。

キョロキョロとあたりを見回しましたが何もないようなので、竜は帰ることにしました。

待って!

飛び立とうとした時、女の子の声が聞こえました。ここはとなりの山のはいえ、人が登ってくるには険しい道です。子どもが登ってくるのは不可能に思えました。

『誰だい?僕を引き止めたのは。』

「私です。翡翠色の心優しい竜神様。」

竜神様?

竜は神になったつもりはありませんでしたが、その大きな体が神に近くに見えたのでしょう。

『なぜ僕を引き止めたんだい?』

「私は気がついたらここにいました。なので、ここがどこかわからないのです。」

夢遊病でも、さすがにここまで登ってこないでしょう。それに竜はここがどこかと聞かれても、この山が人から何て呼ばれているか知りません。
竜は困ってしまいました。

『僕は人里に下りたことがない。ここがなんと呼ばれているかも知らないんだ。』

「そうですか・・・」

きっと、彼女が1人で山を下りるのは不可能でしょう。山登りに慣れた人でもたどり着けないこの場所に、どこかもわかっていない素人が下りるのですから。

仕方ない。

いつもは人を頭に乗せるなんて絶対にしませんが、竜は女の子を頭に乗せてあげました。そうすれば、近くの村が見えると思ったからです。しかし、見せてあげたその村も女の子にとっては知らない場所のようでした。

「おうちに帰りたい。」

女の子はシクシク泣き出してしまいました。

竜は女の子をすみかにつれて帰ることにしました。可哀想で1人にはしておけなかったのです。

「お腹がすいた・・・」

そう言われて、竜は困りました。なにせ初めて人と話したので、人間が何を食べるのかわかりません。竜自身は食べ物を食べなくても生きていけるので、どれが食べても安全なのかもわかりませんでした。

『あ・・・ちょっと待ってて。』

すみかに女の子を残して、山を少し下りました。確かそこに人間がお供物をしているほこらがあることを思い出したのです。

ほこらに行ってみると、やはり人間の食べ物らしきものが置いてありました。森竜ノ祠と書いてありますが、竜は文字が読めなかったので心の中で謝りながら手に取りました。

すみかに戻ると、食べ物を女の子に渡しました。

「これ、全部食べていいの?あなたは食べないの?」

『僕は食べなくても平気なんだ。だから大丈夫。』

よほどお腹が空いていたのでしょう。女の子はぺろりと、全て平らげてしまいました。

その日の夜、女の子は竜に寄り添って眠りにつきました。竜は1人考えます。

この子をずっとここに置いておくわけにはいかない。でも、彼女1人で山を下りることは不可能だろう。僕が村まで下りていったら大騒ぎになるだろうし、慣れてないから動いた拍子に村を破壊しかねない。たださえ、女の子を踏みつぶさないようにしているのに。

普段、竜は悩むことがありません。考えることも、あまりしてきませんでした。だからどうしたらいいか思いつきません。なので、翌朝に女の子に聞いてみました。

「あなたが小さくなることはできないの?そうすれば、まずはあなたが私を踏みつぶすことはないと思うわ。」

確かにそうだな。

そう思った竜は、やったことはありませんでしたが彼女のように小さくなりたいと願いました。

すると、どうでしょう。
スルスルと小さくなった竜は、女の子と同じくらいの人型になっていました。

「あら、人間になるとあなたはこんな素敵な顔をしていたのね。」

「これで僕が君を踏みつぶすことはなくなった。だけど、君は他の人間と生きたいと思わないのかい?」

「私にとっては近くの村の人も知らない人よ?親しくなれるかもわからない誰かより、あなたと一緒にいたいわ。」

それもそうかもしれない。

そう思った竜は、人型の姿で女の子と暮らすことにしました。

晴れの日は2人で食糧を探す冒険に出かけて、雨の日はすみかで語り合った。
竜は今まで誰かとこんな風に過ごしたことはありません。女の子と過ごして、人の温もりや優しさを知りました。

竜は女の子のために家を作りました。その家はどんなに強い雨が降っても、風が吹いても壊れない頑丈な家でした。

竜は女の子のために何でもしました。
たった1人、自分の元に舞い降りて自分を必要としてくれた人。もう、離れて暮らすなんて考えられなくなっていました。
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