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第3章
ガラスペン
しおりを挟むいつも夜ご飯を食べてる時間を過ぎた。
ご飯を作っているタイミングはまだ明るかったから、遅いなとは思っていたけどまだ帰ってくると思っていた。しかし料理が出来上がって外も暗くなると、だんだん不安になってくる。人攫いにあったんじゃないか、スリにあって帰れないんじゃないか、大怪我したんじゃないか、とか。
慌てて家を出ても、その間に帰ってくるかもしれないとか思うと外に出るかを迷った。
久しぶりに使う魔法だから上手くいくかわからないけど、四の五の言っている場合ではない。
ブティックの裏道に瞬間移動した。
その場所の距離感がわかっていて、頭にきちんとイメージができたら使える魔法。想像した場所に知らない店があったりすると失敗する可能性がある。
上手くいって良かった!
急いでブティックに駆け込む。
「ノア!」
入ってくるなり大声を出した僕に、ノアが慌てて近づいて来た。
「なんだよ?どうしたんだ?」
「アカリが帰って来てないんだ。何か聞いてないか?」
「・・・・・・・・・え?アカリちゃんは今日、ここに来てないぞ?」
ノアが嘘を言っているようには見えない。
「アカリちゃんはいつからいないんだ?」
「朝からだよ。ご飯を食べて、街へ出掛けていった。」
「・・・荷物は?」
「・・・お前、アカリが望んで出て行ったって言ってるのか?」
「その可能性だってあるだろ。」
考えたくはないけど、確かにある。軽装かもしれないが、その可能性を考えたくなかったから部屋を見ていない。
「一度、お前ん家に行こう。ちゃんと確かめてからじゃないと先に進めないだろ。」
ノアが僕の腕を掴む。そのまま店の馬車に無理矢理僕を押し込んで、自分も乗り込んだ。
「こうなるかもしれないって、いつから考えていた?」
「ここ最近だな。違ったらいいなと思ってたよ。」
「なんで・・・」
教えてくれなかった?気づけなかった?
いや、教えられていたら僕はどうした・・・?
後悔ばかり頭に浮かぶ。
家に着いて事実を確認するのが嫌だ。
頭の中で家に行きたくないって思ってるということは、僕もどこかでアカリは自分から出て行ったと思っているんだろう。
嫌われてはないのはわかってた。だからそれに縋りたかった。
「・・・着いたぞ。」
ノアに促されて馬車から降りる。
家からアカリの気配はない。やはり帰ってきていないようだ。
重い足取りでアカリの部屋に向かう。そこに足を踏み入れるのは、彼女と出会ったとき以来だ。
部屋には、まだ彼女の温もりがあった。
机には、刺繍が終わったハンカチが置いてある。クローゼットには服が数枚なくなっていた。
元々ここにいた時間が短いし、物欲のない彼女には自分のものが少なかった。
ガラスペンも置いて行ったのか・・・。
つい最近、彼女が街で買った黒いガラスペン。思わず手に取って握りしめた。
「アカリは、自分から出て行ったみたいだね。」
・・・そうだ、アクセサリーは?ガラスペンと同じ店で買ったやつ。見当たらないってことは、つけて行ったと考えてもいいんだろうか?あの時の僕の気持ちは、まだ受け取ってもらえてると思ってもいいんだよな?
地に足がついてないような気がする。夢を見てるみたいだ。
「・・・少し、1人にさせてくれないか?」
ノアの返答が返ってくるより先に部屋を出た。そして隣の自室へ逃げる。
アカリがいない。でもまだ帰ってくると信じたい。
手にはまだ黒いガラスペンを握ったままでいる。
気休めにもならないかもしれないが、僕のガラスペンと一緒にしまっておこう。
そう思ってペン立てを見たのに、僕のガラスペンがない。
あれ、最後に使ったのはいつだっけ?ちゃんと直したつもりだったんだけどな。
引き出しにもなくて、落ちたのかもと床を見たけどない。リビングを見てみようとして、ドアに目を向けた。
紙?こんなのいつ・・・いや、1人しかいないじゃん。
ドアから紙を剥がして読んだ。
『ガラスペン借りるね。心配かけてごめんね。それから、ありがとう。』
何がごめんねだ。謝るくらいなら出て行くなよ。ありがとうとか言われたら、一生会えないみたいだろ?借りたものはちゃんと返しに来てよ。
涙でインクが滲む。
雫が床に届く頃、僕は意識を手放した。
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