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第3章

アカリの過去

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私は現代日本でOLをしていた。
同期とも先輩ともそれなりに仲良くやっていたし、仕事も上手くこなしている。ある時まではそう思っていた。


きっかけは他部署の同僚が会社の金を横領したことだった。社内ではその噂で持ちきりになった。さらに数日後、その同僚はある女性に貢ぐために横領していたという話が流れた。嘘か本当かもわからないその噂では、その女性もここで働いているとのことだった。

同僚は部署内で真面目でいい人という印象のある男だったらしい。そんな人をたぶらかした女はどの部署のどいつだ!最低の悪女!なんて声が聞こえるくらいには部署内で人望のある人だったらしい。私は名前も聞いたことがない人だったので、気持ち半分に聞き流していた。


ある日、食堂で同じ部署の同期とお昼ご飯を食べいてたときだった。

「ちょっといいかしら?」

綺麗な女性に声をかけられた。

「はい・・・えっと、どうかされましたか?」

背は女性平均より少し高め。黒髪ロングで目は少しつり上がっている。猫目といえばいいのかもしれない。キチッと着こなしたカジュアルなスーツが、彼女の印象をさらにクールに見せていた。歳は私より上だろう。

「あなた、確か経理の人よね?」

「はい、そうですが・・・」

「町田莉央って女も経理にいるわよね?」

「え、えぇ。います。」

町田莉央は1つ下の後輩だった。仕事第一!て感じの子ではないけど、真面目に自分の業務に取り組む子だ。

話しかけてきた女性は少し眉を寄せて、町田の近況を聞いてきた。知り合いという感じではなさそうだし、一体どうしたというのだろうか。

「ここではあまり詳しく話せないの。一緒に話す時間をもらってもいい?」

周りを気にしている彼女を見て、確かに食堂では人も多いしと納得した。あまり人には聞かせられない話なんだろう。

「わかりました。あまり長く時間はとれませんが、それでもよければ。」

「よかった。ありがとう。」

彼女に連れて行かれたのは会社から少し離れたファミレス。それぞれの客が会話しているから、隣のテーブルくらいしか話している内容はわからない。

「それで、話とはなんでしょう?」

「会社で、横領した人がいるって話は知ってる?」

「はい。あたり話したことはないですが、同期でしたので。」

「そう。彼は私と同じ部署だったんだけど・・・。」

え?もしかして町田は関係者なの?

驚いた顔をしてしまっていたのだろう。

「あ、違うのよ。」

私の顔を見た彼女が否定してきた。

「ならば、話が全く見えません。」

「町田さんは言ってみれば証言者ね。彼が女に貢いでたって話は?」

「あぁ、はい。噂で。」

「そこ女って言うのが経理の人らしくて。町田さんは彼が女にアクセサリーを渡しているところを見たらしいわ。上にも報告しているそうなんだけど、この証言がその女の耳に入っていたら町田さんが危ないのでは?と思ったの。」

「その女って、名前はわからないんですか?」

「確か、三村って言ってたわ。」

え、果穂!?

果穂は同期の中でも仲が良く、よく仕事帰りに飲みに行ったりしていた。プライベートで会うこともある。彼女に彼氏がいたなんて聞いたことがないし、そんな影もなかった。

「知ってる人のようね。まぁ、一緒に働いてるんだからそりゃそうよね。」

「三村も同期です。彼女から彼氏がいるなんて話、聞いたことありませんでした。」

「そう・・・。社内恋愛だと、隠す人もいるからね。」

そうかもしれないけど、仲良くしてただけになんだかショックだ。

「これは、ここだけの話にしてね。まだはっきり彼女が貢いでた相手だとはわかってないの。だけど町田さんが心配でね。気にかけてあげてもらえたらと思って。」

「・・・わかりました。」

店員が店の入り口で頼んでいたコーヒーを運んできた。

「ここは私の奢りだから。」

「ありがとうございます。」

突然の情報に頭が糖を欲して、コーヒーにガムシロップを入れた。混ぜると、氷がカランと音を立てる。

「・・・三村さんとは、仲が良かったの?」

「まぁ、同じ部署の同期なので。」

口に含んだコーヒーが苦い。

「あなたには酷な話だったみたいね。ごめんなさい。」

「いえ、本当ならいずれわかることですから。」

向かい側で申し訳なさそうな顔をしている女性は、なぜわざわざ私を選んでこんなことを言ったのだろう。パッと見ただけではその人がどの部署かなんてわからない。ということは、この人は私が経理の人間だとある程度は確信をもだて話しかけてきているはずなのだ。

果穂はどうなるのだろう。
渡されたものが横領したお金で買ったものだと知っていたら、彼女もこの会社にいられない。

なんだか今日はいくらガムシロップを入れても、コーヒーは苦いままな気がした。
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