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第4章
おはよう
しおりを挟むアカリ。・・・アカリ?
・・・もしかして今、泣いてるのかい?
ぼんやりとした視界の中に、アカリの姿はない。でもそこに、しっかりと気配を感じた。
木になった僕は、人間のように首を動かすことができない。腕を伸ばして、君を抱きしめることもできない。
アカリ・・・そっか、帰ってきたんだね。
そんなに泣かないでよ。
涙が腕に落ちてくる感触。静かに鼻を啜る音。時折漏れる声。
胸が締め付けられた。
君が泣いてるのは、僕のせいかな?そうだとしたら、少し嬉しい・・・なんて言ったら、怒る?
でも、やっぱり嫌だなぁ。
だって、折角そばにいるのに抱きしめられない。その瞳から落ちる涙を拭ってあげられない。声をかけてあげることもできない。できないことだらけだ。
前回、僕は長い眠りについた。今回はどうだろう。起きようと思えばできるんだろうか。いつも自然に任せていたから、どうしたらいいかわからない。
『君は起きたいの?』
そうなんだ。大切な人がそばで泣いてるのに、何もできないのは嫌なんだ。
『でもいつか、彼女は君を残してここを去ってしまうじゃないか。』
そうだとしても、彼女は今ここにいるんだ。永遠にそばにいることはできない。でも、ここで別れたら僕はずっと後悔して生きることになる。そんなの、嫌だよ。
『ふぅん。僕にはわからないや。』
わかってもらわなくてもいいさ。
『僕なら、彼女と永遠に一緒にいれるようにしてあげることもできるよ?』
そんなこと、しなくていい。永遠の時に彼女を縛り付けたくない。
『竜だって、永遠に生きるわけじゃない。』
でも人間よりもずっと長生きだ。
『君は自分があとどれくらい生きられるかわかっているのか?』
・・・・・・君は知ってるって言うのか?
『まぁね。知りたい?』
いや、いい。
『知っていた方が、効率的に生きられると思わないか?』
効率的に生きなくていいんだよ。
『無様だね。』
なんだっていいさ。彼女と共にいられるなら。・・・それで、君はこの状況をどうにかできるっていうのか?
『僕はその方法を知ってるだけ。僕にそんな力はない。どうにかするのは君自身だよ。』
・・・どうしたらいい?
『それはね・・・』
★★★
窓から朝日が差している。
あれ。私、いつ眠ったんだっけ?
座ったまま眠ったはずなのに、首も腰も全然痛くない。・・・いや、この体勢は寝転んでる?寝る前に見ていた景色から90度傾いてる。
それにしても、この部屋ってこんなに明るかったっけ?だって、ジェイドが伸ばした植物が窓を覆っていたはず・・・・・・・・・。
「起きた?」
その声を聞いて、飛び起きた。
窓辺にジェイドが座っている。別れた時と寸分違わぬ姿で。
「・・・ジェイド?」
「おはよう、アカリ。」
にっこり笑った顔が、朝日を浴びてキラキラして見えた。
「・・・ねぇ、どうして?」
そう聞くと、彼は少し目を伏せた。
「・・・お腹空いてない?」
「今、それを聞くの?」
「ごめん。」
あまりに気まずそうに言うものだから、目線を外してしまった。そこで自分がどこで寝ていたかわかった。
私はベッドで寝ていたようだった。きっと、ジェイドが運んだんだろう。
「私こそ、ごめんね。」
彼は静かに首を振った。
「アカリが気にすることじゃないさ。」
「でも・・・」
「ほら、朝ごはんを食べに行こう?」
強引に、優しく背中を押されて退室を促される。
私が気にしないようにしてくれているんだろう。
「アカリちゃん、おはよう・・・って・・・。ジェイド!?」
一階へ降りると、朝ごはんを用意していたノアさんがキッチンから顔を出した。
「おはよう、ノア。僕の分もある?」
「あるわけねーだろ。なんでそんなに暢気なんだよ。・・・ちょっと待ってろ。」
複雑そうな顔をしたまま、キッチンへ戻っていく。
「やっさしい!ありがとう!」
「調子良さすぎだろ。・・・ったく。」
「ほらアカリ、座ろう。」
目の前で笑うジェイドを見ていると、やっぱり昨日の光景は嘘だったんじゃないかって、夢だったんじゃないかって、思ってしまった。
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