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第4章
野菜カレー
しおりを挟む「それで?ジェイド、何があったんだよ。」
た朝ごはんを食べている最中、もう待てないとばかりにノアさんが口を開いた。
「・・・・・・(もぐもぐ)」
質問された側のジェイドは何を思っているのか、じーっとノアさんを見ている。
「俺らは聞く権利があると思わないか?俺らが何も気づかずにいると思うか?」
「・・・・・・(もぐもぐもぐ)」
ちょっと可愛いなんて、空気の読めないことを思ってしまったのは秘密。
「・・・・・・(ごくん)。そうだなぁ、僕も感覚的なことしかわからないんだよね。(パクッ、もぐもぐ)」
本当なのか、言えないことでもあるのか。ジェイドは楽しそうにサンドイッチを頬張っている。そんな彼に毒気を抜かれつつあるノアさん。
「はぁ・・・わかった。これだけ聞きたい。お前は人間じゃないんだよな?」
「うん、僕は竜みたいだね。」
「みたいって・・・・・・」
「人がそう呼んでいるだけで、僕は仲間に会った記憶はないし・・・。僕って竜なんだって気づいたのもじいさんに会ってからだよ。」
「・・・そんなもんなのか?」
「少なくとも僕はね。」
嘘をついているようには見えないし・・・実際この目で木になりかけている彼を見てしまったし。人でないのは確かなんだろうけど、現世で竜が木になるなんて聞いたことがないからピンとこない。
「ご馳走様。ありがとう、ノア。ちょっと畑を見てきてもいい?」
「あぁ、無理するなよ。」
裏口から畑に出て行くジェイドを食卓から2人で見送る。そして、パタンとドアが閉まったと同時に顔を見合わせた。
「一件・・・落着なんでしょうか?」
「かな?・・・アカリちゃん、何したの?」
「いいえ、何にも。起きたらあの通りでして。」
本当にお伽話のようにキスをしたり涙が溢れて・・・とか王道な出来事はなかった。泣きはしたけど、それは関係がないような気がした。
「夢だったんじゃないかって、ちょっと思っちゃったりしてます。」
「わからなくもないよ。だって、アレだもんな。」
2人で眉間にシワを寄せて、食事を続けた。
夢みたい。確かにそう思ってるんだけど、どこかまだ終わりじゃない気がしていて・・・。とにかく、胸にしこりが残っている。
ガチャッ
「ノア!僕が寝ている間、畑の面倒を見てくれていたんだね!」
顔と手を少し汚したジェイドが、入り口から大声で声をかけてきた。
「俺は指示しただけで、したのは従業員だ。」
「そうか。でも、ありがとう!従業員の人たちも!」
「伝えておくよ。」
ジェイドは一度畑に戻って行き、野菜と手を洗ってキッチンに戻ってきた。
「じゃあ、俺は店に戻る。誰かさんのせいで穴を開けてるからな。」
「ノアさん、ありがとうございました。」
「こちらこそ。何が心配事があればいつでも連絡して。」
「はい。」
ノアさんが店に戻ってしまうと、途端に静かになった気がした。
2人きりなんて久々だ。唐突にそう思った。
ジェイドはキッチンで採りたての野菜を処理したり、朝ご飯の食器を片付けたりしている。
なんて懐かしいんだろう。そんなに時間は経っていないはずなのに。
「ジェイド、体は大丈夫?」
「んー、そうだな。しばらく動いてなかったから、体が凝り固まっている感じはあるかな。」
しんどいとかはないよ。と柔らかい笑顔で答えてくれる。ありがとう、と。
私は椅子からキッチンにいるジェイドを眺めている。少し離れているからか、一枚の写真のように愛おしい。
なんで離れようと思えたんだろう。もう、私は彼の手を離そうとは思えない。こんな儚い人を置いていけない。側にいてもまだ不安だ。
「お昼は何がいい?あっ、採れたての野菜でカレーでも作ろうか?」
「さっき食べたばっかりだよ?」
「そうだけどさ・・・ほら、美味しそうでしょ?」
手元にあった人参を、私に見せるように手を伸ばしてくれた。
「うん、美味しそう。」
「でしょ?よし、カレーにしよう。」
あんなに心配させられたのに、させたのに、何事もなかったような彼に救われた気がした。
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