深海

都築稔

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サッカーボール④

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部活の練習でミニゲームや紅白戦をする時、必ずと言ってもいいほど私はみんなに貧乏神扱いされた。

「絶対、一緒のチームは嫌だ。」

「やった~!別のチームだ」

「お前はコートで棒立ちになっとけばいいから。動かないで。」

「うっわ、最悪。」

色々と言われた。

試合に負けると「死ね」と言われたこともある。

もちろん、それだけではなかった。

サッカーをしたことがある人はわかるかもしれないが、体を温めるため、基礎練習のために2人組でするアップの一環ですることがある。

私の学年は奇数だったから、いつも私が余った。それでも前までは3人でしようと言ってくれてたのに、頼んでもしてくれないようになった。私も、申し訳ないのと頼みづらいのとでペアになってと言えなくなった。そのうち、誰かが休んで偶数になってもペアをしてくれる人はいなくなった。

私と一緒にいたら、からかいや罵倒の対象になる。

壁に向かってできるものではないけど、練習しないわけにもいかない。少しでも上達しないと現状を脱却できない。私は壁に向かってボールを蹴るようになった。

「ちゃんとアップした?」

私にサッカーの技を教えてくれた男の子が、笑いながら聞いてきた。

「してくれる相手なんていないか。じゃあ壁に向かってしなよ。あぁ!もうしてたか!」

男の子の言葉に、同学年の奴らが笑った。私をサッカーに引き込んだ張本人もすぐ後ろで笑っていた。

あれが1番ショックだったかもしれない。

あの時、調子に乗らずに別の部活に入っていればよかった。この男の言葉を鵜呑みにしなければよかった。こいつが、顔はいいけど裏で弱いものを暴力で黙らせる、嫌なやつだってことはわかってた。

信じちゃいけなかった。

でも、私がもっと努力していればこんなことにはならなかった。


誰にも言えず、苦しい日々が続いた。

ご飯は喉を通らず、母に言われてやっと飲むゼリーと栄養ドリンクを飲む。

そんな生活になるのに、時間はかからなかった。

多分、部活内の人は私がそんな状態になっているとは気づいていなかったと思う。
夏休みだったこともあり、人前で食事する場面がなかったから。

「お願いだから、これだけは口にして。」

そんな母の言葉に、やっとものを口にする。そんな状態だった。

1食分も満足に摂っていない体で、真夏の部活に耐えれるわけがない。

体力づくりのための走り込みは、すぐに吐き気が襲ってきて立ち止まりそうになった。

顧問は最初は他の部員と同じだけ走らせようと声をかけるが、私の様子で「走れない」と訴える私の言葉を聞いてくれた。

私だって本当は走りたい。走り切りたい。でも、もうそんなことができる精神状態でも、体調でもなかった。

「いいよな。女を使えて。俺らはこんなにしんどい思いしてるのに。辛そうにすれば休ませてもらえるもんな。」

「お前こそ走らなきゃいけないんじゃないの?」

聞こえる言葉に唇を噛むしかなかった。

もう、ご飯を食べる体力も気力もなかった。

そんな中、向けられる他の部活の子からの「頑張れ」は苦痛以外の何物でもなかった。

同じグラウンドでは、野球部も陸上部もいるのに、私の様子に気づこうとするものはいなかった。
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