深海

都築稔

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サッカーボール⑤

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この頃になれば、母だって部活で何かあったと嫌でも気づく。
早退してきて、倒れるように座り込む私に食事をすすめる。

申し訳ないと思いながらも、あの場にいなくていいことにホッとしていた。

母は早朝や休みの日に、弟を連れて私をサッカーに誘うようになった。

何かあるのはわかっているが、ただ私が練習して上手くなればどうにかなる状態だと思っていたようだった。

私はと言えば、その頃にはサッカーボールを見るのが怖くなっていた。

体調のせいで練習が思うようにできない、もう数ヶ月経つのに上達しない。悪循環だった。

ほっといて欲しいのに、母は私をサッカーに誘う。

辛かった。

怖い。サッカーボールが怖い。なんだ、こんな程度か、そりゃ虐められるよな。そう思われるのも怖かった。

でも、サッカーボールを見たくない。逃げたい。段々とその気持ちが強くなって、母に打ち明けることにした。

他の兄弟が寝静まって、私と母だけが起きている。そんな日は前から何回かあった。そこを狙った。

「あんた、練習しなかったじゃない。実力に差が出るのは当たり前でしょ。」

最初、辞めたいと母に告げるとそう言われた。

言葉に詰まった。でもこの人を説得しなければ、私はあそこから抜け出せない。

私は一緒にペアを組んでくれる人がいないこと、それでもそうにか練習しようとしてバカにされたこと、先輩の引退試合のこと。もう、サッカーボールを見たくないくらい怖くなっていること。全て話した。

「そんなことになってると思わなかった。」

母はそういうと、もう部活には行かなくていいと言ってくれた。

次の日から部活には行かず、食事をするために病院に通うようになった。
ご飯を食べなさ過ぎて、胃液が胃を攻撃している状態だった。

医者からしばらく胃に優しいものだけしか食べちゃいけないと制限された。今日からこれくらいの期間が経ったらこれを食べていい、という細かいことを書いた紙と薬をもらった。その日から、食事のリハビリを始めた。

夏休みが明ける頃、私は普通に食事ができるようになっていた。そして、母がすぐに連絡を入れたことにより私は部活を辞めることになった。

入った時も女子がサッカー部に入ったと話題になったが、辞めたことも直ぐに知れ渡った。

「なんで辞めちゃったんだよ。応援してたのに。」

唯一、応援を素直に受け取れた男の子は会ってすぐに私に言った。
他の子に「なんで?」と聞かれた時は適当にかわせたのに、その子に対しては申し訳なくなった。

後から知ったのだけど、その子は私がサッカー部に入る原因となった男の子のことが好きで、追いかけて部活に入ったと思っていたらしい。外面がいいので、割と女子に人気のある男の子だったからだろう。

辞めると決めた時、私は親友に電話をした。

実はこんなことがあって、実は学校に行くのが怖くて。何かあったら助けて欲しいと。

なんでもっと早く言わなかったのと怒られたけど、私の力になってくれると言ってくれた。

母に辞めたいと話した時と親友に電話した時。私は初めてこの件で人前で泣くことができた。

サッカー部の奴らはというと、元々部活動中に話すくらいだったので何も言われなかった。

「お前は辞めれていいよな。俺はサッカーしかないから…俺も辞めたいな。」

ただ1人、私にサッカーを教えてくれた男の子が私に言いにきた。

お前が私をバカにした張本人じゃないか。罪の意識は全くないのか。

複雑な気持ちだったが、彼は良くも悪くも自分の気持ちに素直なやつだ。幼稚園の頃からの仲で、性格がわかってるだけに憎めなかった。

そもそも私の行動が招いたことだ。

こうして、私は虐められて辞めたと周知されないままに部活をやめた。

あれから、ストレスが溜まったりお腹が空くと胃が痛くなるという症状に襲われるようになった。

それでも、できるだけポジティブに考えた。

人の優しさに敏感になったから感謝もできるし、こういう時に味方になってくれる人がいるとわかって強くなれた。

同じ立場の人がいたら、必ず助けよう。
そう誓った。



余談として話すと、私が抜けるとその代わりのように他の男の子が嫌味を言われるようになったらしい。私ほど嫌がらせをされたわけではないみたいだけど。

私が後に入った部活に彼らも入部してきて、サッカー部を辞めた理由を聞かれて口籠る彼らを見て悟った。

もちろん、フォローは入れた。

嬉しそうにする彼らを見て満足しただけじゃない。誓いを守ることができた。

あと、私が罪悪感をそんなに抱かなくたって、あいつらは誰かをいじめるような奴らだったんだ。偶然、目立つ私が標的にされただけ。

もちろんそれだけじゃないし、もっと練習していればとも思うけど、過去に縛られる必要はない。そう思えることができるようになった。

あのまま続けれていれば、母が私をサッカーに誘わなければ、私は思い立つことができずに自殺を選んでいたかもしれない。

先輩がはいた「死ね」「邪魔」「いなければいいのに」その言葉通りに。

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