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プロローグ
しおりを挟む「ありがとうございました!」
引越し業者の人たちが、トラックに乗って帰って行く。それを窓を開けて見ていた。
久しぶりに来たこの部屋は、昔も今も変わらない。いや、私自身が大きくなった分、部屋が小さく感じてはいるけど。
祖父母が住んでいた家。定食屋を営んでいた場所。ここから私が生きる場所。
深呼吸を数回。気合を入れた。
早速、段ボール箱を開けて決めた位置へものを収納していく。
ふとアルバムが目にとまった。なんだか懐かしくなってアルバムを見返してみた。個人的なアルバムにも、高校時代までの卒業アルバムにも彼の姿がある。
あの時、私は彼の気持ちを疑った。信じることができなかった。彼は彼なりに私と向き合ってくれていたのに。
戻りたいとは思わない。後悔もしていない。過去に戻っても、私は同じ選択をする。それでも、こんなに切なくなるのはなんでだろうか。
もしあの時、私が彼を選んでいたらどうなっていたんだろう。彼の隣に、今も私は入れただろうか。
自分の気持ちをハッキリとさせないまま、彼の気持ちもハッキリとわからないまま。苦しさから逃げる為に、自分から距離をとった。
私は卑怯だ。臆病者だ。
傷つく勇気もなく、人を愛そうとした。そして怖くなって、自分勝手に逃げた。
それなのに、私は今でも彼の姿を追ってしまう。まだ高校生だったあの頃も、共通の友人経由でSNS上に彼を見かけた。そこで彼が私が行きたいと言っていた場所に別の人と行ったことを知った。逃げたのは自分なのに、悲しい気持ちになる私はずるいね。
泣きそうになって、アルバムを閉じた。
きっと、こんな感傷的になってしまうのはここに戻ってきたからだ。少し怖気づいてるんだろう。
大丈夫。彼は今、ここにいない。
「ダメだ!こんなことしてたら、いつまでも終わらないよね。」
頬を数回叩いて、気持ちを入れ替えた。
アルバムは全部まとめて小さめの段ボールに入れて、押し入れの奥に仕舞った。これで荷解きが終わるまで見ることはないだろう。
桜のほのかな香りが、風に乗って部屋に届いた。
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