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騎士サイドXVI 幕間の終わり
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フェルナンデス皇太子殿下が何者かに狙撃された。
『白薔薇』リーリウム・ウィステリアが何者かに殺害された。
レックス少年は、立て続けに大切な人を奪われた。
両親に加えて、家族のような存在だったであろう三人を殺された。
そしてその犯人は確定しているのに、手を出すことができない。
そうしてすべてを背負って、「レックス少年」は「ドラゴネス・ドゴン十三世」となった。
きっと当時のレックス少年の側にユールが現れていたとしたら、「キミの周りではどんどん大切な人が死んでいくね。まるで死神だ」等と囁いていたに違いない。
様々なものに恵まれた、とても幸せな、活き活きとした世界は、瞬きの間に音を立てて崩れ去り、後に残ったものは、大切な人の屍の上に置かれた玉座だった。
どれほどの悲しみだったろう。どれほどの悔しさだったろう。どれほどの無力感に苛まれたろう。
ユールを上回る最短期間で黒薔薇に登り詰めた彼程の素養を以てしてでも、止められないことはあった。避けられないことがあった。
悔しさに己が身を焦がした夜、レックス少年……いや、陛下はそっと私を抱き締めてくれた。
あれはきっと、いつかの自分を重ねていたのかもしれない。
ユール・タマージュ。
彼の気持ちを完全に理解出来る人間はこの世にはいない。彼はあちら側の存在である。
それでも、私には少しだけ分かる気がするのだ。
『自分よりも遥かに弱くて脆くて愚かな生き物が、どの面を下げて目の前に立っているのか』
『黒薔薇』という騎士の中で、否、この国で最も強い場所に至ってもまだ、彼は飢え渇き、孤独に喘いでいたのではないか。
自分を上回る存在がいないという退屈さ。簡単に読めてしまう先行きへの諦め。そんなものの先にある、破滅願望や破壊願望を感じ取れたように思った。
彼はきっと待っている。
自分と同じように、あちら側に立つ者が現れることを。
そしてその欲望は、この国を喰らい尽くし、いずれ滅ぼすだろう。
我が陛下をも、彼は簡単にその手にかけるだろう。
そんなことを。そんなことをさせるわけにはいかない。
私をそのユールから拾ってくださった陛下を。
陛下が、身の内の紅蓮の炎に灼かれながら守ってきたこの国を、滅ぼさせるわけにはいかない。
ユールは、たとえあの時私を陛下に売り飛ばせなくても、それはそれで構わなかったのではないかと思い至った。陛下と謁見する前、彼の屋敷で私はひとつの「約束事」をした。
『これから先、何があってもキミが売却されない限り、僕のところから逃げることはしない』
契約に縛られ、どこへも行けない私を家族にするために、彼は必要なあらゆる事を叩き込んだだろう。そして私は教えられるがままに、唯唯諾諾とそれに従う。従うとは少しニュアンスが違うかもしれない。家族のために、動くのだ。そういう風に仕込まれる。それは、無自覚で精神的な服従だけれど。
そう考えると、ゾッとした。
早鐘を打つ心臓を宥め透かしながら、これからやらなくてはならないことを必死で考える。
あぁ、陛下。我が君よ。貴方のためならこの命、どこまでも利用し尽くして、奴に裁きを齎しましょう。己が獣を解き放ち、奴の喉笛を喰いちぎりましょう。ヒトを辞め、あちら側へと踏み込みましょう。
陛下、我が君。この命、この体、この魂。爪の一片、髪の一筋に至るまですべて、貴方に捧げます——。
『白薔薇』リーリウム・ウィステリアが何者かに殺害された。
レックス少年は、立て続けに大切な人を奪われた。
両親に加えて、家族のような存在だったであろう三人を殺された。
そしてその犯人は確定しているのに、手を出すことができない。
そうしてすべてを背負って、「レックス少年」は「ドラゴネス・ドゴン十三世」となった。
きっと当時のレックス少年の側にユールが現れていたとしたら、「キミの周りではどんどん大切な人が死んでいくね。まるで死神だ」等と囁いていたに違いない。
様々なものに恵まれた、とても幸せな、活き活きとした世界は、瞬きの間に音を立てて崩れ去り、後に残ったものは、大切な人の屍の上に置かれた玉座だった。
どれほどの悲しみだったろう。どれほどの悔しさだったろう。どれほどの無力感に苛まれたろう。
ユールを上回る最短期間で黒薔薇に登り詰めた彼程の素養を以てしてでも、止められないことはあった。避けられないことがあった。
悔しさに己が身を焦がした夜、レックス少年……いや、陛下はそっと私を抱き締めてくれた。
あれはきっと、いつかの自分を重ねていたのかもしれない。
ユール・タマージュ。
彼の気持ちを完全に理解出来る人間はこの世にはいない。彼はあちら側の存在である。
それでも、私には少しだけ分かる気がするのだ。
『自分よりも遥かに弱くて脆くて愚かな生き物が、どの面を下げて目の前に立っているのか』
『黒薔薇』という騎士の中で、否、この国で最も強い場所に至ってもまだ、彼は飢え渇き、孤独に喘いでいたのではないか。
自分を上回る存在がいないという退屈さ。簡単に読めてしまう先行きへの諦め。そんなものの先にある、破滅願望や破壊願望を感じ取れたように思った。
彼はきっと待っている。
自分と同じように、あちら側に立つ者が現れることを。
そしてその欲望は、この国を喰らい尽くし、いずれ滅ぼすだろう。
我が陛下をも、彼は簡単にその手にかけるだろう。
そんなことを。そんなことをさせるわけにはいかない。
私をそのユールから拾ってくださった陛下を。
陛下が、身の内の紅蓮の炎に灼かれながら守ってきたこの国を、滅ぼさせるわけにはいかない。
ユールは、たとえあの時私を陛下に売り飛ばせなくても、それはそれで構わなかったのではないかと思い至った。陛下と謁見する前、彼の屋敷で私はひとつの「約束事」をした。
『これから先、何があってもキミが売却されない限り、僕のところから逃げることはしない』
契約に縛られ、どこへも行けない私を家族にするために、彼は必要なあらゆる事を叩き込んだだろう。そして私は教えられるがままに、唯唯諾諾とそれに従う。従うとは少しニュアンスが違うかもしれない。家族のために、動くのだ。そういう風に仕込まれる。それは、無自覚で精神的な服従だけれど。
そう考えると、ゾッとした。
早鐘を打つ心臓を宥め透かしながら、これからやらなくてはならないことを必死で考える。
あぁ、陛下。我が君よ。貴方のためならこの命、どこまでも利用し尽くして、奴に裁きを齎しましょう。己が獣を解き放ち、奴の喉笛を喰いちぎりましょう。ヒトを辞め、あちら側へと踏み込みましょう。
陛下、我が君。この命、この体、この魂。爪の一片、髪の一筋に至るまですべて、貴方に捧げます——。
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