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僕の引っ越し
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「あ、はい。怪我とかしてませんか?」
近づくと、少女の胸元から下が見えない。窪みに入ってみたら、予想より深くて出られなくなったというところだろう。
引っ張ってみたが、いまいちだった。清が持参したものといえばペットボトルのみで、スコップになるような太い枝も無い。大人を呼んできた方がいいだろうか。迷った清が窪みの辺りをうろうろしていると、近くに同じような窪みがあった。
こちらは穴にはなっておらず、洞穴に近い。少しの段差を入ってみると、どうやら少女がいる場所と繋がっているようだった。
「あの、聞こえますか」
「聞こえます!」
「こっちと繋がってるみたいです。間が少し狭いけど、君なら大丈夫だと思う」
清が招き寄せ、少女がこちらへ歩く音が聞こえた。屈んで狭そうにはしていたが、無事清のことろまで来ることが出来た。少女の顔が華やかになる。
「出よう」
「はい!」
危なくないよう、少女の手を取って外に出る。
明るい場所で確認してみたが、ところどころ服が汚れているものの怪我している様子はなかった。今時には珍しく、着物のような恰好をしている。大きな丸い瞳がにんまりと細まった。
「有難う御座います」
「いや、全然」
たまたま他の出口を見つけられただけで、腕力では到底助けることは出来なかった。情けなく大人を呼びにいく羽目にならずに済んでほっとした。
「一人でここに来たの?」
「うん。いつもここで遊んでるんだ」
少女はサチと言った。年を聞けば同じ十二歳で、思いがけず同級生の友だちが出来て心が躍った。サチは長い黒髪の瞳が大きな少女で、少しだけ日に焼けていた。
「あっちに小川があるよ」
サチに案内され歩いていくと、ちょろちょろと流れる川があった。覗けば、アメンボが水面を右から左へと滑っていった。
「あはは、魚もいる」
「ちっちゃいけどね」
次に、二人が見上げてもてっぺんが分からないくらいの大木を見にいった。
「御神木?」
「多分。千歳以上のおじいちゃんだって、お母さんが言ってた」
「千歳かぁ、すごい」
清が試しに木に抱き着いてみる。両腕を精いっぱい伸ばしてみても、半分も回らない。くすくす笑いながら、サチも隣で抱き着いた。二人合わせても、あと一歩だった。
「太いな」
「もう少し大きくなったら、二人で御神木に勝てるかも」
「だね」
二人でもっと奥まで行こうとしたところで、ポケットが震えた。
「お母さんからだ。早く帰ってこいって」
「そっかぁ、残念」
肩を落とすサチに清が問いかける。
「ねぇ、連絡先教えてよ。また遊びたい」
サチは緩く首を振った。
「スマホ持ってないの。でも、ここでまた遊ぼ」
「うん、絶対だよ」
サチと指きりをして、清は山を下りた。
来た道を戻り、帰宅する。母が玄関前に立っていた。
「おかえり。一時間も戻らないから心配したよ」
「ごめん、ただいま」
「いいよ。スイカ食べる?」
「食べる!」
庭の横にある畑には、祖父が育てていたという野菜がいくつかなっていて、スイカもその一つだった。
縁側に座り、大きく切られたスイカに齧り付く。口に入った種は庭に向けて飛ばした。都会ではなかなか出来ない。元の家はマンションだったので、種を飛ばす庭すら無かった。
見上げれば、あの山があった。
サチも家に帰った頃だろうか。ここで出来た初めての友だち。また会いたい。清は二個目のスイカに齧り付いた。
近づくと、少女の胸元から下が見えない。窪みに入ってみたら、予想より深くて出られなくなったというところだろう。
引っ張ってみたが、いまいちだった。清が持参したものといえばペットボトルのみで、スコップになるような太い枝も無い。大人を呼んできた方がいいだろうか。迷った清が窪みの辺りをうろうろしていると、近くに同じような窪みがあった。
こちらは穴にはなっておらず、洞穴に近い。少しの段差を入ってみると、どうやら少女がいる場所と繋がっているようだった。
「あの、聞こえますか」
「聞こえます!」
「こっちと繋がってるみたいです。間が少し狭いけど、君なら大丈夫だと思う」
清が招き寄せ、少女がこちらへ歩く音が聞こえた。屈んで狭そうにはしていたが、無事清のことろまで来ることが出来た。少女の顔が華やかになる。
「出よう」
「はい!」
危なくないよう、少女の手を取って外に出る。
明るい場所で確認してみたが、ところどころ服が汚れているものの怪我している様子はなかった。今時には珍しく、着物のような恰好をしている。大きな丸い瞳がにんまりと細まった。
「有難う御座います」
「いや、全然」
たまたま他の出口を見つけられただけで、腕力では到底助けることは出来なかった。情けなく大人を呼びにいく羽目にならずに済んでほっとした。
「一人でここに来たの?」
「うん。いつもここで遊んでるんだ」
少女はサチと言った。年を聞けば同じ十二歳で、思いがけず同級生の友だちが出来て心が躍った。サチは長い黒髪の瞳が大きな少女で、少しだけ日に焼けていた。
「あっちに小川があるよ」
サチに案内され歩いていくと、ちょろちょろと流れる川があった。覗けば、アメンボが水面を右から左へと滑っていった。
「あはは、魚もいる」
「ちっちゃいけどね」
次に、二人が見上げてもてっぺんが分からないくらいの大木を見にいった。
「御神木?」
「多分。千歳以上のおじいちゃんだって、お母さんが言ってた」
「千歳かぁ、すごい」
清が試しに木に抱き着いてみる。両腕を精いっぱい伸ばしてみても、半分も回らない。くすくす笑いながら、サチも隣で抱き着いた。二人合わせても、あと一歩だった。
「太いな」
「もう少し大きくなったら、二人で御神木に勝てるかも」
「だね」
二人でもっと奥まで行こうとしたところで、ポケットが震えた。
「お母さんからだ。早く帰ってこいって」
「そっかぁ、残念」
肩を落とすサチに清が問いかける。
「ねぇ、連絡先教えてよ。また遊びたい」
サチは緩く首を振った。
「スマホ持ってないの。でも、ここでまた遊ぼ」
「うん、絶対だよ」
サチと指きりをして、清は山を下りた。
来た道を戻り、帰宅する。母が玄関前に立っていた。
「おかえり。一時間も戻らないから心配したよ」
「ごめん、ただいま」
「いいよ。スイカ食べる?」
「食べる!」
庭の横にある畑には、祖父が育てていたという野菜がいくつかなっていて、スイカもその一つだった。
縁側に座り、大きく切られたスイカに齧り付く。口に入った種は庭に向けて飛ばした。都会ではなかなか出来ない。元の家はマンションだったので、種を飛ばす庭すら無かった。
見上げれば、あの山があった。
サチも家に帰った頃だろうか。ここで出来た初めての友だち。また会いたい。清は二個目のスイカに齧り付いた。
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