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三森
悩み
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由里子が言葉に詰まる。体ごと美結の方に向き直り、再度尋ねた。
「この家が駄目な理由は聞いた? 自分のお家がいいってことかな?」
「ううん。美結の家以外ならどこでもいいって」
「そう、なの」
思わず顔を顰めそうになるのをぐっと堪える。美結は何も思っていなさそうな物言いだ。こちらがこれ以上言わない方がいいだろう。
「もしかしたら、私たちが引っ越してきたばかりだから遠慮してるのかもね。さ、宿題終わらせよう」
「えぇ~」
「早くしないと、ママ夜ご飯の準備の時間になっちゃうから手伝えないよ」
そう言うと、渋々鉛筆を動かし始めた。由里子が美結の字を見て口を開きかけるが、結局それを飲み込み見守るに留まった。
三十分かかってようやく宿題が終わった。許可を得た美結がゲームに飛びつく。由里子は自身の肩を叩き、大きく伸びをした。
「ちょっと二階見てくるね」
「うん」
廊下に出て階段を上ろうとしたところで、棚に置いていた日焼け止めがまた倒れていることに気が付いた。一度ならず二度も倒れるとは少々違和感を覚える。しかし、解決策があるわけでもなく、今のところはただ元の通りに戻すのみだ。
「パパに相談してみよう」
正志は転勤になったばかりだが、新規事業部の立ち上げを任されている。忙しいと言っていたので家のことを相談することは今までなかったが、問題が大きくなってからでは遅い。
休日出勤になることはまずないので、週末正志にそれとなく尋ねてみることにした。
実のところ、聞きたいことは他にもあった。正章のことだ。
普段はいつもと変わらない様子に見えるが、時折何かを気にする素振りをすることがある。
例えば、廊下を歩くのが早歩きだったり、はたまた天気の良い日に日焼け止めを勧めても頑なに嫌がったり。
家が原因か、他の、例えば学校が原因なのか。年相応の心によるものかもしれない。いずれにせよ、家族のことであるから正志にも共有が必要だ。
「正志、宿題やった?」
「やったよ」
ドア越しに尋ねると、すぐに返事が返ってきた。由里子は部屋に入って宿題を確認することなく一階へと戻る。リビングではまだ美結がゲームに夢中だった。冷蔵庫から食材を取り出し、夕食の準備に取りかかる。
ぶりと大根、それに卵、ほうれん草をキッチンに並べ、時間のかかるものから調理をしていく。あと一時間もすれば正志も帰宅するだろう。
ちょうどご飯炊けたところで、外から車の音がした。続いてドアの鍵が開けられる。一軒家でそれなりの壁の厚さがあっても、庭からの音ともなるとわりと聞こえるものだ。そうすると、窓から見える道路の音も少しは聞こえてよさそうなものだが、日中リビングにいても車の音がすることはほとんど無かった。
「ただいま」
「おかえり。ご飯並べるから、その間に手洗いしちゃって」
「分かった」
二階の正章にも声をかけ、四人揃っての夕食となった。
正志はそれなりに残業がある日もあるが、週の半分は夕食前に帰ることができる。社内での仕事が少ない日はリモートワークも可能な会社なので、役職のある会社員としては比較的余裕のある生活をしている方だろう。
「おお、ぶり大根」
子どもたちの希望を優先して魚の煮物を作ることが少ないため、おかずを見て正志が声を上げる。一方、美結はあからさまにがっかりした顔をさせた。
「えぇ~、給食もお魚だったのに」
「ごめんね。明日はお肉焼くから」
「絶対だよ。こっちの給食お魚の日が多いんだから」
「週に一、二回でしょ。僕は多いと思わないけど」
魚より肉が好きな美結からしてみれば、週に二回ある日は多いと感じるかもしれない。転校時に配られた給食の予定表を見た時、確かに由里子も魚が多めだと正志と話したことを思い出す。
「海が近いから海産物が多く獲れるのよ。新鮮で健康に良いわ」
「健康に良いかどうかは美結に関係無いですぅ」
文句を言いつつも、美結が大口で食べ始めた。BGM代わりにつけたテレビからは地元のニュースが流れている。
「そうそう、柑橘系も有名って聞いたわ」
果物の収穫についてのニュースを観た由里子が呟く。
「今度スーパー寄った時買おうか」
「いいわね」
「美結はお菓子」
「僕はジュースをケースで」
正志の提案に乗っかり、子どもたちも自分の要望をどんどん出す。和やかな雰囲気が家族を包み込んだ。
風呂と就寝準備も終え、子どもたちは自室へ入っていった。
リビングに残された二人はそれぞれゆったりと自分の時間を過ごしている。由里子はタブレットで動画を観ている正志に向いて言った。
「パパ、ちょっといい?」
「いいよ」
タブレットをテーブルに置き、正志が聞く姿勢に入る。
「学校のこと?」
「ううん。多分それは関係無い、と思う」
「どうしたの、歯切れ悪いね」
正志は軽く笑うが、由里子はどうしてもそれに合わせることができない。正志の顔が固くなる。
「何、病気とか」
「大丈夫。そういのじゃなくて、なんて説明すればいいのか……家のことなんだけど」
「家?」
「この家が駄目な理由は聞いた? 自分のお家がいいってことかな?」
「ううん。美結の家以外ならどこでもいいって」
「そう、なの」
思わず顔を顰めそうになるのをぐっと堪える。美結は何も思っていなさそうな物言いだ。こちらがこれ以上言わない方がいいだろう。
「もしかしたら、私たちが引っ越してきたばかりだから遠慮してるのかもね。さ、宿題終わらせよう」
「えぇ~」
「早くしないと、ママ夜ご飯の準備の時間になっちゃうから手伝えないよ」
そう言うと、渋々鉛筆を動かし始めた。由里子が美結の字を見て口を開きかけるが、結局それを飲み込み見守るに留まった。
三十分かかってようやく宿題が終わった。許可を得た美結がゲームに飛びつく。由里子は自身の肩を叩き、大きく伸びをした。
「ちょっと二階見てくるね」
「うん」
廊下に出て階段を上ろうとしたところで、棚に置いていた日焼け止めがまた倒れていることに気が付いた。一度ならず二度も倒れるとは少々違和感を覚える。しかし、解決策があるわけでもなく、今のところはただ元の通りに戻すのみだ。
「パパに相談してみよう」
正志は転勤になったばかりだが、新規事業部の立ち上げを任されている。忙しいと言っていたので家のことを相談することは今までなかったが、問題が大きくなってからでは遅い。
休日出勤になることはまずないので、週末正志にそれとなく尋ねてみることにした。
実のところ、聞きたいことは他にもあった。正章のことだ。
普段はいつもと変わらない様子に見えるが、時折何かを気にする素振りをすることがある。
例えば、廊下を歩くのが早歩きだったり、はたまた天気の良い日に日焼け止めを勧めても頑なに嫌がったり。
家が原因か、他の、例えば学校が原因なのか。年相応の心によるものかもしれない。いずれにせよ、家族のことであるから正志にも共有が必要だ。
「正志、宿題やった?」
「やったよ」
ドア越しに尋ねると、すぐに返事が返ってきた。由里子は部屋に入って宿題を確認することなく一階へと戻る。リビングではまだ美結がゲームに夢中だった。冷蔵庫から食材を取り出し、夕食の準備に取りかかる。
ぶりと大根、それに卵、ほうれん草をキッチンに並べ、時間のかかるものから調理をしていく。あと一時間もすれば正志も帰宅するだろう。
ちょうどご飯炊けたところで、外から車の音がした。続いてドアの鍵が開けられる。一軒家でそれなりの壁の厚さがあっても、庭からの音ともなるとわりと聞こえるものだ。そうすると、窓から見える道路の音も少しは聞こえてよさそうなものだが、日中リビングにいても車の音がすることはほとんど無かった。
「ただいま」
「おかえり。ご飯並べるから、その間に手洗いしちゃって」
「分かった」
二階の正章にも声をかけ、四人揃っての夕食となった。
正志はそれなりに残業がある日もあるが、週の半分は夕食前に帰ることができる。社内での仕事が少ない日はリモートワークも可能な会社なので、役職のある会社員としては比較的余裕のある生活をしている方だろう。
「おお、ぶり大根」
子どもたちの希望を優先して魚の煮物を作ることが少ないため、おかずを見て正志が声を上げる。一方、美結はあからさまにがっかりした顔をさせた。
「えぇ~、給食もお魚だったのに」
「ごめんね。明日はお肉焼くから」
「絶対だよ。こっちの給食お魚の日が多いんだから」
「週に一、二回でしょ。僕は多いと思わないけど」
魚より肉が好きな美結からしてみれば、週に二回ある日は多いと感じるかもしれない。転校時に配られた給食の予定表を見た時、確かに由里子も魚が多めだと正志と話したことを思い出す。
「海が近いから海産物が多く獲れるのよ。新鮮で健康に良いわ」
「健康に良いかどうかは美結に関係無いですぅ」
文句を言いつつも、美結が大口で食べ始めた。BGM代わりにつけたテレビからは地元のニュースが流れている。
「そうそう、柑橘系も有名って聞いたわ」
果物の収穫についてのニュースを観た由里子が呟く。
「今度スーパー寄った時買おうか」
「いいわね」
「美結はお菓子」
「僕はジュースをケースで」
正志の提案に乗っかり、子どもたちも自分の要望をどんどん出す。和やかな雰囲気が家族を包み込んだ。
風呂と就寝準備も終え、子どもたちは自室へ入っていった。
リビングに残された二人はそれぞれゆったりと自分の時間を過ごしている。由里子はタブレットで動画を観ている正志に向いて言った。
「パパ、ちょっといい?」
「いいよ」
タブレットをテーブルに置き、正志が聞く姿勢に入る。
「学校のこと?」
「ううん。多分それは関係無い、と思う」
「どうしたの、歯切れ悪いね」
正志は軽く笑うが、由里子はどうしてもそれに合わせることができない。正志の顔が固くなる。
「何、病気とか」
「大丈夫。そういのじゃなくて、なんて説明すればいいのか……家のことなんだけど」
「家?」
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