幸運な家族

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助けて

町長の確認

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 いつ寝られたのか、何時間寝ることができたのか、由里子が次に気付いた時には朝だった。気絶したと言った方が正しいかもしれない。

 まだ瞑ろうとする目を擦って起き上がる。すっかり明るくなった室内に女の姿は無かった。

「いたッ」

 パジャマが擦れて腹に痛みが走った。確認すると、斜めに赤い線が付いていた。

「何これ、怪我はしてないみたいだけど」

 線をなぞってみたが血は付かない。不思議に思いながらも着替えを済ませる。さて寝室を出ようとしたところで、夜の出来事を思い出した。

 唾を飲み込み、思い切ってドアノブに手をかける。思い切り開けてみると、正章が階段から下りてくるところだった。

「おはよ」
「あらっおはよう」

 由里子が笑って正章に挨拶を返す。廊下は昨夜のことが嘘のように明るかった。

「うわ」
「どうしたの」

 廊下に足を下ろした正章が声を上げる。

「なんかぬるぬるする」
「え、本当?」

 正章が歩いたあたりを由里子も歩いてみる。特別滑ることはなかった。

「特に何も無いけど」
「ほんとだよ。ほら」
「そうかな。後で掃除しておくね」

 手で確かめても、どこかが濡れている様子はなかった。正章に合わせてとりあえずの返事をしておく。正章はリビングに入るまで文句を言っていた。

 昨日の残りの唐揚げにご飯とサラダを付けたして朝食にする。正章も美結もばくばく食べた。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

 敷地の外まで見送り、由里子は一人になった。正志もついさっき車で出勤している。少々嫌な空気を感じるが、朝になり間もなく片山もやってくるので気持ちは軽かった。

 客を出迎えるため、リビングをしっかり掃除する。

『小沢啓太郎さん(三十九)が崖下に転落し、その場で死亡が確認されました』
「ん?」

 テレビで地元のチャンネルを流していたところ、そんなニュースが飛び込んできた。朝食の片付けをしていた由里子の手が止まる。

「あら、この辺じゃない。崖ってどこかしら」

 まだ引っ越してきて一か月、普段の生活範囲以外は散歩をしていないため、はっきりどこだとは判断できない。テレビに近づいて注意深く続きを観る。

『近くには車が残されており、警察は事故と事件の両方で捜査を進めています』
「危ない場所があるなら、子どもたちにも注意しておかないと」

 その時、被害者が乗っていた車の映像が出た。

「田所さんの車もこんな感じだったわ……でも、名前が違うし偶然ね」

 由里子はテレビを消し、テーブルの上を整えて片山の到着を待った。

 間もなくインターフォンが鳴る。玄関に向かいドアを開けると、そこに立っていたのは片山ではなく里原だった。

「宮下さん。どうもお早う御座います。朝からすみません」
「お早う御座います。どうされましたか?」

 里原を始め町民の多くは常に笑顔で積極的に声をかけてくれるが、こうして家まで訪ねてくることはまずない。

「ちっくとばぁ確認したいことがありまして」
「確認ですか」
「まあ、家のことと言いますか……」

 由里子はドアが閉められた自宅を振り返った。ここに初めて人が住み始めたから、不具合がないか聞きに来たのだろうか。

 続きをじっと待っていたら、いつもよりやや引っかかった笑顔を浮かべて里原が言った。

「その、家の中で困ったことはありますか? 例えば、備え付けの棚が壊れたり、とか」
「棚……ですか」

 由里子の頬が強張る。今まさにその中に問題があって一家は困ったことになっている。彼なら町長だから知っているかもしれないと考えていた。由里子は思い切った。

「実は、棚の中から石が──」
「棚を開けたがですか!」

 言い終わる前に里原が叫んだ。彼から笑顔が消えた。空気がぴりぴりと鋭いものに変わる。

「いえ、開けたと言いますか、家でおかしなことが起きるので調べてもらったと言いますか」
「開けたがですね!」
「開けましたよ!」

 我慢ならず、里原より大きな声を上げた。

「貴方、貴方方はご存知だったんですね!?」
「それは……」

 由里子が一歩前に出た。里原が一歩後ずさる。由里子の瞳が滲む。

「あな、あの石の所為で、私たちは……ッ」
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