幸運な家族

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助けて

血溜まりの中

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 込み上げるものを喉の奥に押し込んで、里原に訴えかける。里原は由里子から視線を逸らして弁明した。

「この町を、守りたかったがです」
「それなら、余所者はどうなってもいいとでも?」
「そんなことは! やき、俺たちも忘れんようこうして……!」
「はい、ストップ。そこまでにしましょう」

 いつの間に来たのか、二人の間に片山が割って入った。後ろには片山の白い軽自動車が停まっている。

「片山さん」
「お早う御座います。いきなりすみません、揉めているのが分かったので」
「どなたですか……?」

 里原が怪訝な表情で片山を見つめた。片山がサングラスを外し、愛想笑いを浮かべて答える。

「宮下さんの顔馴染みの者です」
「そうですか。では、私はこの辺で」
「帰らない方がいいと思いますよ。石のことで私も来ましたので」
「な……ッ」

 一歩、二歩と歩き出す里原の腕を片山がやんわり掴む。里原が由里子に視線を送り、やがて諦めた様子で項垂れた。

「さて、ゆっくり事情を聴きたいところですが、とりあえず応急処置だけ先にさせていただきますね」
「お願いします」

 由里子が玄関を開けるが、里原が入ろうとしないので、ドアを開けたままにした。片山が文庫本の場所を見つめる。

「なるほど、染み出ています」
「やっぱりそこの本の場所ですか?」
「というか、ここから見える廊下の範囲全体です。あと、玄関のそこの棚も」
「全体、ですか」

 廊下を見渡して由里子が両手を口元に当てる。素人目では、言われても全く分からない。しかし、昨夜の出来事を考えれば信じるほかなかった。

「今朝までに何か起きましたか」

 片山が尋ねる。由里子が下唇を噛みしめて答えた。

「何からお話ししたらいいか、いろいろ起きました。息子や、今まで視なかった私や主人も、あ、それから朝起きたらお腹に赤い線が付いていたのですが、それも関係あったりしますか?」

「赤い線、ああ、ありますね。ここでしょう?」

 右手の人差し指で腹を斜めに引いて問う。由里子が小さく肯定した。

「彼女は腹を刺されて亡くなったようですから」

 思わず腹を押さえる。後ろで里原が気まずげにガーデニングの畑を眺めていた。

「そ、うですか。治りますよね……?」
「大丈夫です。まだ間に合います」

 手袋をはめ、鞄から鏡と札を取り出し、石を置いた場所に札を貼っていく。片山が件の棚を見つめた。

「こりゃあ、大変だ。予想より漏れるのが早い。何かあったな」

 由里子がおずおずと尋ねた。

「あの、片山さんがご覧になって、今廊下はどうなっていますか?」
「知らない方がいい気がしますけど、そうですね、血で溢れています」
「……ッあ、有難う御座います」

 片山の目には床一面血に濡れた廊下が映し出されている。応急処置をしたため新たに溢れ出すことはないが、これが直ちに無くなるかと問われたら肯定はできない。

「里原さん、でしたか。貴方が持っている情報を全て教えていただけますか」
「は、え、ええと。失礼ですが、貴方は宮下さんのお知り合いということではないのですか?」

「知り合いと言いますか、依頼されて来ました。霊能者と言えば分かりやすいでしょうか」
「霊能者……」

 片山から名刺を渡され、それを凝視する。里原はがっくり肩を落とした。

「分かりました。話すのは私の家でえいですか?」

 由里子と片山が顔を見合わせる。

「今、中に入って団欒はできませんし、お言葉に甘えましょう」
「分かりました」

 里原を先頭に三人は歩き出し、橋を渡って里原の家を目指した。
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