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第一章
短い人生だった
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ぐぅぅ。
「……はっ」
自分の腹の音で目を覚ました。辺りは陽が落ちかかっている。いったいどれだけ寝ていたのだろう。しかし、まだ寝足りない。
もう一度寝ようか迷っていたら、近くから足音が聞こえた。ゆっくりそちらへ顔を向けると大きな狼がいた。リルは死を悟った。
──短い人生だったな。
仰向けになり胸元で手を合わせて目を瞑る。痛みがいっこうにやってこなかった。
「これ、お嬢ちゃん。怪我は無いか?」
いきなり人の声が降ってきて、さすがのリルも目を開けた。長い青髪を一つに束ねた中年の女性がこちらを覗き込んでいる。
「怪我はありません」
上半身を起こして女性の横を見ると、先ほどの狼がばたりと倒れていた。女性に向かって頭を下げる。
「助けていただき有難う御座います」
「おや、礼儀正しいね」
女性がにんまりと笑って言う。
「私はサイ。名前を聞いても?」
「名前は……リルです」
「愛らしい名前だねぇ」
貴族のため名字が存在するが、自分の身分を知らせるのは得策ではないため名前だけ伝えることにした。サイがじろじろとリルを観察する。リルが手を挙げた。
「じゃあ、そろそろ失礼します」
「待て待て」
「なんですか?」
きょとんと首を傾げるリルに、サイが長い息を吐いた。
「そこのウォルフを見ての通り、ここの山には魔物がいる。幼子一人では危険だぞ。保護者はどこだい」
「いません」
──ここには。
本当は父親がいる。顔はよく思い出せないが兄もいる。しかし、逃げてきた身なのでいないも同然だ。
「一人かい。ふむ、仕方ないね。それなら私の家に来なさい」
「え……嫌です」
「何故だい」
「めんど、申し訳ないから」
「今面倒って言ったね!?」
呆れた顔をされたが、リルはいたって真剣だ。神妙に頷くと、サイの表情がさらに崩れた。
「面倒だろうがなんだろうが、小さな子どもを一人置いていくわけにはいかない。私と一緒に来てもらうよ」
「えぇ……」
右手を掴まれ眉間に皺を寄せるが、ウォルフを倒した彼女に抵抗したところで敵うはずはない。がっかりと肩を落とし、仕方なく付いていく。
──お手伝いとか、仕事とかするのかなぁ。
ずんずん進む彼女の背中を見ながら、リルは一日何時間寝られるかだけを考えた。
「……はっ」
自分の腹の音で目を覚ました。辺りは陽が落ちかかっている。いったいどれだけ寝ていたのだろう。しかし、まだ寝足りない。
もう一度寝ようか迷っていたら、近くから足音が聞こえた。ゆっくりそちらへ顔を向けると大きな狼がいた。リルは死を悟った。
──短い人生だったな。
仰向けになり胸元で手を合わせて目を瞑る。痛みがいっこうにやってこなかった。
「これ、お嬢ちゃん。怪我は無いか?」
いきなり人の声が降ってきて、さすがのリルも目を開けた。長い青髪を一つに束ねた中年の女性がこちらを覗き込んでいる。
「怪我はありません」
上半身を起こして女性の横を見ると、先ほどの狼がばたりと倒れていた。女性に向かって頭を下げる。
「助けていただき有難う御座います」
「おや、礼儀正しいね」
女性がにんまりと笑って言う。
「私はサイ。名前を聞いても?」
「名前は……リルです」
「愛らしい名前だねぇ」
貴族のため名字が存在するが、自分の身分を知らせるのは得策ではないため名前だけ伝えることにした。サイがじろじろとリルを観察する。リルが手を挙げた。
「じゃあ、そろそろ失礼します」
「待て待て」
「なんですか?」
きょとんと首を傾げるリルに、サイが長い息を吐いた。
「そこのウォルフを見ての通り、ここの山には魔物がいる。幼子一人では危険だぞ。保護者はどこだい」
「いません」
──ここには。
本当は父親がいる。顔はよく思い出せないが兄もいる。しかし、逃げてきた身なのでいないも同然だ。
「一人かい。ふむ、仕方ないね。それなら私の家に来なさい」
「え……嫌です」
「何故だい」
「めんど、申し訳ないから」
「今面倒って言ったね!?」
呆れた顔をされたが、リルはいたって真剣だ。神妙に頷くと、サイの表情がさらに崩れた。
「面倒だろうがなんだろうが、小さな子どもを一人置いていくわけにはいかない。私と一緒に来てもらうよ」
「えぇ……」
右手を掴まれ眉間に皺を寄せるが、ウォルフを倒した彼女に抵抗したところで敵うはずはない。がっかりと肩を落とし、仕方なく付いていく。
──お手伝いとか、仕事とかするのかなぁ。
ずんずん進む彼女の背中を見ながら、リルは一日何時間寝られるかだけを考えた。
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