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私は転生した
従兄怖い
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こうなったら、犯人を見つけ出し、殺害されるのを阻止する。全力で逃げまくる。国からも追放されたくないのでそちらも阻止する。
――でも、犯人なんて早々見つかるはずないよな。
簡単に見つけ出せるものならば、頭の切れる胡威風本人が序盤で犯人を拷問にかけ、死ぬ方が幸せだと思う苦しみを存分に与えてから、国外にポイ捨てしているだろう。
――地道に探してくしかないか……今がまだ平和な時期ならいいんだけど。それに、俺が胡威風になったんなら、元の胡威風の魂はどこ行ったんだろ。消えたのかな、俺が奪ったとかはないよね……なんかごめん胡威風。
きょろきょろ辺りを見回す。カレンダーなんぞ当然あるはずがない。となると、目の前の男に聞くしか。
――この人の名前なんだっけ。胡威風を阿心呼びする人間は数少ない。中でも年齢の近い男と言えば、おそらく従兄の胡千真だ。
「胡千真、変なことを聞くが、今日は何年の何月何日だろうか」
すると、胡千真が目を丸くして、先ほどのように額に手を当ててきた。
しまった。さすがに怪しすぎた。倒れて頭が混乱している体にしなければ。
「あー、ちょっと記憶が混乱していて」
「呼んでくれないのか?」
「は」
何を呼ぶのだろう。二人での合図か何かか。この男も胡威風の策略に加担しているとか。もしくは女か。原作で女好きという記述は無かったはずだが。せめて転生するなら、今日までの威風の記憶も受け継ぎたかった。
答えが分からず黙っていたら、胡千真の鋭い一重がさらに細まる。
「何故だ」
「いや」
「何故、呼んでくれない……お兄ちゃんと。約束だろう、二人きりの時はきちんとお兄ちゃんと呼びなさい」
――知~~~~らねえよ!!
千真がこんなキャラだなんて知らなかった。小説にはこのようなシーンは無かったので、作者の裏設定かもしれない。知りたくなかった。
「お……お兄ちゃん」
「真お兄ちゃんだ」
「真おにいちゃん……」
「よし」
ようやく胡千真が満足そうに頷いた。なにこれ。いくら従兄弟同士でも、わりと寒気がする。彼は一人っ子なのだろうか。とりあえず呼び方なんぞどうでもいいから、質問に答えてほしい。
「それで今日は」
「栄栄二十年、四月十五日。これでいいか」
「うん。ありがとう」
「随分と疲れているようだ。ゆっくり休め」
「はい」
胡千真が出ていき、胡威風は長い息を吐いた。大の字に倒れ込み、ごろごろと転がる。さすがは将軍自室の寝台。広くて寝心地が良い。布団を抱きしめながら思う。
「日付は確認出来たけど……全然分からなかった」
そう、全く分からなかった。なにせ「大下克上記」を購入したばかりで、この小説は無駄に設定が細かく、人物も多い。異世界であるのに漢字表記だから名前が覚えやすいと思いきや、日本語読みではないためこれまた難しい。だから、年代や日にちなどが後回しになっていた。激しく後悔した。
「えぇ~……俺、いつ死ぬの? 明日? 違うよね。とにかく、何かイベントが起きるか誰かと接触しなくちゃダメだ」
先ほどのような原作に無い会話では判断が出来ない。誰か、例えば胡威風が虐めていた相手に会えば分かるかもしれない。
「虐めてる相手か。沢山いるだろ。そういえば、俺って原作通りのスキル持ってるのかな。持ってないと冷徹将軍なんてやってられないよ」
その瞬間、暗闇で見たあの文字が空間に浮かび上がった。今度は明るい場所なので、黒字である。親切設計だ。
[胡威風
レベル:2
法術師レベル:7
聖人レベル:-9999999
悪人レベル:9999999
装備:剣「清洗」 ]
――見たことない桁数出た!!
思わず目を擦ってもう一度確認する。変わらない。
まず、レベル2。これは総合的なレベルなのだろう。転生した時点でリセットされたらしい。仕方がない。法術師レベルも仕方がない。これは胡威風の先天的才能に期待して、修行し直せばいい。問題は聖人レベルと悪人レベルだ。これはまずい。しかもリセットされていない。原作の胡威風を恨みたい。そしてこんなレベルの種類初めて見た。いろいろ最悪だ。
「この二つを逆転させないと、殺されイベント発動しちゃったりして」
ピンポン!
軽快な音が頭に鳴り響いた。
「もしかして意思疎通出来んの!? ならいっそしゃべって!?」
無視された。
話せないのか話さないのか。意思はあるのか。考えても無駄だ。胡威風は立ち上がった。
――適当に歩いて時期が分かるイベントを起こす! ……の前に。
寝台の上で胡坐を掻き、丹がるであろう位置に両手を置く。丹を所持したことがないので、そのあたりは適当だ。胡威風は瞑想を始めることにした。
さっさとイベントを起こして状況を把握したいのは山々だが、如何せんレベルが低すぎる。こんな新人兵にも片手でポイされるレベルでは、イベントを起こした瞬間死亡するなんてこともあるかもしれない。本当は霊験あらたかな場所で修行に励みたいが、まずはそこまで行くための最低限を引き上げておかなければ。
瞑想でどの程度上がるかは分からない。全体のレベルは期待出来ないが、法術師の方には繋がるはず。それを信じて、静かに目を閉じた。
――でも、犯人なんて早々見つかるはずないよな。
簡単に見つけ出せるものならば、頭の切れる胡威風本人が序盤で犯人を拷問にかけ、死ぬ方が幸せだと思う苦しみを存分に与えてから、国外にポイ捨てしているだろう。
――地道に探してくしかないか……今がまだ平和な時期ならいいんだけど。それに、俺が胡威風になったんなら、元の胡威風の魂はどこ行ったんだろ。消えたのかな、俺が奪ったとかはないよね……なんかごめん胡威風。
きょろきょろ辺りを見回す。カレンダーなんぞ当然あるはずがない。となると、目の前の男に聞くしか。
――この人の名前なんだっけ。胡威風を阿心呼びする人間は数少ない。中でも年齢の近い男と言えば、おそらく従兄の胡千真だ。
「胡千真、変なことを聞くが、今日は何年の何月何日だろうか」
すると、胡千真が目を丸くして、先ほどのように額に手を当ててきた。
しまった。さすがに怪しすぎた。倒れて頭が混乱している体にしなければ。
「あー、ちょっと記憶が混乱していて」
「呼んでくれないのか?」
「は」
何を呼ぶのだろう。二人での合図か何かか。この男も胡威風の策略に加担しているとか。もしくは女か。原作で女好きという記述は無かったはずだが。せめて転生するなら、今日までの威風の記憶も受け継ぎたかった。
答えが分からず黙っていたら、胡千真の鋭い一重がさらに細まる。
「何故だ」
「いや」
「何故、呼んでくれない……お兄ちゃんと。約束だろう、二人きりの時はきちんとお兄ちゃんと呼びなさい」
――知~~~~らねえよ!!
千真がこんなキャラだなんて知らなかった。小説にはこのようなシーンは無かったので、作者の裏設定かもしれない。知りたくなかった。
「お……お兄ちゃん」
「真お兄ちゃんだ」
「真おにいちゃん……」
「よし」
ようやく胡千真が満足そうに頷いた。なにこれ。いくら従兄弟同士でも、わりと寒気がする。彼は一人っ子なのだろうか。とりあえず呼び方なんぞどうでもいいから、質問に答えてほしい。
「それで今日は」
「栄栄二十年、四月十五日。これでいいか」
「うん。ありがとう」
「随分と疲れているようだ。ゆっくり休め」
「はい」
胡千真が出ていき、胡威風は長い息を吐いた。大の字に倒れ込み、ごろごろと転がる。さすがは将軍自室の寝台。広くて寝心地が良い。布団を抱きしめながら思う。
「日付は確認出来たけど……全然分からなかった」
そう、全く分からなかった。なにせ「大下克上記」を購入したばかりで、この小説は無駄に設定が細かく、人物も多い。異世界であるのに漢字表記だから名前が覚えやすいと思いきや、日本語読みではないためこれまた難しい。だから、年代や日にちなどが後回しになっていた。激しく後悔した。
「えぇ~……俺、いつ死ぬの? 明日? 違うよね。とにかく、何かイベントが起きるか誰かと接触しなくちゃダメだ」
先ほどのような原作に無い会話では判断が出来ない。誰か、例えば胡威風が虐めていた相手に会えば分かるかもしれない。
「虐めてる相手か。沢山いるだろ。そういえば、俺って原作通りのスキル持ってるのかな。持ってないと冷徹将軍なんてやってられないよ」
その瞬間、暗闇で見たあの文字が空間に浮かび上がった。今度は明るい場所なので、黒字である。親切設計だ。
[胡威風
レベル:2
法術師レベル:7
聖人レベル:-9999999
悪人レベル:9999999
装備:剣「清洗」 ]
――見たことない桁数出た!!
思わず目を擦ってもう一度確認する。変わらない。
まず、レベル2。これは総合的なレベルなのだろう。転生した時点でリセットされたらしい。仕方がない。法術師レベルも仕方がない。これは胡威風の先天的才能に期待して、修行し直せばいい。問題は聖人レベルと悪人レベルだ。これはまずい。しかもリセットされていない。原作の胡威風を恨みたい。そしてこんなレベルの種類初めて見た。いろいろ最悪だ。
「この二つを逆転させないと、殺されイベント発動しちゃったりして」
ピンポン!
軽快な音が頭に鳴り響いた。
「もしかして意思疎通出来んの!? ならいっそしゃべって!?」
無視された。
話せないのか話さないのか。意思はあるのか。考えても無駄だ。胡威風は立ち上がった。
――適当に歩いて時期が分かるイベントを起こす! ……の前に。
寝台の上で胡坐を掻き、丹がるであろう位置に両手を置く。丹を所持したことがないので、そのあたりは適当だ。胡威風は瞑想を始めることにした。
さっさとイベントを起こして状況を把握したいのは山々だが、如何せんレベルが低すぎる。こんな新人兵にも片手でポイされるレベルでは、イベントを起こした瞬間死亡するなんてこともあるかもしれない。本当は霊験あらたかな場所で修行に励みたいが、まずはそこまで行くための最低限を引き上げておかなければ。
瞑想でどの程度上がるかは分からない。全体のレベルは期待出来ないが、法術師の方には繋がるはず。それを信じて、静かに目を閉じた。
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