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私は転生した

後ろめたくも帰還します

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「――ふぁ」

 急に意識が浮上する。変な声が出てしまい顔が熱くなるが、誰もいない洞窟だったと胸を撫で下ろす。どれくらい経っただろうか。洞窟の外へ出て、顔の熱が一気に引いた。

「や、やべ……」

 すっかり陽は傾き、そろそろ暗くなる時間帯になっていた。一時間どころか四時間は経っているのではなかろうか。慌てて剣に乗り、王宮を目指した。

 いつ王都に入ったすら分からない。王宮が目の前まで見え、下りようと清洗の高度を低くしていけば、なんと武装した軍の人間がわらわらといた。胡威風フー・ウェイフォンを見とめた数人が叫び声を上げる。出来ればこのまま素通りしたいが、そうもいかない。胡威風は観念した。

「胡威風将軍!」
「大将軍! 東将軍が戻られました!」
「ひぇ……っ」

 胡威風の小さな悲鳴は幸運にも軍団の大声に掻き消され、地面に下りたった頃には全員に囲まれることとなった。

――えぇ~なになに! すごい大ごとになってる! もしかしなくても、俺の帰りが遅かったから、とか……?

 冷や汗が止まらない。体が冷えて風邪を引きそうだ。内心大パニックになっていると、むさ苦しい男たちの中から、ひと際大きな大将軍と、その後ろに顔を腫らして大号泣する陳雷チェン・レイが現れた。

「大将軍、陳雷……」
「胡威風!」
「胡威ふぉ、しょ、ぐんん……!」

 宋強追ソン・ジァンヂュイの圧がすごい。上背も厚みもあるのだから、その辺を考慮して距離を詰めてほしい。陳雷に至っては名前すら言えていなかった。

「無事であったか! 陳雷から龍魔神と一人で戦っていると報告を受けて、その場まで行ってみたのだがいなくて心配していたのだ」

 きっと帰りが遅く、応援に駆けつけてくれたのだろう。暑苦しいが、部下想いの良い男だ。実は瞑想にハマって寝ていただなんて、口が裂けても言えやしない。

「飛行して戦っていたので、場所が陳雷を逃がした所から離れてしまったのです。心配をかけました」
「いやいや、五体満足で帰ってきてくれただけで十分だ。あの魔神と一人きりでの戦闘、さぞや辛かっただろう。さあ、中に入ってゆっくり休んでくれ」
「はい」

 まだ泣いている陳雷を慰めようと、彼の頭を撫でてから門をくぐる。陳雷は余計に泣き始めた。よく分からないので放っておくことにした。





「ふわぁぁぁ~~~~~」

 半日振りに自室の寝台を堪能する。まだ転生一日目だというのにとんだ目に遭った。あの時龍魔神が気まぐれを起こしてくれなかったら、確実に殺されていた。転生一日で死亡なんて笑えないにも程がある。

 このまま眠ってしまいたい。そう思ったが、何時間も瞑想をしつつ昼寝した後なので、一向に眠気はやってこない。疲れているのに眠れない。悪循環である。

「そうだ! 夜ご飯とお風呂に入ろう!」

 特に食事は行きに饅頭を食べたきりだ。さっそく自室を出て廊下を進む。食堂はどこだろうか。なんとなく良い匂いがするので、そちらへ向かうことにした。

 途中で宮女に出会った。思わず目が行く。だって仕方がない。可愛いのだから仕方がない。

 先ほど取り囲まれた男の群れに、今日会えた女は怖いフラグが立ってしまった宋猫猫ソン・マオマオと、顔もよく見えなかった彼女のお付き宮女のみ。癒しとはこれのことか。宮女が頬を染めた。

「胡威風将軍……」

――これはもしや……この人すでに胡威風のお手つきだったり、する? いやいやいや、でも、うん。いやいや。

 一歩近づかれ、一歩後ずさる。扇子で顔を隠す。胡威風はよく扇子を仰いでいたが、表情を隠すことが出来て非常に便利だ。

「あの」
「だめだ!」

 表情と態度で理解した。完全に二人は上司部下だけの関係ではない。宮女の肩に手を置き、胡威風は首を横に振った。

「貴方の体を大事にしなさい」

 それだけ伝えて彼女から離れる。振り返ることはしない。過去の胡威風に囚われては、大悪人街道を突き進むだけだ。彼の反対をしなくては。

 ティロリロリロリ~~~~~~ン!

「うわっ」
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