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私は精進する

新人法術師

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 新兵に各将軍が挨拶をしたところで今日の業務は終了した。彼らはこれから先輩たちにここでの生活を教えてもらうことになっており、将軍の出番は無い。

 これから何をしよう。瞑想をしようか。しかし、ここ最近瞑想しても大したレベルアップにはならなくなってきた。瞑想のみで上がる位置を超えたのだろう。嬉しいやら難しいやら。

 実践を積まなければならないと思うと頭が重いが、避けられないことなので受け入れるしかない。

 鍛錬場で一人剣の技術を磨いていると、胡千真がやってきた。ひらひら手を振られ、そちらを振り向く。

「分かったか?」
「ああ。うちの軍だったよ」
「あれが?」

 言っては悪いが、目立たない、頼りない方だった。あれが優秀な法術師だったとは。人は見かけによらないということか。

──たいていは見た目とそう変わらないものだけど、この世界は全然違うな。北将軍もそうだし。

「名前は?」
「なんだったか……胡氏の人間ではなかった」

 胡千真でも知らないということは親戚ではないということだ。しかも、今の胡威風が呼び寄せた人物になるので、元の話では出てこない人間である。何気なく行動したことだが、思いがけず絶対犯人ではない人物を増やすことが出来た。

 胡氏二人と顔を合わせたことがないので味方をしてくれるのかは分からなくても、脅威にならないことが判明しただけいい。今まで敵に囲まれている気分で過ごしていたので、ようやく息が吐けた。

「今日は気分が良い。散歩しよ」

 窓から見える満月を間近で見たくて廊下に出る。食堂の近くを通ったところで新兵軍団に遭遇した。胡威風の出で立ちを確認して理解したのか、慌てて拱手される。その背後からとことこ一人の男が歩いてきた。例の法術師だ。

「胡威風将軍で御座いますか」
「そうだが」
「こちらを胡氏より預かっております。お受け取りください」
「ああ、すまない」

 丁寧に拱手して男は軍団の中に戻っていった。

 渡されたのは手紙だった。何か知らせることがあるのかもしれない。服の裾に差し込み散歩を続ける。

 それにしても、近くで見たらさらに頼りなさそうだった。周りが体躯の良い者たちだったから余計だった。

「どれどれ、なんて書かれてるんだろ」

 部屋に戻ってから中身を確認する。そこにはたまには帰ってきてほしい旨と、なるべく大人しそうで優秀な者を派遣したと書かれていた。

「おお、さすが胡威風の家族。胡威風のことを分かってるなぁ」

 きっと、優秀さだけを求めたら胡威風と衝突すると考えたのだろう。胡威風を立派に育て上げただけある。
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