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処刑宣告
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「セリーナ、お前のような穢れた存在を聖女にしてはおけない。処刑する!」
国王の声が厳かに響く。
私は驚きで言葉が出なかった。
この国は数人の聖女によって守られる小さな国。孤児だったところを神官長に拾われた私は、聖女として懸命に国に仕えていたはずだった。
今日も国の未来を占い、豊穣の祈りを捧げるはずだったのに。急に国王に招集を受け、礼拝堂に集められて。
(処刑、って……どうして……)
国王は続ける。
「我が娘であり聖女であるイザベラの占いにより、お前が国を揺るがす悪しき魔女だとわかった」
国王の隣に立つのはイザベラ姫。聖女としての同僚で、この国の唯一の姫だった。
碧眼に長い金髪、気品に満ちた姿はまさに王女としての麗しさを放っている。聖女として質素な白のドレスに身を包む私とは対象に、彼女は今日は姫として華やかな赤いドレスを着ていた。
最初は、彼女とは同世代の聖女同士として仲良くやっていきたいと思っていた。
けれど、私が孤児だったことが嫌だったのか……冷ややかな罵倒は何度も浴びせられたし、笑顔なんてみたこともない。
明らかに嫌われているとはわかっていた。けれど、こんなことになるなんて。
聖女の占いはかなり信用性が高く、有用な情報として扱われる。姫でもある彼女が私を魔女と言ったのならそれはほぼ真実……よくて追放、悪くて処刑なんてことは簡単に推察できる。
「私は悪しき魔女などではございません。私はただ、聖女として人々を助けることを願っているだけです」
私は精一杯反論した。国王に反論するなんていくら聖女でもあまり褒められたことはないけれど、かといってこのままイザベラに国を任せて死ぬなんて嫌。
しかし、誰も私を信じてくれる様子はない。いつも優しい神官長は何も言わないし、いろいろ教えてくれたおばあちゃん聖女、マイアはいつもと違ってなにかが削げ落ちたような無表情で私たちを見つめている。
(みんなの様子がおかしい……)
本来は聖女たちの祈りで爽やかで神聖な雰囲気が漂っているはずのこの礼拝堂が、今はどこか陰鬱で淀んでいる気がする。
イザベラは口角を吊り上げて私をあざ笑った。
「セリーナ、あなた最近力が落ちていたものね。悪魔にすら縋りたかったのかしら」
(そんなことない、むしろ頼りになるようになったってみんな言ってくれてたじゃない!)
「セリーナ、あなた前から不真面目なところがあったわね。がっかりよ」
マイアおばあちゃんはさっきと同じで、何を考えているのかわからない表情をしていた。
やっぱりおかしい。私は真面目にお祈りをしていたし、おばあちゃんはこんな表情をする人じゃない。
「マイア様もイザベラ様もいらっしゃる。国の為に、貴方はいない方がいいのです」
神官長は、どこか無機質につぶやいた。やっぱり違う、皆がこんなこと言うはずがない。
私はただただ立ちすくむしかなかった。自分がどうしたらいいのかわからなくて、ただ泣きたい気持ちを堪えているだけ。
(イザベラが嘘をついているはずなのに、皆がこんなこと言うはずないのに……どうしたらいいの)
思った以上に、みんなの異様な様子に呑まれているのかもしれない。何を言おうとしても口が全然動かなかった。
「じゃ、セリーナを連れて行ってね」
イザベラがそう言うと、数人の騎士たちが動き出した。このまま私は連れていかれ、あっさり処刑されてしまうのかな。
(もう、それでいいんじゃない……?)
諦めかけた時、突然声が響いた。
「待ってください!」
突然、声が聞こえた。振り向くと、少し離れたところに見知らぬ男性が立っていた。黒いローブを着ているところからすると、宮廷魔法使いだろうか。
フードをかぶっており、陰鬱な雰囲気が漂っているけれど、その緑の瞳は鋭かった。
国王を初めとし、この場の人々はみんな淀んだ瞳をしていたから、彼の瞳はやけに輝いて見えた。
(この人は……?)
「聖女、セリーナ様は無実です。彼女は絶対魔女などではありません!」
私は驚きのあまり、彼の言葉にただただ目を見張った。
(この人はどうして、私を信じてくれるの?)
みんな信じてくれなかったのに。
「お前、何者だ!」
私が驚きでなにも話せない中、いちはやく動き出したのは騎士たちだった。
私を取り押さえるはずだった騎士たちの中で数人が、青年の元に向かったけど、彼は魔法で空中に浮かび、その場を脱出した。
「<スリープ>」
私の周囲に残る騎士たちに向かって、なにかをつぶやく。その瞬間、騎士たちはあっさりとその場に伏した。
空中に浮いたまま、謎の青年は私の目の前までやってくる。
「ちょっと! なにやってるの! その男を捕らえなさい!」
イザベラの叫びが聞こえた。なぜか神官たちが動き出し、取り囲まれそうになる。
「セリーナ様、私は貴方の味方です。貴方を助けに来たんです。とにかく、この状況はまずい。私とともに来ていただけないでしょうか」
彼は少し余裕がないようだった。早口で、焦りが見える。
(どうしよう、なんで味方してくれるのかもわからないし、そもそもついていっていいの? 怪しい気がする……)
でも、このままここにいたって。
イザベラは私のことを本当に捕まえさせる気だし、神官長もマイアおばあちゃんもみんな様子がおかしい。このままだと本当に処刑されるかもしれない。
「わかりました。あなたについていきます」
国王の声が厳かに響く。
私は驚きで言葉が出なかった。
この国は数人の聖女によって守られる小さな国。孤児だったところを神官長に拾われた私は、聖女として懸命に国に仕えていたはずだった。
今日も国の未来を占い、豊穣の祈りを捧げるはずだったのに。急に国王に招集を受け、礼拝堂に集められて。
(処刑、って……どうして……)
国王は続ける。
「我が娘であり聖女であるイザベラの占いにより、お前が国を揺るがす悪しき魔女だとわかった」
国王の隣に立つのはイザベラ姫。聖女としての同僚で、この国の唯一の姫だった。
碧眼に長い金髪、気品に満ちた姿はまさに王女としての麗しさを放っている。聖女として質素な白のドレスに身を包む私とは対象に、彼女は今日は姫として華やかな赤いドレスを着ていた。
最初は、彼女とは同世代の聖女同士として仲良くやっていきたいと思っていた。
けれど、私が孤児だったことが嫌だったのか……冷ややかな罵倒は何度も浴びせられたし、笑顔なんてみたこともない。
明らかに嫌われているとはわかっていた。けれど、こんなことになるなんて。
聖女の占いはかなり信用性が高く、有用な情報として扱われる。姫でもある彼女が私を魔女と言ったのならそれはほぼ真実……よくて追放、悪くて処刑なんてことは簡単に推察できる。
「私は悪しき魔女などではございません。私はただ、聖女として人々を助けることを願っているだけです」
私は精一杯反論した。国王に反論するなんていくら聖女でもあまり褒められたことはないけれど、かといってこのままイザベラに国を任せて死ぬなんて嫌。
しかし、誰も私を信じてくれる様子はない。いつも優しい神官長は何も言わないし、いろいろ教えてくれたおばあちゃん聖女、マイアはいつもと違ってなにかが削げ落ちたような無表情で私たちを見つめている。
(みんなの様子がおかしい……)
本来は聖女たちの祈りで爽やかで神聖な雰囲気が漂っているはずのこの礼拝堂が、今はどこか陰鬱で淀んでいる気がする。
イザベラは口角を吊り上げて私をあざ笑った。
「セリーナ、あなた最近力が落ちていたものね。悪魔にすら縋りたかったのかしら」
(そんなことない、むしろ頼りになるようになったってみんな言ってくれてたじゃない!)
「セリーナ、あなた前から不真面目なところがあったわね。がっかりよ」
マイアおばあちゃんはさっきと同じで、何を考えているのかわからない表情をしていた。
やっぱりおかしい。私は真面目にお祈りをしていたし、おばあちゃんはこんな表情をする人じゃない。
「マイア様もイザベラ様もいらっしゃる。国の為に、貴方はいない方がいいのです」
神官長は、どこか無機質につぶやいた。やっぱり違う、皆がこんなこと言うはずがない。
私はただただ立ちすくむしかなかった。自分がどうしたらいいのかわからなくて、ただ泣きたい気持ちを堪えているだけ。
(イザベラが嘘をついているはずなのに、皆がこんなこと言うはずないのに……どうしたらいいの)
思った以上に、みんなの異様な様子に呑まれているのかもしれない。何を言おうとしても口が全然動かなかった。
「じゃ、セリーナを連れて行ってね」
イザベラがそう言うと、数人の騎士たちが動き出した。このまま私は連れていかれ、あっさり処刑されてしまうのかな。
(もう、それでいいんじゃない……?)
諦めかけた時、突然声が響いた。
「待ってください!」
突然、声が聞こえた。振り向くと、少し離れたところに見知らぬ男性が立っていた。黒いローブを着ているところからすると、宮廷魔法使いだろうか。
フードをかぶっており、陰鬱な雰囲気が漂っているけれど、その緑の瞳は鋭かった。
国王を初めとし、この場の人々はみんな淀んだ瞳をしていたから、彼の瞳はやけに輝いて見えた。
(この人は……?)
「聖女、セリーナ様は無実です。彼女は絶対魔女などではありません!」
私は驚きのあまり、彼の言葉にただただ目を見張った。
(この人はどうして、私を信じてくれるの?)
みんな信じてくれなかったのに。
「お前、何者だ!」
私が驚きでなにも話せない中、いちはやく動き出したのは騎士たちだった。
私を取り押さえるはずだった騎士たちの中で数人が、青年の元に向かったけど、彼は魔法で空中に浮かび、その場を脱出した。
「<スリープ>」
私の周囲に残る騎士たちに向かって、なにかをつぶやく。その瞬間、騎士たちはあっさりとその場に伏した。
空中に浮いたまま、謎の青年は私の目の前までやってくる。
「ちょっと! なにやってるの! その男を捕らえなさい!」
イザベラの叫びが聞こえた。なぜか神官たちが動き出し、取り囲まれそうになる。
「セリーナ様、私は貴方の味方です。貴方を助けに来たんです。とにかく、この状況はまずい。私とともに来ていただけないでしょうか」
彼は少し余裕がないようだった。早口で、焦りが見える。
(どうしよう、なんで味方してくれるのかもわからないし、そもそもついていっていいの? 怪しい気がする……)
でも、このままここにいたって。
イザベラは私のことを本当に捕まえさせる気だし、神官長もマイアおばあちゃんもみんな様子がおかしい。このままだと本当に処刑されるかもしれない。
「わかりました。あなたについていきます」
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