5 / 9
魅了解除の第一手
しおりを挟む
あれから数十分話し合い、そろそろ夜になりそうな頃。私たちは礼拝堂の近くに転移していた。
(最初に魅了を解除するならマイアおばあちゃんしかいない。マイアおばあちゃんは最近力が落ちていたって言っていたけれど……一度かかった悪魔の魔法は聖女なら弾ける。マイアおばあちゃんに手伝ってもらえれば……!)
「護衛騎士が二人、神官が四名いますね。恐らく全員魅了されています」
ルシウスが影から現れる。影を伝って中の様子を確認してくれたらしい。
「マイアおばあちゃんの目の前に転移したとして、魅了解除が間に合うか……」
「大丈夫、騎士たちなら僕が多少なら抑えられます。……大丈夫ですか?」
ルシウスがためらいながら見つめてくる。
心配をかけてしまったかもしれない。
(マイアおばあちゃん……)
隠しているつもりだったけれど、手が震えていたのがわかった。
今朝のマイアおばあちゃんの様子が頭から離れなかった。虚ろな表情で、普段なら絶対に言わないことを言って。
「すみません。大丈夫です。転移お願いします」
「……はい! 行きます」
大丈夫。すぐ魅了を解くから。まだ頭にこびりつくおばあちゃんの顔をどうにかして振り切り、ルシウスさんの手を取った。
転移が終了する。目を開けるとすぐにマイアおばあちゃんがいた。後ろから鋭い声が聞こえてくる。
「あれは……! 魔女です! 捕まえてください!」
神官の叫び声に呼応し、足音が聞こえてくる。
「セリーナ様、マイア様のの魅了を解いてください!」
はっとして私は祈りを捧げる。目を開き、未だ虚ろなマイアおばあちゃんの瞳を見つめた。
蜂蜜のようなオレンジの瞳。なんの光も感じられないこの瞳はおばあちゃんの瞳じゃない。
「聖なる力よ!」
そう叫び、私の周囲を光で包む。
ぎゅっと目をつぶる。心地よい温かさに包まれ、恐る恐る目を開くと、眼前に懐かしいマイアおばあちゃんがいた。
私を抱きしめていたおばあちゃんは、昔のように優しく頭を撫でてくれる。
「セリーナ。無様な姿を見せてしまったわね。本当にごめんなさい。そしてありがとう」
「おばあちゃん……!」
私とマイアおばあちゃんは別に血がつながっているわけじゃない。
ただ、孤児だった私は幼いころに聖なる力を発現させてすぐ宮廷内の教会に引き取られたから……先輩聖女のマイア様が娘や孫のように可愛がってくれたというだけ。
けれど、いろいろ教えてくれて、時には刺繍を教えてくれたり、お茶会を開いていろいろお話してくれたおばあちゃんが私は大好きだった。
おばあちゃんは私の後ろ、まだ洗脳されている騎士や神官たちと、それを抑えるルシウスに目を向ける。
「まだまだ聖女現役よ。さあ、皆さん起きてくださいな」
おばあちゃんが軽く目を閉じ、礼拝堂に聖なる力を漂わせる。その力によって、周囲の神官たちや騎士たちも次々と正気を取り戻していった。
「マイア様……それに、セリーナ様!」
「我々は一体何を……」
神官たちがその場に立ち尽くす。影に魔力を這わせ動きを止めていたらしいルシウスさんは安堵の溜息をついた。
「あら、あなた。セオドアとエマの子かしら? ごめんなさいね、ご迷惑をかけてしまって。それから、あのときセリーナを保護してくれたわよね? 本当にありがとう」
おばあちゃんが話しかけたのはルシウスだった。
(セオドアさんとエマさんって、小さいころまでおばあちゃんの身の回りのことをやっていた神官とメイドの人じゃない! ルシウスさんのご両親だったんだ……)
「き、恐縮です!」
「あらあら、照れ屋さんねえ~」
うふふ、と笑うマイアおばあちゃん。元のおばあちゃんが帰ってきたんだって強く実感する。
(それにしても、照れ屋って。いや、確かにルシウスさんはそんな感じするけど……)
「そうだ、おばあちゃん。この状況をなんとかしたいんです。手伝ってもらえませんか?」
「ふふ、もちろん。セリーナのためですもの」
そして、おばあちゃんは神官たちに声をかけた。
「貴方たちにも手伝ってもらいますよ。ここからが勝負です」
(最初に魅了を解除するならマイアおばあちゃんしかいない。マイアおばあちゃんは最近力が落ちていたって言っていたけれど……一度かかった悪魔の魔法は聖女なら弾ける。マイアおばあちゃんに手伝ってもらえれば……!)
「護衛騎士が二人、神官が四名いますね。恐らく全員魅了されています」
ルシウスが影から現れる。影を伝って中の様子を確認してくれたらしい。
「マイアおばあちゃんの目の前に転移したとして、魅了解除が間に合うか……」
「大丈夫、騎士たちなら僕が多少なら抑えられます。……大丈夫ですか?」
ルシウスがためらいながら見つめてくる。
心配をかけてしまったかもしれない。
(マイアおばあちゃん……)
隠しているつもりだったけれど、手が震えていたのがわかった。
今朝のマイアおばあちゃんの様子が頭から離れなかった。虚ろな表情で、普段なら絶対に言わないことを言って。
「すみません。大丈夫です。転移お願いします」
「……はい! 行きます」
大丈夫。すぐ魅了を解くから。まだ頭にこびりつくおばあちゃんの顔をどうにかして振り切り、ルシウスさんの手を取った。
転移が終了する。目を開けるとすぐにマイアおばあちゃんがいた。後ろから鋭い声が聞こえてくる。
「あれは……! 魔女です! 捕まえてください!」
神官の叫び声に呼応し、足音が聞こえてくる。
「セリーナ様、マイア様のの魅了を解いてください!」
はっとして私は祈りを捧げる。目を開き、未だ虚ろなマイアおばあちゃんの瞳を見つめた。
蜂蜜のようなオレンジの瞳。なんの光も感じられないこの瞳はおばあちゃんの瞳じゃない。
「聖なる力よ!」
そう叫び、私の周囲を光で包む。
ぎゅっと目をつぶる。心地よい温かさに包まれ、恐る恐る目を開くと、眼前に懐かしいマイアおばあちゃんがいた。
私を抱きしめていたおばあちゃんは、昔のように優しく頭を撫でてくれる。
「セリーナ。無様な姿を見せてしまったわね。本当にごめんなさい。そしてありがとう」
「おばあちゃん……!」
私とマイアおばあちゃんは別に血がつながっているわけじゃない。
ただ、孤児だった私は幼いころに聖なる力を発現させてすぐ宮廷内の教会に引き取られたから……先輩聖女のマイア様が娘や孫のように可愛がってくれたというだけ。
けれど、いろいろ教えてくれて、時には刺繍を教えてくれたり、お茶会を開いていろいろお話してくれたおばあちゃんが私は大好きだった。
おばあちゃんは私の後ろ、まだ洗脳されている騎士や神官たちと、それを抑えるルシウスに目を向ける。
「まだまだ聖女現役よ。さあ、皆さん起きてくださいな」
おばあちゃんが軽く目を閉じ、礼拝堂に聖なる力を漂わせる。その力によって、周囲の神官たちや騎士たちも次々と正気を取り戻していった。
「マイア様……それに、セリーナ様!」
「我々は一体何を……」
神官たちがその場に立ち尽くす。影に魔力を這わせ動きを止めていたらしいルシウスさんは安堵の溜息をついた。
「あら、あなた。セオドアとエマの子かしら? ごめんなさいね、ご迷惑をかけてしまって。それから、あのときセリーナを保護してくれたわよね? 本当にありがとう」
おばあちゃんが話しかけたのはルシウスだった。
(セオドアさんとエマさんって、小さいころまでおばあちゃんの身の回りのことをやっていた神官とメイドの人じゃない! ルシウスさんのご両親だったんだ……)
「き、恐縮です!」
「あらあら、照れ屋さんねえ~」
うふふ、と笑うマイアおばあちゃん。元のおばあちゃんが帰ってきたんだって強く実感する。
(それにしても、照れ屋って。いや、確かにルシウスさんはそんな感じするけど……)
「そうだ、おばあちゃん。この状況をなんとかしたいんです。手伝ってもらえませんか?」
「ふふ、もちろん。セリーナのためですもの」
そして、おばあちゃんは神官たちに声をかけた。
「貴方たちにも手伝ってもらいますよ。ここからが勝負です」
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?
時
恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。
しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。
追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。
フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。
ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。
記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。
一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた──
※小説家になろうにも投稿しています
いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!
偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」
婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。
罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。
それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。
しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。
「どんな場所でも、私は生きていける」
打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。
これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。
国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。
妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】
小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」
私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。
退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?
案の定、シャノーラはよく理解していなかった。
聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる