[完結]姫聖女に恨まれ冤罪で処刑宣告された聖女と嫌われ者の優しい魔術師の処刑回避作戦

雨宮ユウリ

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魅了解除の第一手

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あれから数十分話し合い、そろそろ夜になりそうな頃。私たちは礼拝堂の近くに転移していた。

(最初に魅了を解除するならマイアおばあちゃんしかいない。マイアおばあちゃんは最近力が落ちていたって言っていたけれど……一度かかった悪魔の魔法は聖女なら弾ける。マイアおばあちゃんに手伝ってもらえれば……!)

「護衛騎士が二人、神官が四名いますね。恐らく全員魅了されています」

ルシウスが影から現れる。影を伝って中の様子を確認してくれたらしい。

「マイアおばあちゃんの目の前に転移したとして、魅了解除が間に合うか……」

「大丈夫、騎士たちなら僕が多少なら抑えられます。……大丈夫ですか?」

ルシウスがためらいながら見つめてくる。

心配をかけてしまったかもしれない。

(マイアおばあちゃん……)

隠しているつもりだったけれど、手が震えていたのがわかった。

今朝のマイアおばあちゃんの様子が頭から離れなかった。虚ろな表情で、普段なら絶対に言わないことを言って。

「すみません。大丈夫です。転移お願いします」

「……はい! 行きます」

大丈夫。すぐ魅了を解くから。まだ頭にこびりつくおばあちゃんの顔をどうにかして振り切り、ルシウスさんの手を取った。

転移が終了する。目を開けるとすぐにマイアおばあちゃんがいた。後ろから鋭い声が聞こえてくる。

「あれは……! 魔女です! 捕まえてください!」

神官の叫び声に呼応し、足音が聞こえてくる。

「セリーナ様、マイア様のの魅了を解いてください!」

はっとして私は祈りを捧げる。目を開き、未だ虚ろなマイアおばあちゃんの瞳を見つめた。

蜂蜜のようなオレンジの瞳。なんの光も感じられないこの瞳はおばあちゃんの瞳じゃない。

「聖なる力よ!」

そう叫び、私の周囲を光で包む。

ぎゅっと目をつぶる。心地よい温かさに包まれ、恐る恐る目を開くと、眼前に懐かしいマイアおばあちゃんがいた。

私を抱きしめていたおばあちゃんは、昔のように優しく頭を撫でてくれる。

「セリーナ。無様な姿を見せてしまったわね。本当にごめんなさい。そしてありがとう」

「おばあちゃん……!」

私とマイアおばあちゃんは別に血がつながっているわけじゃない。

ただ、孤児だった私は幼いころに聖なる力を発現させてすぐ宮廷内の教会に引き取られたから……先輩聖女のマイア様が娘や孫のように可愛がってくれたというだけ。

けれど、いろいろ教えてくれて、時には刺繍を教えてくれたり、お茶会を開いていろいろお話してくれたおばあちゃんが私は大好きだった。

おばあちゃんは私の後ろ、まだ洗脳されている騎士や神官たちと、それを抑えるルシウスに目を向ける。

「まだまだ聖女現役よ。さあ、皆さん起きてくださいな」

おばあちゃんが軽く目を閉じ、礼拝堂に聖なる力を漂わせる。その力によって、周囲の神官たちや騎士たちも次々と正気を取り戻していった。

「マイア様……それに、セリーナ様!」

「我々は一体何を……」

神官たちがその場に立ち尽くす。影に魔力を這わせ動きを止めていたらしいルシウスさんは安堵の溜息をついた。
 
「あら、あなた。セオドアとエマの子かしら? ごめんなさいね、ご迷惑をかけてしまって。それから、あのときセリーナを保護してくれたわよね? 本当にありがとう」

おばあちゃんが話しかけたのはルシウスだった。

(セオドアさんとエマさんって、小さいころまでおばあちゃんの身の回りのことをやっていた神官とメイドの人じゃない! ルシウスさんのご両親だったんだ……)

「き、恐縮です!」

「あらあら、照れ屋さんねえ~」

うふふ、と笑うマイアおばあちゃん。元のおばあちゃんが帰ってきたんだって強く実感する。

(それにしても、照れ屋って。いや、確かにルシウスさんはそんな感じするけど……)

「そうだ、おばあちゃん。この状況をなんとかしたいんです。手伝ってもらえませんか?」

「ふふ、もちろん。セリーナのためですもの」

そして、おばあちゃんは神官たちに声をかけた。

「貴方たちにも手伝ってもらいますよ。ここからが勝負です」
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