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2章 商人の悪意
5 商人ルドルフの悪意
夜になって、私たちは近場の街で一晩を過ごすことになった。ガルシアまではこの調子であと二日くらいはかかるとヒューゴは言っていた。
この街にはヒューゴは何回か来たことがあるらしい。私はガルシア方面はあまり行ったことがなかったけど……。馴染みの宿屋があるらしく、今日もそこに泊まる予定なんだって。
エドワードのパーティにいた時には、徒歩移動や野宿が多めだったから、馬車での移動に宿で休めるなんて新鮮だった。商人はこういう旅の方が主流らしいけど。
(そういえば、エリカは野宿や長距離歩くのが苦手だったわね……。特に野宿は嫌がってたかも。拠点にしている街以外だとあんまり宿も取りにくいんだけど)
みんなは今頃どうしているのかな。それこそ、無駄なメンバーも減ったことだし、エリカが望むように別の街で宿を取っているのかもしれない。
「クレア? どうかしましたか」
街中を歩きながら考え込んでしまったみたいだ。
「ううん、なんでもないの。上の空でごめん、護衛なのに」
「いいえ、いいんです。追放されてまだ心の整理ができていない貴方を護衛にとお願いしたのは私ですから」
ヒューゴはこうして優しいけど、今のままじゃ宿も馬車も提供されるだけの働きはできてないな……。
頭を振って、エリカのことを考えるのを辞めた。
そうしてしばらく歩くと、宿につく。夕食を取れる食事スペースが大きく、旅人たちが情報を共有し合えるようになっているらしい。
ヒューゴは部屋を二つ取り、先に夕食の手配をするように頼んでいた。そのまま、食事スペースに通される。
ローズマリーやタイムがまぶされた獣肉を切り分けながら、今後の計画について聞いていると、ふと見知らぬ顔が近づいてくるのがわかった。
「ヒューゴくん、お久しぶりですな。こんなところでお会いするなんて、何かの縁ですかな」
30、40代ほどだろうか。髭を蓄え、でっぷりと太った男性だった。あまり顔や手に戦いの跡も見られないし、ヒューゴの知り合いの商人かもしれない。
「ルドルフさん。お久しぶりですね」
ヒューゴは完璧な笑みで返した。
「ヒューゴくん、元気そうで安心したよ。最近噂を聞かないものだから……。商売はうまくいっているのかね?」
「おや、ご心配をおかけしていたようですね、ルドルフさん。おかげさまで、順調ですよ。ルドルフさんもますますご活躍のようで、見習わねばと思っています」
「そうかね、そうかね。いやあ、今日もこの街の料亭と大口契約がとれてね。金が捨てるほどあるくらいだよ。……ところで、そちらのお嬢さんは?」
ルドルフという名らしい商人は、そこでようやく私の方へ視線をやった。
(なんというか……商人ってこういう会話が普通なの? ルドルフって人、顔だけ笑顔だけどなんか胡散臭いというか……嫌味っぽいというか)
「ヒューゴ様の護衛をさせていただいております、クレアと申します」
とりあえず、護衛として挨拶はしておくべきだろうと判断し、一礼をする。
ヒューゴはさっきから完璧な商人モードなようだし、私が隙を作る訳には行かない。
「ほう、そうかそうか。こんなかわいいお嬢さんと旅ができるなんて、商売もはかどりそうですなあ!」
その言葉に、警戒心を強める。ルドルフは私を護衛じゃなくて、愛らしいマスコットか、使用人か。そういうものだとして見ている目をしていた。
何か言い返したいところだけど立場があるし……。唇を噛みしめる。
「ええ。クレアさんにはいつも助けられてばかりなんです。高い能力をお持ちですから」
「はっは、羨ましい限りです。 ああ、いけない。明日も商談があるんでした。では、わしはここで」
ヒューゴの返答が気に食わなかったのか、あからさまに眉をぴくぴくとさせたルドルフは、足早に去っていく。
(<アナライズ>)
私は心の中で鑑定魔法を発動させた。対象は去っていくルドルフだ。鑑定魔法は視界内に対象が見えている必要がある。
……冒険者同士でも、諍いが起こることは多い。それこそ私が追放されたことだって、他人から見たらよくある冒険者の揉め事の一つだ。
報酬の取り分とか、交友関係、異性関係などで揉めがちな冒険者は、明け透けな暴言や喧嘩、たまに呪いなどで対立が表面化することが多かった。
商人の場合はさっきのような嫌味ったらしい言葉の応酬になったりするのかもしれない。詳しいことはわからないが、一応敵意のあるなしだけは確認しておいた方がいい気がする。
脳内に流れ込む情報を精査する。
ルドルフ・ブルック、45歳。所持金は……あまりない?商品は香辛料、薬草?今まさに食卓に出されているローズマリーもあった。
ヒューゴとは2年ほど前からの付き合い。現在抱いている感情はルドルフに、嫉妬、敵意……?
ドロドロとした黒い感情が視界を覆い尽くすような幻覚を見る。
対面に座るヒューゴや、さっきまで手をつけていた肉、スープも何もかも、視界内全てが覆われる。
「……っ」
人にアナライズするとこれがいけない。魔法の発動を中止し、深呼吸をした。
アナライズを人に行うと、その人が今抱いている欲望や感情を直接浴びてしまうのだ。
(多少の敵意は想定内だったけど、想像以上に嫉妬心が強い……。ネチネチ嫌味を言いながら笑顔を作る余裕があったのは、商人としての慣れというところかな)
「クレア、すみません。不快な思いをさせて。彼はルドルフ。数年前に知り合った香辛料取引の商人なんです。以前から、傲慢な側面はあったのですが……」
私の深呼吸を、思いっきり見下してくる不躾な商人が去ったことによるものだと思ったのか、ヒューゴが心配そうに私を見つめた。
「別に、いいのに。私は護衛なんだし」
「護衛だからと言って、あのような振る舞い……」
まぁ、確かにちょっとイラっとはしたけど。どちらかというと、このような経験ならヒューゴの方が苦しめられてきたはずだ。
冒険者も商人も、ああやって年嵩の者が未熟な若者に大きな顔をしがちなのは共通している。私は出会った時点でそこそこ経験のあったエドワード、ナンシーたちに守られていたけど……。
ヒューゴは何故か後ろ盾もなく一人でやっていたはずだから、さっきみたいな不躾な対応を取られがちだったはずだ。
その度に笑顔で流していたらしいけど。
溜息をつくヒューゴを見つつ、私はさっきのアナライズ情報で一つ引っかかったものがあったのを思い出した。
たくさんの薬草や香辛料の情報が頭の中に流れてきていた。ルドルフが所持しているもの……。香辛料の商人だからといっても、明らかに所持しているはずのないもの。
ベラドンナの根。それは、明らかな毒物、だった。
この街にはヒューゴは何回か来たことがあるらしい。私はガルシア方面はあまり行ったことがなかったけど……。馴染みの宿屋があるらしく、今日もそこに泊まる予定なんだって。
エドワードのパーティにいた時には、徒歩移動や野宿が多めだったから、馬車での移動に宿で休めるなんて新鮮だった。商人はこういう旅の方が主流らしいけど。
(そういえば、エリカは野宿や長距離歩くのが苦手だったわね……。特に野宿は嫌がってたかも。拠点にしている街以外だとあんまり宿も取りにくいんだけど)
みんなは今頃どうしているのかな。それこそ、無駄なメンバーも減ったことだし、エリカが望むように別の街で宿を取っているのかもしれない。
「クレア? どうかしましたか」
街中を歩きながら考え込んでしまったみたいだ。
「ううん、なんでもないの。上の空でごめん、護衛なのに」
「いいえ、いいんです。追放されてまだ心の整理ができていない貴方を護衛にとお願いしたのは私ですから」
ヒューゴはこうして優しいけど、今のままじゃ宿も馬車も提供されるだけの働きはできてないな……。
頭を振って、エリカのことを考えるのを辞めた。
そうしてしばらく歩くと、宿につく。夕食を取れる食事スペースが大きく、旅人たちが情報を共有し合えるようになっているらしい。
ヒューゴは部屋を二つ取り、先に夕食の手配をするように頼んでいた。そのまま、食事スペースに通される。
ローズマリーやタイムがまぶされた獣肉を切り分けながら、今後の計画について聞いていると、ふと見知らぬ顔が近づいてくるのがわかった。
「ヒューゴくん、お久しぶりですな。こんなところでお会いするなんて、何かの縁ですかな」
30、40代ほどだろうか。髭を蓄え、でっぷりと太った男性だった。あまり顔や手に戦いの跡も見られないし、ヒューゴの知り合いの商人かもしれない。
「ルドルフさん。お久しぶりですね」
ヒューゴは完璧な笑みで返した。
「ヒューゴくん、元気そうで安心したよ。最近噂を聞かないものだから……。商売はうまくいっているのかね?」
「おや、ご心配をおかけしていたようですね、ルドルフさん。おかげさまで、順調ですよ。ルドルフさんもますますご活躍のようで、見習わねばと思っています」
「そうかね、そうかね。いやあ、今日もこの街の料亭と大口契約がとれてね。金が捨てるほどあるくらいだよ。……ところで、そちらのお嬢さんは?」
ルドルフという名らしい商人は、そこでようやく私の方へ視線をやった。
(なんというか……商人ってこういう会話が普通なの? ルドルフって人、顔だけ笑顔だけどなんか胡散臭いというか……嫌味っぽいというか)
「ヒューゴ様の護衛をさせていただいております、クレアと申します」
とりあえず、護衛として挨拶はしておくべきだろうと判断し、一礼をする。
ヒューゴはさっきから完璧な商人モードなようだし、私が隙を作る訳には行かない。
「ほう、そうかそうか。こんなかわいいお嬢さんと旅ができるなんて、商売もはかどりそうですなあ!」
その言葉に、警戒心を強める。ルドルフは私を護衛じゃなくて、愛らしいマスコットか、使用人か。そういうものだとして見ている目をしていた。
何か言い返したいところだけど立場があるし……。唇を噛みしめる。
「ええ。クレアさんにはいつも助けられてばかりなんです。高い能力をお持ちですから」
「はっは、羨ましい限りです。 ああ、いけない。明日も商談があるんでした。では、わしはここで」
ヒューゴの返答が気に食わなかったのか、あからさまに眉をぴくぴくとさせたルドルフは、足早に去っていく。
(<アナライズ>)
私は心の中で鑑定魔法を発動させた。対象は去っていくルドルフだ。鑑定魔法は視界内に対象が見えている必要がある。
……冒険者同士でも、諍いが起こることは多い。それこそ私が追放されたことだって、他人から見たらよくある冒険者の揉め事の一つだ。
報酬の取り分とか、交友関係、異性関係などで揉めがちな冒険者は、明け透けな暴言や喧嘩、たまに呪いなどで対立が表面化することが多かった。
商人の場合はさっきのような嫌味ったらしい言葉の応酬になったりするのかもしれない。詳しいことはわからないが、一応敵意のあるなしだけは確認しておいた方がいい気がする。
脳内に流れ込む情報を精査する。
ルドルフ・ブルック、45歳。所持金は……あまりない?商品は香辛料、薬草?今まさに食卓に出されているローズマリーもあった。
ヒューゴとは2年ほど前からの付き合い。現在抱いている感情はルドルフに、嫉妬、敵意……?
ドロドロとした黒い感情が視界を覆い尽くすような幻覚を見る。
対面に座るヒューゴや、さっきまで手をつけていた肉、スープも何もかも、視界内全てが覆われる。
「……っ」
人にアナライズするとこれがいけない。魔法の発動を中止し、深呼吸をした。
アナライズを人に行うと、その人が今抱いている欲望や感情を直接浴びてしまうのだ。
(多少の敵意は想定内だったけど、想像以上に嫉妬心が強い……。ネチネチ嫌味を言いながら笑顔を作る余裕があったのは、商人としての慣れというところかな)
「クレア、すみません。不快な思いをさせて。彼はルドルフ。数年前に知り合った香辛料取引の商人なんです。以前から、傲慢な側面はあったのですが……」
私の深呼吸を、思いっきり見下してくる不躾な商人が去ったことによるものだと思ったのか、ヒューゴが心配そうに私を見つめた。
「別に、いいのに。私は護衛なんだし」
「護衛だからと言って、あのような振る舞い……」
まぁ、確かにちょっとイラっとはしたけど。どちらかというと、このような経験ならヒューゴの方が苦しめられてきたはずだ。
冒険者も商人も、ああやって年嵩の者が未熟な若者に大きな顔をしがちなのは共通している。私は出会った時点でそこそこ経験のあったエドワード、ナンシーたちに守られていたけど……。
ヒューゴは何故か後ろ盾もなく一人でやっていたはずだから、さっきみたいな不躾な対応を取られがちだったはずだ。
その度に笑顔で流していたらしいけど。
溜息をつくヒューゴを見つつ、私はさっきのアナライズ情報で一つ引っかかったものがあったのを思い出した。
たくさんの薬草や香辛料の情報が頭の中に流れてきていた。ルドルフが所持しているもの……。香辛料の商人だからといっても、明らかに所持しているはずのないもの。
ベラドンナの根。それは、明らかな毒物、だった。
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