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ペアなんです!

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 不毛な争いのあと、世界に残ったのは《無》だけでした。 
 何もない虚空な暗闇、生命の産まれない深淵アビス。憐れんだ女神様は自らを繭に閉じ込め大地に成りました。 
 
 女神様の大地アルーディア。災害のない温暖な気候。豊かな実りを与える肥沃な土壌。 
今日こんにち、多種多様な種族が生存出来るのは、全て女神様のおかげなのです。 
 女神様は繭の中、悪魔も天使も人間もエルフもドワーフもゴブリンも鬼人も……数多の種族が平和に共存繁栄する理想郷を夢見続けているのです。
 
 女神様は言いました―――愛し合いなさい、お互いを慈しむ心が私を大地を満たし潤すのです。 
  
(絵本・女神様の繭より)
 
 
 ◇◇◇  
 
 
 私が通う学園シンフォニアは大陸のほぼ中央にあり、大体14~18歳の位の多種多様な種族の男女が学んでいます。学年、クラスは座学、魔力、能力、種族のバランス等を考慮して編成されています。私はAクラス。座学は常に上位です。地味で真面目そうな見た目を心がけているので、毎年委員長(誰もやりたがらない)を押し付けられてます。
 学園は種族間の習慣や認識の違いによるトラブルは日常茶飯事なので、困りものです。その度に委員会として仲裁に駆り出されます……ううっ、今日も胃が痛い。
  
  
 魔王くんと勇者くんののあと、騒ぎを聞き付けたメデューサ校長先生が沈静化に来られ、私がする予定だった文化祭の代替えの催しの説明をしてくれました。

「今年は、近々開園予定の遊園地ドリミアコクーンを貸し切りにしてハロウィーンを楽しみます。まずは学生の皆さんで、ハロウィーン仕様に遊園地を飾り付けをしてもらいます!」 
「ドリミアコクーンって魔王くんのお父さんの会社が建設中の?」  
 同級生が魔王くんを振り返ります。居心地の悪そうに肩を竦める魔王くん。 
「そうです!魔王くんのお父さん様にご協力頂きありがたいことですわ!」 
 魔王くんのお父さん大魔王ディーンはアルーディアに娯楽施設を次々に建設運営するやり手の社長さんです。 
 アルーディア国会に存在する政治団体の一つ、魔王党の現党首です。魔王くんに聞いた所、お父さんは人々の心を掌握するには、まず娯楽からだと語っているそうです。
 
「催し当日は好きなハロウィーン衣装で決められた異性のペアと共に遊園地のアトラクションを巡り、ゲームポイントを集めて競ってもらいます。時間は朝から夕刻までです。 
 ゲームポイントの他に飛躍的に上昇しやすい謎ポイントを設定していますので、ゲームが苦手な生徒は、これを推理し上手く利用すれば面白いようにポイントが上がりますよ。 
 そして這え有る1位のペアには、ドリミアコクーンの年間フリーパスと学食無料券が一年分貰える特典付きです!!」 

『おおーっっ!!!』
 校長先生の説明に教室がどよめきに包まれました。確かに話題の遊園地も美味しい学食も魅力的すぎます!
 
「校長先生!質問です!」 
 先ほどまで荒れていたはずの千家くんが手を上げました。目がイキイキしています。 
「どうぞ!発言を許可します」 
「ペ、ペアは……希望を考慮して頂けるのでしょうか?」 
 
 ごくり――っと、誰かの唾を飲み込む音が聞こえます。高ポイントを狙うならペアが大事ですし、どうせなら好きな異性と組みたいと思うのが心情というもの……。 
 皆さんきっと、エルフのイーチェカちゃんとか、勇者くんと組みたいのでしょう。 
 地味な私は残りそうです。はあっと私は小さくため息を付きました。私だって大好きな魔王くんと組みたいものです。 
 チラッと盗み見すると、魔王くんと目が合ってしまいました! 
 ばっと慌てて目を反らします。 
 あわわ、もしかして見てるってバレましたか?セーフですか? 
 心の中で葛藤していると、校長先生の笑い声が響きました。  
「うふふ、生徒の皆さんの考えが手に取るようにわかりますよ!女神様も言っておられます愛し合いなさいと………しかし、全ての皆さんが満足する要望には答えられないのが現状です。 
 後日、ペアを希望する相手を記入する用紙を配りますので各自担任まで、提出して下さい。相手の希望が余りにも偏るようでしたら、能力、相性を踏まえて職員一同で決めさせて頂きますのでご了承下さいね」
 皆さん期待と不安が要り組んだ表情で校長先生の話を聞きました。



◇◇◇ 
 
 
  
 長い長い木造の廊下を山盛りのプリント(ペア記入用紙)を持って歩きます。皆さんの希望です!落とさないようにと気合いを入れた瞬間足が縺れてしまいました――っ! 
 
こ、転ぶ!!! 
 
「きゃ!!」  
「不器用だな、何もねえ場所で転ぶなよ?……いや、有る意味器用なのか?」 
「ま、魔王くん!」 
 前のめりに転がる寸前の私を魔王くんが抱き止めてくれました。プリントの山も斜めですが、支えてくれて無事です。 
「あ、ありがとうございます!大事なプリントを撒き散らす所でした!」 
「馬鹿、頭下げたら落ちるぞ……俺が持つ!寄越せよっ」 
 魔王くんは、深々とお礼に頭を下げようとした私からプリントを引ったくりました。ふんっと鼻を鳴らすとスタスタと歩き出します。私も慌てて後を追いかけます。歩くの早いですよー!身長変わらないのに。 
 いつも私が困って居ると、魔王くんが助けてくれます。重い教材を持ってくれたり、種族間の仲裁が上手くいかないとき、さりげなくフォローをしてくれます。本当に魔王くんは優しいのです!こんなの惚れてまうやろーです。
  
 でも………私の魔王くんへの気持ちは秘密なのです。こんな魔力も魅力も低い地味系女子に好かれても嬉しくないでしょう?ただの同級生で満足しないとです。 

「………このプリント、例のか?」 
「そうですよ!………ぶべっ!」 
 魔王くんが、急に立ち止まるので、勢い余り背中にぶつかってしまいました。低い鼻が、痛いです。 
「大丈夫か?お前本当にそそっかしいな!」
 魔王くんは半笑いをしつつ、心配そうに覗き込みます。 
「はあっ大丈夫です……それより、すんなりペア決まりますかねー?」  
「決まらないだろうな!」  
「……そうですよね!皆さん組みたい人被りそうですし…」 
 ハロウィーンの催しまで、1ヶ月ないのでカボチャランタンやハロウィーンの飾りの作成はすでに始まっています。肝心のペアはまだです。 

「……委員会、お前は……」 
「はい?」 
「……ペア組みたい……その、居るのか?」 
 魔王くん……眉間の皺深く真剣な顔です。地味系女子があぶれることを心配してくれて要るのでしょうか? 
 魔王くんと組みたいなんて恐れ多くて、言えるはずもなく―――。 
「い、居ませんよ……。まあ、私とペア組みたい男子も居ないでしょうから、もし溢れたら先生と回りますかね」 
「奇遇だな!俺も居ない!」 
「へっ?」 
「ちょうどいい!居ない者同士面倒くさくないから、委員会俺と組めよ!」 
「は、はい?……いいんですか?私、運動神経皆無ですから、足引っ張りますよー?」 
「ふんっ……今更だな?お前が運動神経皆無なのは知ってるぜ!寧ろ俺ぐらいじゃないとお前のフォローは出来ないだろう?………命令だ!お前と組め!」  
「ええっ!」  
 嬉しい……嬉しいですが、いつになく強引な魔王くんに押し切られ、ペア記入用紙に名前を書かされてしまいました。
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