ドドメ色の君~子作りのために召喚された私~

豆丸

文字の大きさ
16 / 37

権力とお勉強とクッキー

しおりを挟む
 
「うるさい!偉そうに、人間に言われるまでもない!俺は俺の出来ることをする!元義兄様には出来なかったが、俺なら姉さんを守れる!分家より本家が優れていると証明してみせる!」青臭い捨て台詞を吐き、ログナは去って行く。 


 嵐のようなログナを見送ったあと「ミサキ、平気か?」ラッセルが私の肩に手を置いた。 
   
「うーん。分家とか本家とか言ってる時点で駄目なような気がするけど、あの、ログナだっけ?大丈夫かしらね」  

「……ログナは根は純粋で正義感のある奴だ。本家から一度離れ見聞を深め、己の非力さを知り、変わる努力をすれば……良い当主になるやもしれん」  

「はあ、それ、すごく……難しいんじゃない……」 
ログナには無理難題なんじゃないかしら。それとも、シスコンパワーで乗り切り、変わることが出来るのかしら? 
 
「まあ、一人なら厳しいだろうな……ログナが本気で変わりたいなら手を貸すつもりだ。……それより、ログナに対峙したミサキは勇ましかったな……驚いたぞ」肩に置いた手に力がこもる。 

 ラッセルは褒めてくれる、だけど、そんなカッコいいものじゃない。強い領主のラッセルが後ろに居るから……ログナが切れても助けてくれる保証があるから言えたのだ。 
  
 私は強くないし、狡いから。領主の客人の立場を利用しているに過ぎない。
 
「違うわ…ラッセルが付いててくれるから言えたのよ。ラッセルの方が勇ましいわ……ふふ、ログナから守ってくれてありがとう」   
 
「ああ……そうか」少し照れくさそうなラッセル。 
      
 ラッセルの権力を自分の物と勘違いしてはいけない。彼が私に良くしてくれるのは、竜神の命令で子作りしないといけないから。 
  
 もし、子供が出来なくても竜神に頼んで、死ぬこともない場合、私はただのお荷物。領主の館から出されるだろうな。 
  
 ラッセルは真面目で責任感あるから、放逐せず、元奥さんが居る聖女の館に送ってくれるかもしれないけど……確証はないから。それに、ラッセルにおんぶに抱っこも嫌だし……。 
 
 この竜の背で、女の人が一人で生きていくのは大変そう。 
 でも、ログナに言った《今、自分に出来る事を考えたら?》は私にも向けた言葉だから……。
 
 息を吸い込み、お腹に力を入れる。今は会えない娘に恥じないよう生きていこう。 
 
 きゅるる…お腹に力を入れたので、鳴ってしまう。気合いを入れたのに。はあ、締まらないわ。 
 
「ふ、腹の虫が鳴ったか?お昼になるな、急ぐぞ!」 
 ラッセルに右手を引っ張られ、手のひらに少し硬めの肉球のある大きな手に繋がれた。 
   
「ちょ、ちょっとラッセル」 
 これじゃ、本当にデートみたい。戸惑う私の手をラッセルはぐんぐん引っ張って行く。 


 
 
 
 
 ◇◇◇  



 上機嫌で町から帰ってきたラッセルと別れ、今はジャミと図書室で机に向かう。 
 
「君はさ、ログナと言い合う暇があったら、文字の一つでも覚えたら?僕だってさ、暇じゃないんだよ?」町での、ログナ遭遇がもうジャミの耳に届いていた。 
 
「う、う。面目ありません」
  
 とっても不機嫌なジャミに、厳しく採点されたのは、文字書きテスト。竜の背で獣人が使用する文字は生き物の形がベースになってて、漢字に近いんだけど、難しいのです。 
  
 私の脳細胞は生きているのかしら?新しい文字が知識が入ってこないのよー!学生さんの頃のような、知識を貪欲に吸収できる、柔らかい脳ミソが欲しい……。  
    
 嘆いてばかりもいられない、そう、出来ること、目標は……孤児院の子供たちに絵本を読んであげるの!私はジャミに言われ、間違がえた文字の書き取りを始めた。 
  
 一通り書き取りが終わると私は大きく伸びをして、窓際に座るジャミに目をやる。 
  
 ジャミの一族は、神の瞳様や領主間の貴重な書簡や物品の運搬の役目の他に、博識聡明で腹心として領主を支える立場だそう。ジャミも暇さえ、あれば本を読んでいる。今も翼の先に器用に本を挟み読み耽る。  
  
 黄色の尖った嘴をきつく結び、虹光かかった美しい緑色の羽。少し神経質そうな黄金色の瞳。目の周囲が篝火のように真っ赤で目を引く。そして長い尾羽……色とりどりの飾りを首から下げた、私とは違う綺麗な生き物。ついつい、見入ってしまう。
  
「……君さ……そんな不躾に男をみるものじゃないよ」溜め息と共にジャミに注意された。 
 
「あ、ごめん。そんなに見てた?」 
 
「…見てたよ……誘ってるかと……思うほどにさ」
 
「な、な、誘ってないからね?ジャミの翼が人間になくて、珍しくって、綺麗だからついつい見ちゃったの……本当に綺麗ね。あーあ、私も翼があればな~。そうだ、羽根が生え変わるときに一本恵んで欲しいわ!」
 
「……羽根が欲しい…ね……はあ。ミサキ、次からはさ、獣人の特性についても学ぼうか?」 
 
「え?何で?読み書きでいっぱいいっぱいなのよ、それ必要性なの?」 
 
「必要だよ……僕たちの一族にとってはさ、異性の羽根を欲しがることは、求愛と同義語なのさ」からかうような馬鹿にするようなジャミの表情。 
 
「え!あ、嘘、そうなの。知らなかったわ、ごめんなさいジャミ!」 
 
 無知の恥……知らずに既婚者のジャミに求愛していた。イヤミ鳥になんてことを……今後も、ネタにされるに違いないわ!
 
「フン、獣人の特性を知らず無自覚に、そこらの男に求愛するようじゃさ、領主殿が哀れだよ…」 
  
 ラッセルが哀れね……確かに領主の子作りする相手が周りに求愛しまくるのは大問題だわ。それに、尻軽な人間だと思われたくもないし。
 
「………獣人の特性、勉強するわ」 
   
「………君がさ、勉強する気になってくれて嬉しいよ」ジャミが嘴の端を心なしか上げた。はじめて目にするその表情。 
 
「じ、ジャミ?」なぜか背中がぞくっとした。 
 嫌な予感……。
 
「ミサキ……領主の客人が馬鹿じゃ領主殿が恥をかくからさ、竜の背の歴史や地理。五領主と領地について、あとマナーも学んでおこうか」
 
「ひい。これ以上の勉強量。頭に入ってこなくてパーンしちゃうわよ!」
  
 勉強増量拒否する私をジャミが逃してくれるばずもなく。 
 将来的に孤児院の子供たちに教えられる程度の知識は必要なんじゃないと諭され(突っ込まれ)、読み書き以外も勉強することになってしまった。
 

 
 
◇◇◇ 


 
 ここ、竜の背は一週間は7日。月から金までは一緒だけど、土日じゃなくて竜神の日と聖女の日になる。私とラッセルが子作りするのは、毎週竜神の日。 
 
 四週で一ヶ月が巡り、一年間は10か月と短い。季節は春、秋が3ヶ月、短い2ヶ月の夏と冬。夏は日本の猛暑ほど暑くなく、カラっとしていて過ごしやすいそう。冬は暖冬の一ヶ月と酷寒の一ヶ月のワンセット。酷寒は雪が積もり、冬眠する獣人が多くて経済活動が停滞するんだって…。はい、ジャミに教わりました。
 
 私が竜の背に召喚されたのは、春の2ヶ月目の末だから、今は春の3ヶ月目。もうすぐ夏がやって来る。ラッセルは領主会議に提出する書類作りで忙しそう。      
 
 ラッセルと買い物デートした次の日、私はラッセルに厨房を使用する許可をもらっていたので、熊獣人で料理人のガガさんにオーブンの使い方を教わり、久しぶりにクッキーを作った。 
 
 久しぶりのお菓子作りは楽しい、千鶴むすめが小さい頃、毎週休みになると、何かしら作ったわ、懐かしい。 
 
 大きくて、扱いやすい型だから、子供たちの小さな手でもいけそうね。大きな子供たちに粉を混ぜてもらい、小さな子は、型抜きからやればみんなで楽しめそう!   
  
  
 砦のごはんに肉を焼きました、はい!どーんって料理が多いのは、肉食獣のガガさんの好みかもね。まあ、単純に砦に勤める獣人が肉好きが多いんだろうけど。  
  
 私は胃もたれするので、肉じゃなくてヨヨイモ(ジャガイモをクリーミーにした味)を出してもらっている。 
  
 クッキーを作るついでにコンロの使い方も教わったので、自分で料理もするつもり。電気のない竜の背で生活の基盤になっているのは、初日にハリーさんから危険だと云われた鱗の森から鱗を削りとった鱗石。 
 
 木の薪や石炭はなくこの鱗石を燃やして料理し、暖をとる。部屋の明かりも街灯も鱗石を利用している。鱗石の数で火力を調整するので慣れるまでは難しい。   
 
 初めて鱗石で焼いたクッキーは何個か焦げてしまった。焦げは自分で食べるとして、綺麗に出来たのは昨日の買い物のお礼に、ラッセルにお裾分けしよう。 
 ラッセル様に持っていくならとガガさんが赤茶(紅茶に似た味)を用意してくれた。 
 
 ラッセル疲れてるみたいだし、クッキー食べて少し息抜きしてもらえると良いな。私はいそいそと領主室に向かう。 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...