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③答え

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 王族御用達ホテルの豪華絢爛な内装を観察する余裕は、オルハにはなかった。
  
 昼間の吸血が無かったため、お腹が空いていたのだ。 
 耐え難い飢餓感。人前でテオに噛まないように必死に耐えるオルハは、牙を見られないよう顔をテオの首筋にもたれるように埋めた。テオはそんなオルハの腰をぐっと引き寄せ支え歩いた。 
 洗練されたホテルの従業員は騒がなかった。しかし、ロビーに居合わせた貴族、裕福な商人、お客たちは色恋話一つとしてなかった英雄の女性との親密な姿に色目気たった。
 

 最上階の部屋に縺れるように雪崩れ込んだ。扉が閉まるとほぼ同時に、オルハはテオの首筋に牙を突き立てた。 
 ぶちぶちと皮膚が破れる。のどを嚥下して体の中に浸透する濃厚な童貞の甘い血潮。
  
 (美味しい、甘いっ。熱い。毎日飲んでも足りない。欲しくておかしくなりそう) 
 疼く体の中、特に奥が蠢く。オルハはもじもじと太ももを擦り合わせた。
 
「ンッ。殿下ぁ、熱ぃ。」 
「あっ、はっ、オルハっ!!」
 真っ赤な顔で唸るテオの、はち切れんばかりにズボンを押し上げる陰茎。
 首筋に食らい付いたまま、オルハは服の上からソコをぐっと握りこむと上下に擦った。 
 
 うっとりと童貞の血液を啜りながら、硬い陰茎をズリズリ扱く。 
 
「ぁ、おっ、くっ、はぁ」
 オルハの手に熱い陰茎を押し付けるようにテオの体がびくんびくん跳ねた。 
 荒ぶる息を吐き、血走った目が首筋を噛むオルハを捕らえた。まるで睨み潰そうとするかのよう。強烈な情慾を視線に感じ。炙られたオルハはゾクリと震えた。 
  
 オルハが片手でズボンを寛げようとベルトに手をかければ、意図を察したテオは素早い動きで下衣を脱ぎ捨てた。  
  
 湯気が出そうなほどに熱くて硬く。テオの巨体に見合った、たいそう立派な陰茎を持っていた。
 吸血され強烈な快楽に苛まれ、怒張と呼ぶにふさわしく、血管バキバキで先から既に膨大なしずくを垂らしていた。 
 
 しずくを潤滑油にして、くちゃくちゃとわざと水音を鳴らし、上下に懸命に動かしていく。 

「あっ、はぁ、あ!あっ!」  
 
 (手淫されるのも初めてなのかしら?)

 強面の顔を情欲に歪め快楽に甘く鳴き、くっと私の制服をわしつかむ。テオの初心な反応がかわいくて、もっと感じてほしくて懸命に手を動かした。
 
「ぐっ!で、出るっ!!」 
 陰茎から勢いよく白い液体が飛ぶ。熱い欲望を手で受け止めた。 
 国の英雄の色っぽい顔、これをさせたのは自分なんだ、そう思うと更に体が疼いて。
 (ああ、欲しい) 
 ぐっと強く噛んで、欲望のままに啜り空腹を満たした。


◇ 

 
 人の噂はあっという間に広がった。ホテルに行った翌日。出勤したオルハは文官たちから労るような視線を浴びた。

 不思議に思っていると、ムーランに別室に呼ばれた。 
「オルハっ!閣下に無体を強いられているって本当なの?」 

「む、無体ですか?なぜそのようなお話しに?強いられていません。寧ろ助けられています」 
 無体を強いているのは、オルハの方かもしれない。オルハがはにかんで言えば、ムーランはあからさまにほっとした。 

「助けられてるってことは、お互い納得した関係ってことなのね?王族の気紛れな遊びじゃあないのね」 
 心配するムーランに探るように質問されて、答えに窮していると、当の本人から声が掛かった。
「俺は、気紛れな遊びなどしない」
 物凄く不機嫌そうなテオの声が鼓膜を震わせた。
 
「ヒィ、閣下っ!居らしたのですか?本気なんですね?それなら良いんです!この子のこのよろしくお願いします」 
 ムーランは深くお辞儀をすると、逃げるように部屋から出ていった。
 
(今の言い方だと、勘違いされそうだわ。閣下はただ自分は気紛れな遊びをしない、不誠実な人間じゃないって伝えたいだけなのに) 

「閣下、皆さん勘違いしていますから、後で訂正して下さいね」 
 オルハは訂正を頼んだが、テオは返事をしなかった。 

  
 仕事帰りにホテルに直行し、吸血してからオルハの家に送迎するようになった。お泊まりはさすがにオルハが拒否したからだ。
  
 それでも日増しに吸血から深い行為に変化していく。手淫はいつしかお互い裸で行うようになり、テオはオルハの素肌をまさぐった。形の良い胸に触れ、揉みしだき。その柔らかさを頂きの固さを、口に含んだ感触を味わう。 
 あわいに手を滑らせれば、たっぷり濡れた入り口がテオの指先を迎え入れてくれた。 
 狭く細い中を探検し、オルハが甘い声で啼く場所を見つけて丹念にソコをあばき、敏感な芽を愛でる。彼女の体が弓なり仰け反り、果てるまで続く淫らな行為に夢中になった。 

 猛る欲棒をオルハの手に、胸に、太ももに擦り付け、白く全身を汚しながら『早く入れて、俺だけのモノにしたい』テオはそれだけを思った。
 
 職場ではさりげなく肩に手を置いたり、手を握るなど、スキンシップが増えた。それは部屋に他の文官が居てもだった。 
 最初は驚いていた彼らもオルハが嫌がっておらず、テオの機嫌が上向きになり書類仕事が捗るので、気にしなくなった。 

 


 
 
「離宮ですか?」 
「ああ、毎日のホテル暮らしに飽きた。爺か帰って来いと五月蝿い。明日は休みだ。わざわざ吸血に職場に行くのは手間だ。オルハも離宮に泊まってほしい」
 テオは屋敷をもたず使われていない離宮を自分の根城としていた。
 
「でも、お泊まりは……」  
 テオはオルハを送り届けたあと、反対方向の王城の離宮に帰らずホテルに戻る。自分のため、ホテル暮らしを強いている。テオに詫びたい気持ちはある。 
  
 毎日美味しい童貞の血を提供してもらい、疼く体を慰めて合う。テオは自分の身代わりに吸血鬼になったオルハに報いてくれているだけ。
 呪いが解けたら終わる関係だ。勘違いしてはいけない。これ以上踏むのは危険。好きになったら辛いだけ。テオは英雄だけど、オルハは他国から来ただだの平民なのだから。 
 テオは身分の高いしかるべき令嬢と結ばれるはず、オルハはくっと唇を噛んだ。

「離宮が嫌なら王城でいいぞ。兄王が会いたがっている」 

「王様ですか?」 
 国王を引っ張り出されたら断れない。王の客人として王城に泊めて貰えるなら大丈夫だろう。オルハは、城に泊まることを条件にしぶしぶ承諾した。

 
 
「そうか、君がオルハか!話は弟から聞いていいる……弟を庇ってくれて感謝する」 
 王は顔立ちはテオに似ていたが、10歳歳上で弟と違って柔和に笑い目尻の笑い皺が目立っていた。話しやすく人当たりも良く、威張り腐っていなかった。平民のオルハにも丁寧に接してくれた。 
 
 国王にテオと共に晩餐に招待された。
 テオの命令で城の侍女が競うように、オルハを美しく仕立てあげる。テオが選んだアクセサリー、ドレスを着せられ、ついでのように手足の長さなど体の採寸までされた。 
  
 なぜだろうと、疑問を口にする余裕はオルハにはなかった。極度に緊張していたからだ。
 仕度が整うと、同じく着飾ったテオにエスコートされ晩餐に参加した。テオは美しいオルハを今すぐに押し倒したいと思った。
 二人は同じ材質、色の衣服だった。お揃いの二人に王は笑みを更に深めた。 

「まるで一対の鳥のようだな…どうやら弟にも春が来たようだ」 
 
「ああ」 
 こくりと頷くテオ。
 
「春が来たの?今秋だよね!ハロウィンだもん」少年王子が不思議そうに尋ねた。 
 
「もう、例えよお兄様。オルハさん叔父上のお嫁さんになるのよ」妹王女がおしゃまに口を挟む。 
 
「まあ、二人とも気が早いわよ。女の人には色んな準備が必要なのですよ」  
 少しぽっちゃり気味な王妃が騒ぐ二人を諌めた。 
 
「英雄の新たな門出だ。国を挙げて祝福しないとだな」
 晩餐中、満面の笑みの王様と談笑する一家に勘違いですと水を差すことも出来ず、オルハはただ曖昧に微笑むにとどめた。
  
 出された食事は豪華だったが吸血鬼の呪いのせいで口に出来なかった。 

 (お腹すいたわ) 
 ちらりとテオの首筋に熱い視線を向け、生唾を飲み込む。 

「……情熱的に求められて良かったなテオ」 
 絶賛勘違い中の王様はやたらと嬉しそうだ。

「吸血の呪いのせいで、閣下にはご迷惑をかけています」勘違いを正そうと、オルハはとうとう口を挟んだ。 

「おお、そうだった。晩餐の後、研究室に籠っておったマルガトが二人と話がしたいそうだ。ついに呪いを解く方法が見つかったようだ」 

「本当ですか?」  
 手遅れになる前にかろうじて間に合った。呪いさえ解ければ、吸血して欲情することもない。上司と部下の適正な関係に戻れるはず。
  
 嬉しくて飛び上がりそうな気持ちを抑え、テオを見上げば、低く呻きがっかりした表情を浮かべていた。
  
 そんなにがっかりしなくても……英雄のテオが望めば極上の美姫だって手にはいるのだから。 
 本当は……オルハだってわかっていた。テオが彼女に触れる手に、見つめる瞳に欲情とともに映る焦げるような恋情を。

(でも、私にはきっと受け入れられない……閣下を好ましく思っていても。最後の瞬間、前世の旦那の顔が浮かび気持ちが萎えてしまうもの)

 オルハは長く息を吐き、そっと目を瞑った。 
 いつものように瞼に浮かぶ鮮やかな朱色の瞳、同じ色の長い髪。整った美貌の青年。前世からの愛しい人。その姿がグニャリと歪むと全く別人の顔に変化した。強面の厳つい大男に。

 (閣下が、どうして?) 
 自問しても答えは出なかった。

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