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目が覚めたら旦那さまに股がっていました②
しおりを挟む「うわわーっ!!なに!このお兄さん、カッコいいんですけど!」
思わず大声で叫んでしまった。
艶のある銀糸色の髪が汗でべたりと頬に張り付つ、けぶるような色気が半端ない。すらりとした鼻とキリッとした薄い唇。整った優れた眉に切れ長の冷たいアイスブルーの瞳。物語からそのまま出てきたような美男子が裸でいる。
鍛えられた体も程よい筋肉も、息を飲むほど素敵過ぎる。しかも、大好物のケモ耳付きときている。
そう!ケモ耳男子は私の性癖ど真ん中!ゲームでも、小説でも一押しはいつだってケモ耳男子!それもちょっとCOOL系の。
彼らが主人公をスキになりデレる瞬間が堪らなく滾るっ!どんぶりご飯三杯はいける!
もう!ファンタジー万歳だわ!鼻血出そう~。
「………ヴィヴィアン嬢、貴女はなにを言っているのですか?閨が嫌で、とうとう気が触れましたか?」
皮肉たっぷりに下げずんだ目で吐き捨てるように言われる。
まるで汚物を見るような冷たい瞳。
うわぁ、きたわーっ!!
冷徹な美貌!カッコいいを通り越してるっ!
こんなの惚れてしまうわ……ううん。胸がキュンキュンして痛い。確実に私は、この人に惚れた!!
「私っ!お兄さんに惚れたわ」
「なっ?!………そうですが、私を馬鹿にしているのですね」驚いた顔は一瞬で、鼻を鳴らし笑われた。
「馬鹿になんてしてないのに。私とお互いはえーと、その、エ、エッチしてたけど、こ、恋人なの?」
恋人同士だとしたら、拘束と目隠しして致すという、ちょっと処女の私には刺激の強いプレイをお好みのカップルだわ。
「………なぜ今更そんな質問を?
ああ、現実逃避するほど獣人の私が嫌いということですか。
ふんっ、恋人同士どころか貴方と私は夫婦ではありませんか?」
「ふ、夫婦っ!!
夫婦設定ーーっ!!こんなに素敵な人が私の旦那さまなんて、こんな夢みたいなことが起こるなんて!!お姉さん交代してくれてありがとうー!!」
私はガッツポーズを取るとその場でぴょんぴょん飛び跳ねた。
「ちっ……本当に気が触れましたか……シャーリングっ!!部屋の前に待機していますか?緊急事態です至急入ってきなさい!」
「え?シャーリング?って誰?」
「シオン様!どうされましたか?」
部屋の扉を蹴破るように、初老近くと思われる男性が突入してきた。タイトな執事姿で頭には羊の角と耳が生えている。
「うわっ!羊の執事なのねっ!出来すぎてるって!……い、痛っ!いたたたたっぁ。あ、あっ。頭割れそう……」
鈍器で殴られたような痛みが走り、急に視界が真っ黒くなった。意識が遠のく……どさりと自分が倒れる音が聞こえた。
◇◇◇
む、胸の上が重い……。
胸の谷間の上になにか乗っている。
重苦しさに重い瞼をこじ開けると、そこは大きなベッドの上で、目の前に白い塊が揺れた。
「もふもふ……ね、猫?」
私の上に乗っていたのは、白地に黒い水玉模様の子猫だった。三角の耳、長いしっぽ。綿毛のようなふわふわの毛並み。
さっき股がってた獣人のお兄さん……確かシオンさんと同じ模様だわ。ふふ、もしや自分と同じ模様だから飼っているのしら?
「可愛い~」
手を伸ばすと、触れる瞬間びくっと震え「ナァー」と鳴いた。
鳴き声も甲高く幼い、お母さん猫に甘えるような声。まだ生まれて半年経ってなさそう。
「大丈夫だよー怖くないよ」
頭、首の下をナデナデするとゴロゴロと喉を鳴らした。こてんとお腹を見せてくれた。
腹天ですか?
んんっ!!そんな無防備でいいのっ?
可愛い過ぎて、お腹を撫で撫でしていると、外から声が聞こえた。
「シリウス様ーっ!どちらに行かれましたか?シリウス様ー」
パタパタとどうやら人を探しているらしい。
「ナァー!ナアー!!」
子猫さんが騒がしく鳴き出した。まるでここに居るよと言うみたいに。
「え?ま、まさか!!シリウス様!奥さまのお部屋にお入りになっているのですか!いけません!」
盛大な足音とともに、部屋のドアが勢いよく開いた。弾むように入ってきたのは、ちょっとじゃなくかなりぽっちゃりしたおばさまだった。
目尻や皺の感じから、歳は私の親世代かな?彼女は水色のワンピースに白いエプロンを着ていた。頭の上には長い茶色の兎耳が生えていた。
うわー、兎獣人だわ!
「申し訳ありません奥さま!奥さまのお部屋にシリウス様が迷い込んでしまいました。お叱りなら私が受けますのでお許しください!」
エプロンの端を持つと深々と私に頭を下げた。緊張しているのかぷるぷると小ギザミに兎耳が揺れる。
奥さまって私のことだよね。
それじゃあ、シリウス様ってこの猫のことかな?猫が部屋に紛れただけでなんて大袈裟な。
「えーと、猫が部屋に入っただけだから大丈夫よ。叱らないから頭を上げてほしいな」
子猫をナデナデしつつ、頭を上げるように促す。
「おお、奥さまが初めてシリウス坊っちゃまを撫でてくださいました。こんな日が来るなんて、ミミは嬉しゅうございます!」
兎獣人さんはポロポロと肉に埋もれた瞳から涙を流し始めた。
「え?泣くの、子猫を撫でたくらいで!?」
「子猫ではありません!
シオン様が奥さまは気が触れたとおっしゃておりましたが、ご自分でお産みになった子供のことを忘れてしまったのですか?」
ええーーー!???私、子猫を産んだの!?
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