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閨のあとで①
しおりを挟む次に目を覚ますと大きな枕を2つしっかりと抱きかかえ寝ていた。
旦那さまはもう隣にはいない。今日は第一王子の命令で王城に行くと言っていたっけ。差し込む日差しは既に斜めで夕刻に近かった。
ええっ!!もうこんな時間ですか~?閨で疲れていたとはいえ今日の予定が台無しです。
今日はミミさんとファーストシューズの仮縫いをする予定だったのに、不甲斐ないママでごめんよ~。来週の誕生日までには何とか形にしたい。不器用な私には時間が足りない!早く作り始めないと!
重くて怠い体。まるで全身筋肉痛、色んな場所が悲鳴をあげている。ひいひい言いながらなんとか上半身を起こした。バタバタと部屋の外が騒がしくなり、ドアがバァンと開いた。
「奥様!大丈夫かよ!」
「奥様失礼します。湯浴みの準備もお食事の準備も出来ています」
「ミャウミャウ~」
「奥様、シリウス様がご心配されておいでです」
案の定、ノックをしないスージーさんを先頭にリンスさんとシリウスくんを抱えたミミさんが慌ただしく入室してきた。
「ど、どうしたんですか?皆さん??」
三人とも私を見ると、みるみるうちに顔を歪めた。シリウスくんはミミさんの腕からピョンと飛ぶと、綺麗に膝の上に着地しゴロゴロ喉を鳴らし手の甲にすり寄り、撫でてと訴えてる。うふっ、かわいい。小さな耳と耳の間をナデナデする。い、痛い。しまった手首も痛かった。シリウスくんに心配をかけたくなくて唸る声を飲み込んだ。
「……ひでぇぜシオン隊長!普通の閨が嬉しいからって、獣人と違って体力のない人間をここまで抱き潰すなんて!しかも、しこたまマーキングされてるぜ」鼻を両手で押さえ、スージーさんが呻く。
え?そんなに精子臭いですか?確かにたくさん中に出されましたけど。
「奥様っ。獣人の男性は盛ると一晩中続くなど、執拗で鬱陶しいときがございます。
そんなときは一度、蹴飛ばし……こほんっ。旦那様の要望に全てお答えしなくてもよいのです。獣人と人、男と女で体力が異なるのですから……私から旦那様によーくお話しておきますので。体が回復するよう、今すぐ滋養強壮のお薬をお持ちいたします」
厳しい顔のリンスさんは踵を返すと部屋から出ていった。
「ううっ、お痛わしい限りです……本当に頑張りましたね奥様っ」ミミさんはハンカチで目頭をそっと押さえた。
大げさだな三人とも、気絶しても中に出されてたみたいだけど、旦那さまに激しく求められて嬉しかった。それにエッチ気持ちよかったし、旦那さまの筋肉に触われて私は大満足です!
どうやら………執拗で鬱陶しく激しい閨をこなした私は三人に同情されるほど、ぼろ雑巾と化していた。
トイレに行こうとベッドから立とうとした。けれど、生まれたての子鹿のごとく足がガクガクして力が入らない。スージーさんとリンスさんの肩を借り、ずりずり引き摺られるようにしてトイレに連れていかれた。途中ですれ違った侍女、召使いさんたちの同情の視線が痛い。
いざトイレに座れば、痺れて排尿している感覚がない。擦れた中と股関節が痛い。まだ中に埋め込まれているような違和感がある。お腹から、ボタボタと壊れた蛇口のように止めどなく閨の残滓が零れ落ちた。
ひええーっ、私のおまんこ馬鹿になってる~っ。
半泣きになりながら、リンスさんに説明し当て布を貰った。それを股間に装着し、なんとかトイレを終わらせた。
トイレの前で待機していたリンスさんが、それはそれは怖い顔で「……旦那様」と呟いていたのが印象的だった。
部屋に戻り、食事となったけど腕が上がらないし、怠くて食欲はない。リンスさんが持って来てくれた苦い薬草の滋養強壮のお薬をなんとか飲む。
家令のシャーリングさんも一度私の様子を見に来た。「ほっほっ、奥様。見事に抱き潰されましたな?旦那様も若い雄です。今まで我慢しておられた分、押さえが効かなかったのでしょう。
若い夫婦にはよくあることですから旦那様を許してあげてください」と、余計な発言をしてリンスさんとミミさんに睨まれていた。
少し体力が回復したので、ミミさんに今日予定のファーストシューズを作りをお願いしたけど、秒で断られた。
「奥様……お体がお辛いのにシリウス様を思ってくださるのですね?ミミは嬉しく思います。でも今日は体を第一に労って下さい。また明日から作りましょう」ミミさんは私の両手を包むと菩薩のように微笑んだ。
「そうだぜ、奥様無理すんなよ!」
スージーさんが援護すれば、リンスさんも大きく頷いた。
なんだろう……この三人に過保護にされているような気がする。こそばゆいが嬉しい。おとなしく甘えることにした。
湯浴みする気力も体力もないので、リンスさんに部屋で温かい布で拭いてもらった。さっぱりして気持ちいい。心地よさにうとうとして、ついまた寝てしまった。
おでこに触る冷たい感触。重い瞼を開けると、私を見下ろす澄んだアイスブルーの瞳と目が合った。
仕事から帰って来た旦那さまだった。
騎士服から着替える前に様子を見に来てくれたみたい。精悍な旦那さまはため息が出るほど、カッコいい!
「あ、旦那さまお帰りなさい。お迎え出来なくてすいません~」
せめて起き上がろうとしたけれど、怠い体はノロノロとしか動かない。
「起きなくて結構です。体が少し熱いのでは?そのままで良いので聞いてください」
旦那さまは私のおでこに手のひらを置いたまま、ばつが悪そうに話し始めた。
「………ここに来る前、スージー、リンス、ミミにそれぞれ小言をもらいました………貴女に無理をさせるな、体を気遣えといわれました」
「え?そうなんですか?」
リンスさんは旦那さまにお話すると言ってたけど、スージーさんにミミさんまで。
「……貴女のことを毛嫌いしていたのに、大した心境の変化です」
「えへへっ!三人が認めてくれたみたいで嬉しいです」
「……認めるなんておこがましいです……前より幾らかはマシに成っただけです」
ふんと鼻で笑ういつもの塩対応。でも、私のおでこに置いた手は労るようで。
「マシに成って嬉しいです」
へらりと笑う私。旦那さまはおでこから手を離すとくっと一度眉間の皺を深めた。そして、観念したように息を吐く。
「昨夜は……すいませんでした。貴女の体を考えず寝込むほど無理をさせた」
なんと旦那さまは私に頭を下げて謝った。猫耳が情けなくくたっている。か、可愛いんですけど。えーっと、いきなり謝られて混乱する。
「旦那さまっ!!どうしたんですか?頭を上げてください。謝らなくて大丈夫ですよ!
私もとってもきもちよかったし、大好きな旦那さまに深く求められて嬉しかったですから」
顔を上げてほしくて頬に触れる。旦那さまはその手を掴むと私を睨んだ。
「貴女も悪いんですよ!
無防備に私に触れて、煽って、仕舞いにはめちゃくちゃにしてと、たくさん中に出して孕ませろなんて言うからです」
ぐっと睨んでいるのに全然怖くない。旦那さまの目蓋も頬も薔薇色に染まっていたから。
「……旦那さま?もしかして照れているんですか?」
からかうつもりはないのに驚いて声が大きくなる。
「揶揄るのは止めて下さい………毎日毎日、呆れるほどしつこく好き好き好き好き言われたら……私でも思うところはあります」
……それって、もしかして。期待してもいいのかな?
「……お、思うところって、なんですか?」
期待に高鳴る胸を押さえ、ドキドキしながら旦那さまの返事を待った。
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