悪役令嬢の面の皮~目が覚めたらケモ耳旦那さまに股がっていた件

豆丸

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やり直しましょう。

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 こんな綺麗な幼児がこの世に存在するなんて~!
 
 零れ落ちそうな大きな瞳は、晴れた日のラベンダー畑を思わせ綺麗な色。ママであるお姉さんと同じ。 
 そして、旦那さまと同じ銀糸の艶やかな髪、睫毛も銀をまぶしたかのよう。小さいながら形の良いスッとした鼻。さくらんぼのような唇。たっぷりお肉の付いたプクプクほっぺに、まん丸お腹。幼いながら溢れる美貌。大きな頭に短い手足。その間に付いた可愛らしい小さなおチンチン。 
 ミニミニ旦那さまだわ~。存在が奇跡のような素晴らしい生き物をただ呆然と見つめ続けた。 
  
 さすがお姉さんと旦那さまの子供~っ!!将来が楽しみです!
 
「くっちゅんっ!!」 
 シリウスくんは、大きなくしゃみをした。そのくしゃみすら可愛いいなんて、嘘みたい。 
 
「ミミっ!シリウスに洋服をお願いします」
 屋敷の人達がシリウスくんに魅了され見惚れるなか、いち早く冷静になり指示を出したのは旦那さまだった。 

「はっ!?はい、直ちにお持ちします」  
 ゆさゆさと重い体を揺らしミミさんが屋敷に走った。

 そうーー初めて人型になったシリウスくんは、すっぽんぽんだった。 

 
「奥様!服が来るまでこちらを」
 リンクさんが私用のストールを手渡してくれた。取り急ぎ裸のシリウスくんを包む。
 
「シリウスくん大丈夫ですか?寒くありませんか~?」シリウスくんは、ストールからはみ出た自分の手足を不思議そうに動かし、手をまじまじと見つめた。 
 そして、最後に私の顔を見上げた。ぐしゃりと可愛いい顔が歪む。

「マァマっ!」  
 シリウスくんは綺麗な瞳からポロポロ涙を流し、私の首にすがり付いた。 
 ワンワンと火が付いたかのように泣き出したシリウスくんを抱っこしてあやす。 
 
「ええ??シリウスくんどうしたんですか?どこか痛いんですか?ちょっと、旦那さまっ~!?人型になると痛かったりつらかったりしちゃうんですか?」 
 
「獣人にとって人型になるのは服を脱ぎ着するようなものです。痛くも辛くもありませんよ。ただ……少し混乱しているようです。シリウス落ち着いてください」 
 旦那さまがシリウスくんの頭を撫でて落ち着かせようとする。 

「おと~しゃま、ぼく、ぼくっつ。うっ、ねこじゃないと、またぁマァマにき、きらわれるの?」  
 綺麗な紫色の瞳から止めどなく流れる涙。拭いていたハンカチがあっという間に濡れていく。 
 
「…シリウスくん」
 
「シリウス……今のママなら貴方がどんな形でも嫌わないと思いますよ」 
 旦那さまはシリウスくんの背中を擦る。 

「マァマは……ねこのぼくがいい?マァマといっちょのひとがいい? 
えっぐっ。ぼく、ぼく、どっちでもなれるから……だから、だから。ぼくをきらわないで~っ!!」 

 それは慟哭だった。魂の叫び。産まれた時から否定され蔑ろされてきたシリウスくんの。悲しくて哀しくて胸が苦しくて痛くていっぱいになる。こんなに無条件に愛して健気に全力で慕ってくれるのに、お姉さんは本当に大馬鹿だ。 

 シリウスに『くん』を付けて何処か他人の子のように呼んでいた私も大概、大馬鹿だけど。 

「ーーシリウス!ごめんねっ!シリウスっ。 
 ママは貴方をたくさん傷つけた。 
 人でも猫でもたとえ蓑虫だったとしてもママは貴方を嫌いませんよ~っ!どんな形になろうともシリウスはかわいい私の息子ですから」 
 私も泣きながらギュウとシリウスを抱き締めた。
 
「み、蓑虫ですか?ヴィヴィアン、その例えばないと思います」シリウスの後ろから呆れる旦那さま声がする。 

「え?え?ダメですか? 
 それだけシリウスが大好きだと言うことです   ~っ!つ、伝わりませんか?」 

「奥さま……蓑虫はないぜ、蓑虫は?」 
 スージーさんも呆れる声で、鼻頭をボリボリ掻いた。
 
「ダ、ダメですかー?それじゃあ何の虫なら良いんです?」 

「奥様、差し出がましいようですが……虫からお離れになられたほうが」リンスさんが助言をくれた。 
 
 くうぅ、虫、虫じゃない良い例えが浮かばない。

「……マァマも、むしすき?」  
 助け船を出してくれたのは当のシリウスだった。私たちが言い合っているうちに涙が止まった様子。まだ目も鼻も赤い。リンスさんが渡してくれたハンカチで涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を綺麗に拭く。 

「え?はい。虫好きですよ。良く弟たちとかぶと虫やクワガタ虫を捕まえに行きましたから……そうですっ!折角人型になれたんですから一緒に虫取りに行きましょう!お弁当も一緒に作りましょうね」

「ほ、ほんと?」 
 
「本当です!それに人型になったシリウスと旦那さま。家族三人で一緒に行きたい場所やしたいことがたーくさんあります……ねえ?旦那さま」 
 ふわりと旦那さまに微笑むと、綺麗なアイスブルーの瞳が柔らかく受け止めてくれた。 

「そうですシリウス……今日は貴方の誕生日。そして新たな家族の門出として、家族三人でやり直していきましょう」 
 旦那さまは背後から私ごとシリウスくんを抱きしめた。三人がギュウとくっついてひとつの塊になったかのよう。 

 旦那さまが私を家族として認めてくれた!感慨深くて、胸に迫る。こんなに嬉しいことはない。私も泣きながら旦那さまの背中に腕を回した。
 
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