29 / 74
やり直しましょう。
しおりを挟むこんな綺麗な幼児がこの世に存在するなんて~!
零れ落ちそうな大きな瞳は、晴れた日のラベンダー畑を思わせ綺麗な色。ママであるお姉さんと同じ。
そして、旦那さまと同じ銀糸の艶やかな髪、睫毛も銀をまぶしたかのよう。小さいながら形の良いスッとした鼻。さくらんぼのような唇。たっぷりお肉の付いたプクプクほっぺに、まん丸お腹。幼いながら溢れる美貌。大きな頭に短い手足。その間に付いた可愛らしい小さなおチンチン。
ミニミニ旦那さまだわ~。存在が奇跡のような素晴らしい生き物をただ呆然と見つめ続けた。
さすがお姉さんと旦那さまの子供~っ!!将来が楽しみです!
「くっちゅんっ!!」
シリウスくんは、大きなくしゃみをした。そのくしゃみすら可愛いいなんて、嘘みたい。
「ミミっ!シリウスに洋服をお願いします」
屋敷の人達がシリウスくんに魅了され見惚れるなか、いち早く冷静になり指示を出したのは旦那さまだった。
「はっ!?はい、直ちにお持ちします」
ゆさゆさと重い体を揺らしミミさんが屋敷に走った。
そうーー初めて人型になったシリウスくんは、すっぽんぽんだった。
「奥様!服が来るまでこちらを」
リンクさんが私用のストールを手渡してくれた。取り急ぎ裸のシリウスくんを包む。
「シリウスくん大丈夫ですか?寒くありませんか~?」シリウスくんは、ストールからはみ出た自分の手足を不思議そうに動かし、手をまじまじと見つめた。
そして、最後に私の顔を見上げた。ぐしゃりと可愛いい顔が歪む。
「マァマっ!」
シリウスくんは綺麗な瞳からポロポロ涙を流し、私の首にすがり付いた。
ワンワンと火が付いたかのように泣き出したシリウスくんを抱っこしてあやす。
「ええ??シリウスくんどうしたんですか?どこか痛いんですか?ちょっと、旦那さまっ~!?人型になると痛かったりつらかったりしちゃうんですか?」
「獣人にとって人型になるのは服を脱ぎ着するようなものです。痛くも辛くもありませんよ。ただ……少し混乱しているようです。シリウス落ち着いてください」
旦那さまがシリウスくんの頭を撫でて落ち着かせようとする。
「おと~しゃま、ぼく、ぼくっつ。うっ、ねこじゃないと、またぁマァマにき、きらわれるの?」
綺麗な紫色の瞳から止めどなく流れる涙。拭いていたハンカチがあっという間に濡れていく。
「…シリウスくん」
「シリウス……今のママなら貴方がどんな形でも嫌わないと思いますよ」
旦那さまはシリウスくんの背中を擦る。
「マァマは……ねこのぼくがいい?マァマといっちょのひとがいい?
えっぐっ。ぼく、ぼく、どっちでもなれるから……だから、だから。ぼくをきらわないで~っ!!」
それは慟哭だった。魂の叫び。産まれた時から否定され蔑ろされてきたシリウスくんの。悲しくて哀しくて胸が苦しくて痛くていっぱいになる。こんなに無条件に愛して健気に全力で慕ってくれるのに、お姉さんは本当に大馬鹿だ。
シリウスに『くん』を付けて何処か他人の子のように呼んでいた私も大概、大馬鹿だけど。
「ーーシリウス!ごめんねっ!シリウスっ。
ママは貴方をたくさん傷つけた。
人でも猫でもたとえ蓑虫だったとしてもママは貴方を嫌いませんよ~っ!どんな形になろうともシリウスはかわいい私の息子ですから」
私も泣きながらギュウとシリウスを抱き締めた。
「み、蓑虫ですか?ヴィヴィアン、その例えばないと思います」シリウスの後ろから呆れる旦那さま声がする。
「え?え?ダメですか?
それだけシリウスが大好きだと言うことです ~っ!つ、伝わりませんか?」
「奥さま……蓑虫はないぜ、蓑虫は?」
スージーさんも呆れる声で、鼻頭をボリボリ掻いた。
「ダ、ダメですかー?それじゃあ何の虫なら良いんです?」
「奥様、差し出がましいようですが……虫からお離れになられたほうが」リンスさんが助言をくれた。
くうぅ、虫、虫じゃない良い例えが浮かばない。
「……マァマも、むしすき?」
助け船を出してくれたのは当のシリウスだった。私たちが言い合っているうちに涙が止まった様子。まだ目も鼻も赤い。リンスさんが渡してくれたハンカチで涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔を綺麗に拭く。
「え?はい。虫好きですよ。良く弟たちとかぶと虫やクワガタ虫を捕まえに行きましたから……そうですっ!折角人型になれたんですから一緒に虫取りに行きましょう!お弁当も一緒に作りましょうね」
「ほ、ほんと?」
「本当です!それに人型になったシリウスと旦那さま。家族三人で一緒に行きたい場所やしたいことがたーくさんあります……ねえ?旦那さま」
ふわりと旦那さまに微笑むと、綺麗なアイスブルーの瞳が柔らかく受け止めてくれた。
「そうですシリウス……今日は貴方の誕生日。そして新たな家族の門出として、家族三人でやり直していきましょう」
旦那さまは背後から私ごとシリウスくんを抱きしめた。三人がギュウとくっついてひとつの塊になったかのよう。
旦那さまが私を家族として認めてくれた!感慨深くて、胸に迫る。こんなに嬉しいことはない。私も泣きながら旦那さまの背中に腕を回した。
79
あなたにおすすめの小説
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる