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本物の聖女
しおりを挟むシリウスが人型になれて数日後、忙しいグランシア国王から謁見の許可が下りました。
旦那さまはシリウスが人型になると直ぐに王城に鳥を飛ばしていた。いつの間に?
「聖女の『媚薬事件』のお詫びに国王にローベルハイム公爵家に命を狙われるシリウスの後ろ楯をお願いします。
大々的に貴族社会に公言して、下手にシリウスに手出し出来ないようにして頂きますので」
お願いと言っているのに、物凄く黒い笑みなのはどうしてですか?王様にごり押しする気、満々ですね旦那さま……。
人型ならローベルハイム爵位を継げるので焦った公爵家が今後、なにをしてくるかわかりませんし。
まあ、国王が後ろ楯ならローベルハイム公爵家も少しは大人しくなり、手を貸そうとする貴族も居ないでしょうからとりあえず一安心ですね?
旦那さまはその間にシリウスを自分の身は自分で守れるように鍛えるつもりですね。
旦那さまから私と一緒に騎士団詰所に行く許可も貰えました。やったねシリウスーっ!
もちろん護衛にスージーさんといぶし銀の強面ワタルさんも付くことになりました。
外国の観光案内に載っていそうな荘厳な王城が見えてきました。
ひいぃ、心の準備がーっ!
今回は家族三人で謁見します。
旦那さまと当事者のシリウスは行くとしても、私は屋敷でお留守番か良かったです。王城なんて初めてで緊張します。お姉さんを懇意にしていたエレナ王妃がどうしても会いたいと切望したために私も登城することになったのですが、粗相して不敬罪になったらどうしよう~!
馬車の中、シリウスを膝に乗せておろおろする。私の肩の落ちかけたショールを旦那さまが直した。
「ヴィヴィアン落ち着いてください。誰に何を言われても気にしないでください。私もシリウスもついていますから」肩に手を置いた。
「マァマっ!ぼく、がんばれー」
シリウスは拳を高く掲げた。可愛い仕草につい笑みが溢れる。
家族がいる。よしっ!がんばろうーっ!気合いを入れ直した。立派な門を幾つも潜り抜り、やっと城に着ついた。旦那さまに引かれて馬車を降りる時、そっと小声で耳打ちされた。
「ヴィヴィアン、決して人前でショールを取らないように、背中に夕べの花がたくさん咲いていますから」
「え?」
そういえば、ドレスを着せてくれたリンスさんが大きく溜め息をついて背中に白粉を刷り込んで塗っていたけど……。そんなに酷いと言うことですか。
ストールをギュウと掴むと、どこか楽しそうな旦那さまを睨んだ。
酷いです~!知ってて付けたんですねーっ!
道案内の兵士と侍女に案内され、シリウスを抱っこし、旦那さまの後ろに続いて歩きます。まるで美術館のように、絵画や彫刻の置かれた渡り廊下を歩きます。兵士に守られた大きな扉を開けると明らかに雰囲気が変わりました。格式高い様式に、謁見の間が近いことがわかる。
「まあっ!シオン様、こんなところで出会うなんて奇遇ですわ」
すぐ前の階段から旦那さまに向かって少女が駆け寄って来た。
ふわふわとウェーブのかかった綿菓子みたいなピンク色の髪。瞳はこぼれ落ちそうに大きく潤み、こちらもピンク色。睫毛は長く鉛筆が乗りそうです。高すぎず低すぎ整った可愛いお鼻。ぷっつり湿った唇はつんと上を向きキスをねだっているかのよう。
少女は身長も低く、華奢で折れそうな体は凹凸こそ少ないものの、庇護欲を掻き立てるには充分過ぎて。
うわわ、物凄い美少女ですね~。旦那さまと並ぶと絵になります。思わず魅入ってしまう。
「王子妃ミリア様、ご機嫌麗しゅうございます。
奇遇も何も、謁見の間に行くには、この道しか在りませんので」
旦那さまは形ばかりの礼をするとすげなく、添えられた手を振り払う。
え?ミリア様って?この美少女が?聖女でもあり、ジャスティス王子がお姉さんを捨てる切っ掛けになった人ですか~。
確かに可愛い。ん?お姉さんと同じ年だよね?成人済みなはず、若作りなのかな。
お姉さんが一輪の黒薔薇ならこの人は大輪のピンクの薔薇。その可憐さと親しみ易さに惹かれて虜になる男性は多いだろう。
「むう……シオン様は冷たいですわ。また私の護衛をしていただきたいのに~」
「護衛の件でしたら王より許可を得ております。また揉め事は困りますので、正式にお断りさせて頂きました」
「そんなぁ、ミリア寂しいです~。ただシオン様に傍に居て頂きたいだけなのに」
上目遣いで口元に手。ウルルンと効果音が聞こえそうだわー。あざと系美少女ですか?
周りには、妻の私も子供のシリウスも護衛の兵士も侍女さんも存在するのに、見えて居ないのかなー?
兵士も侍女さんもみんな能面みたいな表情してるし。
えーと、ここは妻ですが?何か~?と、しゃしゃり出るべきですか?
迷っていると、動いたのはシリウスだった。抱っこからスルリと下りると私の手を引き、旦那さまに駆け寄った。
「おとぅしゃま、いくー」
「なあに?なんで?ここに子供が……まあっ!シオン様と同じお耳!シオン様のお子ですか?なんて可愛いの~!うふふ、10年後の初物が楽しみだわ~」
ええ?どういう意味!?
艶を含んだ言葉にゾッとした。ミリアさんかシリウスに触れようと手を伸ばす。シリウスの顔が驚きに歪む、慌てて間に入りシリウスを抱き寄せた。
「……あなた、どうして邪魔をするの~?」
「王子妃ミリア様、学生時代はたいへん不快な思いをさせご迷惑をお陰様しました。我が子が怖がっているので失礼致します」
逃げるが勝ちである。私は、脱兎のことく駆け出した。案内役の兵士が追いかけてくる。十分な距離を取ると柱の陰に隠れた。
遠くから旦那さまとミリアさんの声が聞こえる。ミリアさんが、追いかけて来ないように引き留め役をしてくれてる。
「まさか……今の方、ヴィヴィアンさんですの?なぜ?不仲のシオン様と御一緒に居られるんですか?」
「ミリア様、私は媚薬事件には感謝しているんです」皮肉を含んだ旦那さまの声。
「え?」
「媚薬に苦しむ私を献身的に助けてくれたのはヴィヴィアンです。あれが切っ掛けで私たちは解り合えました。
今、私が傍に居たいのはヴィヴィアンです。決して貴女ではありません」
ハッキリ言い捨てると、旦那さまは私とシリウスを追いかけてきた。
足早にその場を去る。
うちひしがれたようにペタリと床に座るミリアさんは、なにやらぶつくさ囁いていて不気味だった。
途中でグランシア教会の所属する女神アルバトール教会の一団が前からやって来た。中心には金髪を三つ編みし、眼鏡を掛けたそばかすの素朴な少女が立っていた。いっけん地味な少女は、神々しい光に包まれている。
グランシア教会前進である、アルバート教会には身分制度はない。女神の前に等しくみな平等の教義から、みな平民。身分的には旦那さまと私が上なので、壁に控えるのは彼らなのだけど、旦那さまがスッと壁に寄ったので私とシリウスもそれに倣う。
「ありがとうございます。心遣い感謝致します」
神々しい少女は、私たちに深々とお辞儀をする。
「聖女アリアナ様、もしかしてミリア妃をお探しでしょうか?」案内役の兵士が前に進みでた。
「そうなのです……聖魔法の教義の時間になられても来られないので探していおりますの。ミリア妃は聖なる徳を積むおつもりがないのでしょうか?いくらダニエル王子のお願いとはいえ、本人の研鑽なしでは難しいことですわ」
え?この子が聖女?ミリアさんと神々しさが全く違うんですけど。
案内役の兵士は、私たちに謝ると聖女アリアナをミリア妃のもとに連れて行った。
ミリアさん旦那さまとシリウスにちょっかい掛けないで、しっかり国の為に勉強してくださいね~。
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