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旦那さまのいない5日間①
しおりを挟む私が旦那様に初デートを約束させて、ほくそ笑んでいると、ドアをノックしてリンスさんが部屋に入ってきた。
「旦那様、失礼いたします。
ジャスティン王子より奥様宛に大量にプレゼントが届いておりますがどういたしましょうか?……切り裂いて中庭で燃やしましょうか?」いつもの穏やかな笑顔を張り付け、リンスさんが淡々と燃やす準備を始めようとしている。
「え~?リンスさん待ってっ!燃やすの勿体無いから、ジャスティン王子に全部送り返して下さい」
送り返すのも不敬罪に当たるかもしれないけど、受け取った=公妾を受け入れたと勘違いするタイプだからあの馬鹿王子。そう、きっちりかっちり突き返そう。
「わかりました奥様。幸いなことに今日の鳥当番は燕のイザークです。半刻も待たずにプレゼントをジャスティン王子にお返しできます」
「……リンス、少し待って下さい」
テキパキとプレゼントの箱をまとめだしたリンスさんを旦那様が止めた。
え?どうして止めるの旦那さま?こんな恐ろしいプレゼント早く返しましょうよ~。
「ジャスティン王子は、度重なる公務怠慢により第一王子夫婦の予算を削られています。しかもモーションの地方の魔物の吹き溜まりを放置していた罰で、領地を没収され今は南方のアレドリア一つしかないはずです。いくら……この国有数の歓楽街と言えども徴収する税金は国で決められています」
ジャスティン王子が再三の農民の訴えを無視していたため、モーション地方には『魔物の吹き溜まり』と呼ばれる魔界に通じる穴が形成されていたそうで。
小さいうちは小物の魔物だけが、穴が大きくなるにつれ大型で強い魔物が大量に湧き出るようになってしまう。それを放置し続けると魔物のスタンピートに発展する。
旦那さまが英雄と呼ばれる切っ掛けとなった事件も放置された魔物の吹き溜まりが原因だった。
大陸全土に共通認識として多数の魔物の群れを目撃したら、その土地の統治者報告する義務がある。
土地の統治者は速やかに国に報告し、騎士団に魔物を討伐を依頼する。魔物を討伐すれば、大体の小さな穴は自浄作用で塞さがるけど、穴が塞がらない場合は自国の聖女の聖なる力で穴を塞いでもらう。
もし、自国に聖女が居ないまたは、聖女の聖力が弱い場合は女神アルバトール教会の聖都アルストロメリアスから高位聖女を派遣して対処を頼むことになっている。ちなみに、ミリア妃は脆弱な聖女なので後者です。聖女は厳しい修行して聖徳を積むと聖なる力も増大する。本人の素養もあるけど頑張れば上限を越えることも出来るそうです。
ミリア妃はグランシア国のただ一人の聖女として王子妃になった。でも、修行より歓楽街アレドリアでの遊びに夢中。修行をサボりまくっているので、結婚から2年たっても脆弱な聖女と揶揄られほど、聖なる力が弱い。
王もお姉さんの代わりに擁立したミリア妃がここまで使えないとは予測していなかったようで。聖都より高位聖女アリアナを召集して、ミリア妃の家庭教師お願いしている。勉強嫌いのミリア妃は逃げ回っているようだけど。
今回のモーシャン地方の魔物は旦那さまたち獣人騎士団が討伐出来た。でも、大きな穴に成長していた『魔物の吹き溜まり』から巨大なサイクロプスが出現した。その瞬間、旦那さまが私の渡した黒丸くん改を当て、身動き取れなくしてからみんなで一網打尽にしたそうだす。お役にたててよかったよ~。
その後、念のため同行していた聖女アリアナに穴を塞いでもらった。
旦那さまは、暫く考え込んだ後、梟獣人のクロウさんを呼んだ。クロウさんは茶色の長い前髪が目の下まで覆い表情が伺えない青年だった。眠たそうにうつらうつらするクロウさんにアレドリアの調査を命じていたけど、大丈夫かなー?
幸い、王命じゃないので、公妾は拒否できるそうです。旦那さまは私の拒否する意向を再度確認すると、美しい形の口角を僅かに上げた。
旦那さまはジャスティン王子が王に王命にしてくれと懇願する前に正妃とダニエル王子を味方に付けて王に進言する、王城に出立した。
どちらにしても、今日から5日間はダニエル王子と領地周りを行う予定の日で王城に行くことになっていたから。寂しいけど、遠方のモモサラ地方にも魔物が出没するとの報告があり、偵察と討伐も兼ねているので我慢です!
最近は魔物の動きが活発化して、モーシャン地方の他にも『魔物の吹き溜まり』が多数見付かっている。獣人騎士団の他にも第2、第3騎士団も魔物討伐に向かったり、聖女アリアナが大きな穴を塞いだりと慌ただしい。巷では300年前勇者に倒され聖女に封印された魔王復活の兆してはないかと騒がれている。
翌日。若奥様として旦那さまが居ない留守の屋敷を守りますよ~!
気合いを入れてシャーリングさんに教わりながら書類仕事をしていきます。少しでも旦那さまのお役にたてるように頑張ろう。
仕事の合間に、シリウスと遊びます。今日は小麦粉粘土です。古い小麦粉を厨房で頂いたので、絵の具で色を付けて捏ねていきますよ。
「あかっ、とまと。まるまる~」
シリウスはコネコネ混ぜる感触が楽しいのか、出来た粘土を潰しては丸めてを繰り返していた。
最後にいびつに伸ばした赤い粘土と、青い粘土を隣に置いて「マアマとおとうしゃん」と、ニコニコしていた。うう、可愛いすぎるよ~。
庭園の東屋に移動して、おやつにミミさん特性ニンジンプリンを食べていると、険しい表情のスージーさんが駆け込んできた。
「大変だぜっ!馬鹿王子が奥様を迎えに来たと玄関で騒いでやがる。今、シャーリングとリンスが抑えてる。特急で鳥を飛ばしたからよ。王妃の使いが回収に来るまで厄介だから獣人騎士団に逃げるぜ!」
馬鹿でも一国の王子。屋敷の獣人たちで取り押さえるのは簡単だけど、怪我でもさせたら大事になる。責任を取って公妾になれって絶対言うタイプだもの。
「え??待って下さい!シリウスもいいですか?」
屋敷の不穏を敏感に察したシリウスは私に抱き付いた。ジャスティン王子にシリウスを人質に取られたら困るから。
旦那さまからもし、ジャスティン王子が押し掛けて来てら、獣人騎士団の留守番を任せる副隊長のタスクさんを頼れと言われていた。
「ワタルも付けるからよ。一緒に逃げるぜ」
「シリウス様は護る」
スージーさんの後ろには、低く渋い声のワタルさんが控えていた。
直ぐに庭園を抜け、隠し部屋の階段から裏口に出て、ワタルさんの準備していた小ぶりな馬車に乗ると獣人騎士団詰所に逃げ込んだ。
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