63 / 74
事件は続くよ⑤ 贖罪
しおりを挟む薄く笑うミリヤ妃の前に歩み寄った旦那さまは、一枚の書類を鼻先に突きつけた。
「なに……それは?見せてっ!」
ミリヤ妃は旦那さまから書類をひったくると食い入るように見つめた。
「貴女が改竄したもうひとつの検査結果です」
「私の!な、なんで、これが有るのよ!こんなものっ!!」
ミリヤ妃は発狂したように叫び、書類をぐちゃぐちゃにするとびりびり破った。
「残念ですが、今破り捨てたのは写しです。本物は此処にあります。国王、王妃どうぞお読みください」
「ダメよ!見ないで!!」
叫び飛び出そうとしたミリヤ妃を兵士が取り押さえる。
「………なっ」
「こんな……酷いこと」
旦那さまに手渡された書類を見て国王さまは天を仰ぎ、正妃さまは顔面蒼白になりぶるぶる震え出した。
ええ?一体書類に何が書いてあったのですか?
「ミリヤ妃……検査結果に記載された堕胎手術歴は真実ですか?」深い悲しみの顔で正妃さまが詰問した。
え?堕胎手術って?赤ちゃんを下ろしたってことですか?
唖然とする私の視界に、ジャスティス王子の驚愕する顔が入った。王子も知らなかったんですね。
「真実ではありません!」
「嘘は赦しませんよ。王権で調査すれば直ちに解ることです!」ピシャリと正妃さまが撥ね付けた。びくりとミリヤ妃の体が固まる。何故か王さままで固くなってる。
「違っ、違うのです。まだ娼館の母の元にいた頃無理やり襲われて……それで、仕方がなかったんです!」泣き崩れるミリヤ妃を冷たく見下ろす正妃さま。
「仕方なく……4回も堕胎したと言うのですか!
記録では最後に堕胎手術を受けたのは去年と記載されています。
これも無理やりだと?王子妃の貴女を誰が無理やり襲うというのですか?」
堕胎はきっと内戦の折にお腹の子を亡くした正妃さまには一番赦しがたい罪。
耐えきれず泣く正妃さまの肩を国王さまが抱き寄せた。
「ミリヤ……フランソワ医師を問い詰めればわかることだ。それにじゃ、避妊魔法のかかった指輪はどうしたのだ?まさか……指輪が壊れるほど、聖女にあるまじき淫楽を繰り返したのか?」
鷹のように鋭く睨む国王さま。
「だって、ジャスティス王子だって私以外の女とやりまくってるのに、私だけ我慢するなんてかおしいです!聖女にだって性欲はあります」
ミリヤ妃の見苦しい言い訳にジャスティス王子もふが!ふが!抗議した。
「残念ですが……ミリヤ妃はもう聖女では居られません。命を尊ぶ女神は堕胎を赦していません。聖女を剥奪され堕胎罪に問われます。」
旦那さまがきっぱりと断言した。
「堕胎罪?下ろすこと事態が罪に問われると言うことですか?」
初めて聞く単語に説明を求めた私に教えてくれたのは、やっぱりアリアナさまだった。
「アルバート教会では女神の前に等しくみな平等です。それはお腹の胎児も例外ではありません。ですから、強制行為以外の堕胎は殺人とみなされ堕胎罪にあたり処罰されます」
「まさか…それは死刑ですか?」
恐る恐る聞くと旦那さまが私の肩に手を置く。
「安心してください。アルバート教会に死罪はありませんよ」旦那さまは、怖いくらいの笑顔を私に向けた。
「確かに死罪はありません。
ただ……命には命を持って贖罪します。ミリヤ妃が四人堕胎したならば、四人分の罪を自らの命で支払わなければなりません。しかも聖女の彼女にしか出来ない贖罪方法があるんです」
アリアナさまは痛ましそうに告げた。
「えーと?私には意味がわかりません」
死罪はない、でも命で償う。相反する贖罪とは一体?何をミリヤ妃にさせるつもりなんだろう?
「嫌よ!私は生け贄になんてならないわ!しかも四回もなんて、正気の沙汰じゃないわよ!」
ミリヤ妃は髪を振り乱し泣き叫ぶ。
「生け贄ですか?やっぱり死んでしまいますよ」
「死ぬことはありません……ただ『魔物の吹き溜まり』に落とされるだけです」
淡々と告げる旦那さまがむしろ怖い。物凄くミリヤ妃に怒っているのだけはわかりますよ。
「アリアナさま、『魔物の吹き溜まり』って聖女の力で塞がないと魔物が溢れちゃう穴でしたよね?そんな場所に落とされたら……ただじゃ済みませんよね?」聞くのも怖いけど、顔色の悪いアリアナさまに尋ねた。
「正確には、地中に蔓延る『魔物の吹き溜まり』の元である魔脈に鎖を付けて落とされます。
魔脈は落ちた生き物を強い瘴気で溶かし消化吸収します。聖女が落とされて場合、聖なる力も地肉と共に吸収されるので、魔脈の力の抑制になるんです。結果的に『魔物の吹き溜まり』が減少します」
溶かして、消化吸収するんですか?考えただけでおぞましいです。
真っ青になる私に更にアリアナさまは苦しそうに続けた。
「『生け贄』の贖罪には高位の聖女も同行します。何故だがわかりますか?」
解りたくないその意味を……でも、なんとなく解ってしまった。
「……そ、想像したく…ないです」
「残念ですが、ヴィヴィアンさんの想像通りなんです。この贖罪は生け贄の聖女が消化吸収され、命を失う直前に魔脈から引き上げて、同行した聖女の癒しの力で体を再生します……だから生け贄が死ぬこともありません」
生きたまま、消化吸収される激痛、恐怖。そして、死ぬような目に合わされても死ねず、再生されてまた魔脈に落とされる。恐ろしく残酷な地獄のような刑罰です。しかも、ミリヤ妃は、それを四回も……。
「つらいですか?ミリヤ妃。
でもね堕胎された貴女の赤ちゃんはつらさを知ることなく死んでいったのですよ。
生まれることの出来なかった、命の代わりに罪を償いなさい」
頭を振り、嫌々を繰り返すミリヤ妃に泣き張らした赤い目の正妃さまが諭すように言った。
40
あなたにおすすめの小説
独身皇帝は秘書を独占して溺愛したい
狭山雪菜
恋愛
ナンシー・ヤンは、ヤン侯爵家の令嬢で、行き遅れとして皇帝の専属秘書官として働いていた。
ある時、秘書長に独身の皇帝の花嫁候補を作るようにと言われ、直接令嬢と話すために舞踏会へと出ると、何故か皇帝の怒りを買ってしまい…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜
あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる