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第五話 昼食を共に
しおりを挟むある日の昼食時、私は食堂でいつものようにパンとスープを口にしていた。
すると、第二騎士団副団長ののライナー様が、満面の笑みを浮かべて私の近くにやってきた。
「やあ、ルーナ嬢。ちょうどよかった。実は団長が、君に話したいことがあるらしい。今から一緒に昼食をどうだ?」
ライナー様の言葉に、私は目を丸くした。
アシェン様が、私に相談? しかも昼食を共に?
「わ、私が、ですか……?」
「ああ。大事なことらしいからな、ぜひ聞いてやってほしい。ほら、あいつも待ってる」
ライナー様はそう言って、食堂の奥の一角を指差した。そこには、すでにアシェン様が座っている。彼は、ちらりとこちらに視線を向けているのが見えた。
普段と変わらない冷徹な顔だが、どこか落ち着かない様子にも見える。
これは、ライナー様の粋な計らいですね……!
私はライナー様の悪戯っぽい笑顔を見てすぐに察した。アシェン様が相談など、まずありえない。きっと、私とアシェン様を二人きりにさせるための、彼なりの気遣いなのだろう。
「はい! 喜んで!」
私は内心の動揺を隠して、にこやかに返事をした。そして、ライナー様に促されるまま、アシェン様のテーブルへと向かった。
テーブルに着くと、アシェン様は私の顔を一瞥する。彼の目の前には、遠目で見ているいつもと変わらないシンプルな料理が並んでいた。
「アシェン様、お誘いありがとうございます! 何か私にできることがございましたら、何なりとお申し付けください!」
私は座るなり勢いよく言った。アシェン様が私をじっと見てきたので、なんだかどぎまぎしてしまう。
「……ライナーが何を言ったか知らんが、特に相談することはない」
アシェン様の言葉に、私はそうだろうと頷いた。アシェン様が私に相談することなど、本に関すること以外であるはずもない。
「あら、そうですか。それは残念です。ですが、せっかくアシェン様とご一緒できるのですから。この機会を逃す手はありませんね!」
私は気を取り直しすように、自分のパンをちぎった。アシェン様はため息をつきたそうな顔で、食事を始める。
私と彼の間に、沈黙が流れる。いつもは賑やかな食堂だが、この一角だけはまるで別の空間のように感じた。
私はパンを頬張りながら、アシェン様が食事をする姿をじっと見つめる。彼は、一切の無駄なく、静かに食事を進めていた。
「アシェン様はいつもお忙しいのに、お食事はきちんと召し上がっているのですね。健康的で素晴らしいです!」
私はとにかく会話がしたいと話しかけると、アシェン様はわずかに眉をひそめた。
「……食事は訓練に直結するからな」
「なるほど! 常に最高のパフォーマンスを発揮するために、食事も欠かさないと。さすが、騎士団長様ですね!」
私はわざとらしく感心してみせる。アシェン様は何も言わず、ただスープを一口飲んだ。
食事中、私は一方的にアシェン様に話しかけ続けた。図書室での面白い出来事や、最近読んだ本の感想。アシェン様はほとんど相槌を打つこともなく、時折、視線だけで反応する程度だ。
それでも私は、アシェン様が食事の手を止めることはないが、ちゃんと話を聞いてくれていることに気づいていた。
そして彼の顔が、いつもよりほんの少しだけ、和らいでいるようにも見えた。
食事を終える頃には、私は満足感でいっぱいだった。
「アシェン様、本当にありがとうございました! 一生の思い出に残る、最高のランチタイムでした!」
私が笑顔で頭を下げると、アシェン様は無言で立ち上がる。そして一度だけ私を見て、踵を返した。
正面から見てもそうなのだから、当然彼の後ろ姿からは、感情を読み取ることはできない。
それでも、彼がどう思っていたとしても、今日、アシェン様と食卓を囲むことができた。
それだけで、私の人生は彩を残していく。
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