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第三章 過去世界
過去、或いは現実(1)
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頭が重い。ずきずきと痛む頭を押さえながら、わたしはゆっくりと体を起こした。周囲を見渡して、首を傾げる。
ここはどこだろう。見たことのない場所にいる。さっきまでわたしは、どことなく懐かしさを感じた銀髪で紅い瞳の美しい青年に抱きしめられていた気がするのだが、あれは夢だったのだろうか。
目を擦ろうと手を上げると、わたしの手が小さいことに気が付いた。まるで、子どもの手のようだ。しばらくじっと手を見つめ、身体にも目を向ける。全体的に小さい。やっぱり、子どもの姿になっている。
何が起こっているのか分からずぼーっと宙を見つめていたが、徐々に思い出してきた。『汝が望む世界は?』と誰かから問いかけられて、誰の声だろうと思っていたらいつのまにか目の前が真っ白になったのだ。
ここは、わたしが望む世界ということなのだろうか。何も願った覚えはないが、頭のどこかでは子どもになりたいと思っていたのだろうか。
立ち上がって、近くに置かれていた鏡の前に立つ。薄い桃色の髪はわたしと同じで、わたしの姿をそのまま小さくしたように見える。わたしの子ども時代、ということになるのかもしれない。わたしが幼かった時の記憶はすっぽりと抜けていて、判断ができない。
ちらりと扉に目を向ける。これが夢か現実かもわからないが、考えて部屋にいても仕方がない。外の空気でも吸いに行ってみよう。
こうやって一人自由に外に出られること自体が、珍しいことな気がするから。
部屋を出て広い廊下を歩く。調度品が綺麗に並べられていてよく手入れがされているということが伝わってくる。しかし、人の気配はしない。どうやったら外に出られるかも分からず、上の階に上れそうな階段を見つけたので思いつきで上がってみることにした。高い場所から景色を一望するのも悪くないかもしれない。
少し階段を上がるだけで息が切れる。わたしの体力はこんなにも少ないのかと少しショックを受けながらも、上を目指して歩く。あてもなくただ気の向くままに歩いていると、一番上らしきところまでたどり着いた。
高い石柵に寄る。眼下に広がるのは、息を呑むほど美しい光景だった。
街が広がり、家の屋根の色が鮮やかな色彩となっている。広大な緑や、きらめく川の流れが街を横切り、豊かな自然が街と調和しているのが見て取れる。遠くにはなだらかな丘陵が連なり、その上に点在する小さな村々が、まるで宝石のように輝いているようにも見えた。
そして、壮大な空。群青色の空に白い雲が点々と浮かび、絵画のようにも思えてくる。日の光が街を明るく照らしていて、それだけでこの場所がとても豊かだということが伝わってくる。
ここは、特等席だ。風が頬を優しく撫で、髪をそよがせる。広がる景色を刻むように眺めていると、涙が零れてきた。悲しいわけではない。どうしてか、涙が出てきた。
美しいこの街を、彼は守り続けているんだ……。
ふとそういう考えが頭に浮かんで、自分で疑問を抱く。実はわたしは、ここがどこなのかを知っているのだろうか。そう思うほどに、自然と浮かんできたのだ。
しばらく美しい光景を見つめていると、背後から足音が聞こえてきた。
「シェルミカ!」
名前を呼ばれ、驚いて振り向く。そこには、月の光を浴びているかのように綺麗な銀色の髪を持ち、血のように紅い瞳を持つ少年がいた。その容姿は人形と見まがうほどに整っていて、少年ながらとても美麗な人だ。
「シェルミカ、会えてよかった……」
彼はわたしに近づき、そのままわたしを抱き締めた。しばらく現状を理解できなかったわたしは、温かいとぼんやり思っていたが、徐々に顔に熱が集まってくる。
「あ、あの。わたし……」
「大丈夫ですよ。僕達も貴女と同じ状況です。これから一緒に話をしましょう」
彼はわたしと目を合わせてにこりと微笑んだ。美しい微笑みで、どこか大人びているように思えた。
ここはどこだろう。見たことのない場所にいる。さっきまでわたしは、どことなく懐かしさを感じた銀髪で紅い瞳の美しい青年に抱きしめられていた気がするのだが、あれは夢だったのだろうか。
目を擦ろうと手を上げると、わたしの手が小さいことに気が付いた。まるで、子どもの手のようだ。しばらくじっと手を見つめ、身体にも目を向ける。全体的に小さい。やっぱり、子どもの姿になっている。
何が起こっているのか分からずぼーっと宙を見つめていたが、徐々に思い出してきた。『汝が望む世界は?』と誰かから問いかけられて、誰の声だろうと思っていたらいつのまにか目の前が真っ白になったのだ。
ここは、わたしが望む世界ということなのだろうか。何も願った覚えはないが、頭のどこかでは子どもになりたいと思っていたのだろうか。
立ち上がって、近くに置かれていた鏡の前に立つ。薄い桃色の髪はわたしと同じで、わたしの姿をそのまま小さくしたように見える。わたしの子ども時代、ということになるのかもしれない。わたしが幼かった時の記憶はすっぽりと抜けていて、判断ができない。
ちらりと扉に目を向ける。これが夢か現実かもわからないが、考えて部屋にいても仕方がない。外の空気でも吸いに行ってみよう。
こうやって一人自由に外に出られること自体が、珍しいことな気がするから。
部屋を出て広い廊下を歩く。調度品が綺麗に並べられていてよく手入れがされているということが伝わってくる。しかし、人の気配はしない。どうやったら外に出られるかも分からず、上の階に上れそうな階段を見つけたので思いつきで上がってみることにした。高い場所から景色を一望するのも悪くないかもしれない。
少し階段を上がるだけで息が切れる。わたしの体力はこんなにも少ないのかと少しショックを受けながらも、上を目指して歩く。あてもなくただ気の向くままに歩いていると、一番上らしきところまでたどり着いた。
高い石柵に寄る。眼下に広がるのは、息を呑むほど美しい光景だった。
街が広がり、家の屋根の色が鮮やかな色彩となっている。広大な緑や、きらめく川の流れが街を横切り、豊かな自然が街と調和しているのが見て取れる。遠くにはなだらかな丘陵が連なり、その上に点在する小さな村々が、まるで宝石のように輝いているようにも見えた。
そして、壮大な空。群青色の空に白い雲が点々と浮かび、絵画のようにも思えてくる。日の光が街を明るく照らしていて、それだけでこの場所がとても豊かだということが伝わってくる。
ここは、特等席だ。風が頬を優しく撫で、髪をそよがせる。広がる景色を刻むように眺めていると、涙が零れてきた。悲しいわけではない。どうしてか、涙が出てきた。
美しいこの街を、彼は守り続けているんだ……。
ふとそういう考えが頭に浮かんで、自分で疑問を抱く。実はわたしは、ここがどこなのかを知っているのだろうか。そう思うほどに、自然と浮かんできたのだ。
しばらく美しい光景を見つめていると、背後から足音が聞こえてきた。
「シェルミカ!」
名前を呼ばれ、驚いて振り向く。そこには、月の光を浴びているかのように綺麗な銀色の髪を持ち、血のように紅い瞳を持つ少年がいた。その容姿は人形と見まがうほどに整っていて、少年ながらとても美麗な人だ。
「シェルミカ、会えてよかった……」
彼はわたしに近づき、そのままわたしを抱き締めた。しばらく現状を理解できなかったわたしは、温かいとぼんやり思っていたが、徐々に顔に熱が集まってくる。
「あ、あの。わたし……」
「大丈夫ですよ。僕達も貴女と同じ状況です。これから一緒に話をしましょう」
彼はわたしと目を合わせてにこりと微笑んだ。美しい微笑みで、どこか大人びているように思えた。
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