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第二章 神の使徒
冒涜者
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「ここがきょうかいだよ」
少年の妹にパンを届けた後、少年に案内されて青年達は教会の前に立っていた。少年は青年の手を引きながら、迷うことなく教会の中に入る。
ステンドグラスから差し込む日の光が虹色に輝き、教会内を照らしている。人の気配はせず、彼らが大理石の床を歩く音だけが甲高く響き渡る。
青年の後についてくる三人の騎士は、鋭い目で周囲を警戒しながら帯剣している剣の柄に手を添えている。少年はそれに気が付く様子はない。
「あれ。だれもいない……」
少年は青年の手を放して先を走った。全身を使って周囲を見渡しているが、空虚な神像が並んでいるだけである。妙な気配がして、青年も警戒心を強めて剣の柄に触れる。
「——冒涜者が、よく教会に姿を現わせますね」
どこからともなく現れた白いフードを着た者達が、青年達を囲んだ。三人の騎士は鞘から剣を抜いて、青年を守るように立ち位置を変える。
「子供を唆して教会に乗り込み、教会を穢すおつもりですか?」
少年を庇うように立った一人の者は、魔力を纏いながら青年に向けて刃物を向ける。少年だけはわけがわからないように、青年とその者を交互に見ていた。
「兄ちゃん。ぼうとくしゃって、なんのこと?」
「神を穢そうとする悪い奴のことだ。ルークも、この冒涜者に利用されそうになったんだよ」
「このお兄ちゃん、わるいことしていないけど。おれとスーにパンをくれたし、ほかのじいちゃんとかにもパンをくばってくれたんだ」
少年は、困った表情で青年を見ている。騎士と白いフードの者達は各々が魔力を纏い始め、一発触発状態となっている。
「彼は、我々の大切なお姫様をずっと捕まえていたんだ。捕まえて、酷いことをしていた。ルークは、お姫様のことを守りたいと言っていただろう?」
「うん。おれは、おひめさまを守るかみさまのしとになりたい」
「じゃあ、彼は倒すべき敵だ。お姫様を守るためには、倒さないといけない。分かるかい?」
「……うん。でも、おれは……」
少年は、彼の兄と青年を交互に見た。青年は特に何も言うことなく、フード越しに少年の反応を見ていた。少年の兄は、少年の頭に手を乗せ、彼を諭すように話す。
「ルークは優しいから、簡単には理解できないだろう。一旦、奥の部屋に行っておいで」
「……わかった。あんまり、ひどいことしないでね」
少年の兄は少しの間の後、頷いた。それを確認した少年は、ちらちらと青年達を気にしながら教会の奥に走って行った。それを見送った彼は、青年に体を向けて、冷たい声で述べる。
「偽善者が。ルークを騙すなど……」
「騙したつもりはありませんよ。お腹を空かせた子供に食事をを与え、教会の場所を尋ねただけです。偽善であることは、否定しませんが」
青年の言葉に怒りを感じた使徒達が動き出す前に、青年は流れる仕草で鞘から剣を引き抜いて、間近の使徒に切りかかった。不意をつかれた使徒は、体制を崩しながら飛びのいた。それが合図となり、騎士達も各々使徒達を相手にする。
少年の兄は、圧倒的な力で使徒達を切り伏せていく青年と、手慣れた動きで仲間を抑える騎士達を見て焦り、懐から魔道具を取り出した。それを横目で見た青年は、音も立てずに彼の背後に回って首筋に刀身を押し当てる。
「その魔道具が、貴方達の上司に通じる連絡手段なのですね」
「……っ、枢機卿様! 冒涜者が——」
首筋の刃物に怯えることなく使徒は魔道具に魔力を込め、そう言葉を発した。フードの下で眉を顰めた青年は、突然後方に膨大な魔力を感じて、睨みつけるようにそちらを見た。
白いローブに身を包み、顔を隠した強大な魔力を持つ人物は、周囲に白い炎を浮かべてそれらを青年に向けて放った。青年は使徒から離れ、同じように魔力を放ってそれらの炎を相殺する。そのまま流れるようにその人物に近づいて、剣に魔力を込めながらその人物に向かって振り下ろした。しかし目に見えない障壁がそれを阻み、その人物が軽く手を振ると暴風が青年に襲い掛かる。
宙を蹴って距離をとった青年のフードは、風によって外れていた。
鋭い紅い瞳を持った青年は、剣を構え魔力を纏いながら、白いローブの人物を強く睨みつける。
「……シェルミカを、どこにやったのですか?」
「貴方に教えるわけがないでしょう? あの時、我々の要求を吞まなかったのは貴方です」
二人はお互い隙を窺いつつ、距離を計っている。ステンドグラスからの日の光を浴びて輝く白銀の髪を揺らした青年は、剣呑な瞳を隠さないまま相手の反応と動向を観察する。
少年の妹にパンを届けた後、少年に案内されて青年達は教会の前に立っていた。少年は青年の手を引きながら、迷うことなく教会の中に入る。
ステンドグラスから差し込む日の光が虹色に輝き、教会内を照らしている。人の気配はせず、彼らが大理石の床を歩く音だけが甲高く響き渡る。
青年の後についてくる三人の騎士は、鋭い目で周囲を警戒しながら帯剣している剣の柄に手を添えている。少年はそれに気が付く様子はない。
「あれ。だれもいない……」
少年は青年の手を放して先を走った。全身を使って周囲を見渡しているが、空虚な神像が並んでいるだけである。妙な気配がして、青年も警戒心を強めて剣の柄に触れる。
「——冒涜者が、よく教会に姿を現わせますね」
どこからともなく現れた白いフードを着た者達が、青年達を囲んだ。三人の騎士は鞘から剣を抜いて、青年を守るように立ち位置を変える。
「子供を唆して教会に乗り込み、教会を穢すおつもりですか?」
少年を庇うように立った一人の者は、魔力を纏いながら青年に向けて刃物を向ける。少年だけはわけがわからないように、青年とその者を交互に見ていた。
「兄ちゃん。ぼうとくしゃって、なんのこと?」
「神を穢そうとする悪い奴のことだ。ルークも、この冒涜者に利用されそうになったんだよ」
「このお兄ちゃん、わるいことしていないけど。おれとスーにパンをくれたし、ほかのじいちゃんとかにもパンをくばってくれたんだ」
少年は、困った表情で青年を見ている。騎士と白いフードの者達は各々が魔力を纏い始め、一発触発状態となっている。
「彼は、我々の大切なお姫様をずっと捕まえていたんだ。捕まえて、酷いことをしていた。ルークは、お姫様のことを守りたいと言っていただろう?」
「うん。おれは、おひめさまを守るかみさまのしとになりたい」
「じゃあ、彼は倒すべき敵だ。お姫様を守るためには、倒さないといけない。分かるかい?」
「……うん。でも、おれは……」
少年は、彼の兄と青年を交互に見た。青年は特に何も言うことなく、フード越しに少年の反応を見ていた。少年の兄は、少年の頭に手を乗せ、彼を諭すように話す。
「ルークは優しいから、簡単には理解できないだろう。一旦、奥の部屋に行っておいで」
「……わかった。あんまり、ひどいことしないでね」
少年の兄は少しの間の後、頷いた。それを確認した少年は、ちらちらと青年達を気にしながら教会の奥に走って行った。それを見送った彼は、青年に体を向けて、冷たい声で述べる。
「偽善者が。ルークを騙すなど……」
「騙したつもりはありませんよ。お腹を空かせた子供に食事をを与え、教会の場所を尋ねただけです。偽善であることは、否定しませんが」
青年の言葉に怒りを感じた使徒達が動き出す前に、青年は流れる仕草で鞘から剣を引き抜いて、間近の使徒に切りかかった。不意をつかれた使徒は、体制を崩しながら飛びのいた。それが合図となり、騎士達も各々使徒達を相手にする。
少年の兄は、圧倒的な力で使徒達を切り伏せていく青年と、手慣れた動きで仲間を抑える騎士達を見て焦り、懐から魔道具を取り出した。それを横目で見た青年は、音も立てずに彼の背後に回って首筋に刀身を押し当てる。
「その魔道具が、貴方達の上司に通じる連絡手段なのですね」
「……っ、枢機卿様! 冒涜者が——」
首筋の刃物に怯えることなく使徒は魔道具に魔力を込め、そう言葉を発した。フードの下で眉を顰めた青年は、突然後方に膨大な魔力を感じて、睨みつけるようにそちらを見た。
白いローブに身を包み、顔を隠した強大な魔力を持つ人物は、周囲に白い炎を浮かべてそれらを青年に向けて放った。青年は使徒から離れ、同じように魔力を放ってそれらの炎を相殺する。そのまま流れるようにその人物に近づいて、剣に魔力を込めながらその人物に向かって振り下ろした。しかし目に見えない障壁がそれを阻み、その人物が軽く手を振ると暴風が青年に襲い掛かる。
宙を蹴って距離をとった青年のフードは、風によって外れていた。
鋭い紅い瞳を持った青年は、剣を構え魔力を纏いながら、白いローブの人物を強く睨みつける。
「……シェルミカを、どこにやったのですか?」
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