最強の魔法使いは、魔法が使えない少女を溺愛する

ラム猫

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第三話 優しい治療

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「怪我をしているようだね。見せてごらん」

 穏やかな声でそう言われ、フィオラははっとして立ち上がる。服に付いた花びらをはらってから、頭を下げた。彼の立ち振る舞いや服装が、確実に彼が貴族であることを示している。

「この程度の怪我、どうもありません」
「この程度……そうは見えないな。顔にも血が付いている」

 彼は細くしなやかな指をフィオラの顔に伸ばした。フィオラは思わず強く目を瞑って、一歩後ろに後ずさりする。そんな彼女を見た青年は、慌てた様子で手を引いた。

「ごめんね、怖がらせてしまったかな。君を傷つける気はないよ」

 困ったように微笑む青年の瞳には、フィオラを案じる色が浮かんでいる。その目が何だか暖かくて、同時にどこか寂しさを感じた。

「わたしは大丈夫です。あなた様にご迷惑をおかけするわけには、いきません」

 フィオラは再び首を振り、頭を下げてその場から離れようとした。しかし、青年に腕を掴まれて動けなくなる。

「待って。僕は、迷惑だなんて思っていない。そうだな……逆に、僕が君を癒したいんだ。僕から君への、お願いでもある」

 真っすぐと顔を見つめられ、フィオラはしばらく躊躇して目をさ迷わせた。こんなにも身分が高そうな人の手を煩わせるのはよくない、という心と、彼なら信用してもいいのではないか、という心がせめぎ合う。

 ……彼が、癒したいと言ってくれているのだから。

 フィオラは自分にそう言い聞かせて、彼の顔から視線を外しながら頭を縦に振った。

「よかった。じゃあ、君の怪我をよく見せてくれる?」

 目を柔らかく細めた彼を見るのが少し気恥ずかしく、フィオラは俯きながら手のひらを見せる。彼はじっくりとその傷を見つめ、痛ましそうに眉を下げる。

「どうしてこんな怪我をしたんだ。転んだのかい?」
「……そうです」

 原因がどうであれ、転んだのは事実だ。フィオラは頷いて、じっと自分の足元を見続ける。

 手に温かい力が流れ込んできて、フィオラは微かに顔を上げた。彼のアイスブルーの瞳は淡く光を発しており、治療が行われている手元は光に包まれている。みるみるうちに傷は塞がって、徐々に痛みも失われていった。

 同じように他の箇所も治していく彼の姿を呆然と見つめる。手慣れたように治療を行う彼の姿は、フィオラから見て眩しく、そして美しかった。

「これで全部かな」

 一連の作業のように流れる動きでフィオラの怪我を治した彼は、穏やかな笑みを浮かべた。

「ありがとうございます」

 フィオラは深く頭を下げて、感謝の気持ちを伝える。彼はなんてこともないように変わらず微笑み、花々へと目を向けた。

「ここはとてもいい場所だね。空気が澄んでいて、心が落ち着く」

 心地よい風が、目を瞑った彼の髪を揺らす。日の光を浴びながら佇む彼の姿には、誰もが目を奪われることだろう。

 フィオラは、彼が貴族であるにも関わらず、どうしてこのような場所にいるのか疑問に感じた。フィオラが知る貴族は、平民を下に見ている傲慢な存在で、このように一人で行動することはないものだと思っていた。

 何か訳ありなのだろうか。彼は柔らかな微笑みを浮かべているが、その瞳に諦めの色が隠されていることが関係しているのかもしれない。
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