大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第2章 鷲巣砦の攻防

3 真田成繁の死

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ダミアン・ルビンスキ騎馬隊

 ダミアン・ルビンスキ騎馬隊6千はわずか1大隊の手投げ弾に翻弄されていた。全力でもって追撃をかけると、わからないように道端の草むらに手投げ弾を投げてくる。追いかけている身だから、爆発しようとする手投げ弾に突っ込んでいくことになる。その都度、馬がびっくりして騎手を投げ出す。けっこう死傷者も出ていた。左右から追い越して包囲したいが、整備された道を走るのと整備されていない、でこぼこの荒れ野を走るのとは速度が全然違う。結局、安全な距離を保って追いかけている。そうこうするうちに宿場町が見えてきた。ダミアン少将がルビンスキ少将に相談に行く。同じ少将だがダミアンのほうが先任順位は上だ。先に少将になったほうが順位が上なのでそちらが指揮をとる。同じ日に任命されたら時間の早いほうが先任順位が高い。軍隊は1秒でも早く偉くなったほうが勝ちだ。

 「ルビンスキ少将、どう思う?あの宿場町、敵がいると思うか?」

 「逆茂木が見える。土嚢も。まあ、待ち構えていますね。不用意に突っ込んだら、道の両側からつるべ打ちされそうですね。」

 「・・・馬で突っ込んで市街戦か・・・ぞっとするな。斥候を出して敵戦力の確認からだな。大砲の到着を待ったほうがいいな。ルビンスキ少将、ここを頼めるか。小官は迂回して、この先を威力偵察してみる。」

 「了解です。あと2時間ほどで日が暮れます。霧も出始めています。気をつけてください。」

 「斥候出し、よろしく頼む。では行ってくる。」

 ダミアン少将が威力偵察を決めたこと、霧が出てきたことが真田成繁の不幸を招く。


有賀駅伝真田少将

 「・・・赤の信号弾は、春日から撤退。白の信号弾は救援求む。黄色の信号弾は有賀から撤退せよ。でいこうか。」

 「了解いたしました、殿。」

 「殿はよせ。護国省から軍人として派遣されておるからして、少将という階級で呼称せい。」

 「はっ、真田少将、道中お気をつけください。霧が出てきておるようです。」

 「うむ、わかった。有賀は頼んだ連隊長。」


大津街道 春日と有賀との中間点付近

 真田少将と供の者10名あまり、春日への帰りを急いでいた。

 「うん?馬の足音が聞こえんか?多いぞ。」

 「西南のほうから聞こえますね。」


ダミアン少将

 「少将殿、前方から人の話し声が聞こえます。ルシア語ではありません。」

 ここは敵地、味方はいない。なら敵だ。

 「前列、銃構え、声のする方に撃て!」

 ババーン!

 馬のいななき、混乱したような外国語、銃声の音。撃ち返してきた。


真田少将側

 ルシアの騎馬銃はマスケット銃を途中でぶった切ったような形をしている。皇国の騎馬銃よりは長いが、馬上で取り回しやすいように短い。従って皇国と同じく命中率は悪い。だが、霧の中のめくら撃ちがあたってしまった。



 真田少将の胸に。

 「ぐうう。」

 真田少将の胸から鮮血が飛び散る。

 「とのおおお!」
 「か、春日に逃げ込めえええ!」

 この日、ダミアン少将は大金星をあげたことを翌日になるまで知らなかった。そして、確実にその場で仕留めていたら、座光寺繁信への指揮権移行がもっと手間取ったであろうことも。重傷ではあったが、真田成繁はまだ生きていた。座光寺繁信へ真田家の家督と軍の指揮権を渡すという意思表示をする時間があった。

ダミアン少将

 「ダミアン少将、馬の足音が遠ざかります。多くありません。せいぜい、数騎のようです。」
 「伝令か?イヤ違うな。伝令なら普通1騎だ。それよりも我々の存在を知られた。霧も深くなって見えん。ここらで引き返そう。」
 「はっ。」


春日駅伝(ダミアン・ルビンスキ騎馬隊が春日駅伝に迫っていた頃)

 「第五大隊が通過していきます。敵追撃ありません。」
 「ふう、突っ込んでこないな。」

 平澤参謀長がつぶやく。

 「馬は山や市街には向いていませんからね。大砲を待つつもりでしょう。賢明な判断です。だが、これで時間が稼げました」

 座光寺繁信が答える。

 「報告。霧が深くなり、何も見えません。」
 「見張りを増やせ。空けておいた逆茂木・土嚢を元に戻せ。連隊長、敵が攻めてこないのであれば今のうちに兵に食事をさせてはいかがでしょう?」
 「うむ、そうするか。」
 「小官もメシとみ~ずを頂いてきます。」

  伊藤中尉のほうを向いてニヤリとする。伊藤中尉も苦笑いをしている。



春日駅伝食堂

 にぎりめしと水で食事を手早く済ませる。立ち上がろうとしたところで騒ぎが起こる。

 「とのが負傷~!軍医、軍医はおらぬかあ。早く、はやくう」

 慌てて玄関に駆けつける。両脇から護衛に抱きかかえられた真田成繁がいた。制服の胸がぐっしょり濡れている。軍医があわてて走ってくる。

 「そこの台に寝かせて。早く。」

 ハサミで服を切り、患部を見て絶句する。

 「こ、これは。」

 その様子を見て悟ったのだろう。真田公が手を振る。

 「もうよい。平澤・辰一郎・三澤もおるな。遺言を残す!わしに息子はおらん。よって長女小夜の婿、座光寺辰一郎繁信を真田の跡継ぎとする。又、わしに与えられた権限により座光寺辰一郎繁信を准将に野戦任命する。」

 真田公が苦しそうに喘ぐ。10万石以上の大名の当主であれば少将・中将は当たり前だったが、野戦任命は任命者の階級未満でないといけなかった。だから、真田公は准将と言ったのだ。少将・中将になるには豊臣家の正式な任命が必要だった。

 「た、たついちろう、さ、さなだを・・・小夜を頼む。」

 それが真田公の最後の言葉だった。座光寺辰一郎繁信という名が歴史の中に登場した瞬間でもあった。

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