13 / 96
第2章 鷲巣砦の攻防
3 真田成繁の死
しおりを挟むダミアン・ルビンスキ騎馬隊
ダミアン・ルビンスキ騎馬隊6千はわずか1大隊の手投げ弾に翻弄されていた。全力でもって追撃をかけると、わからないように道端の草むらに手投げ弾を投げてくる。追いかけている身だから、爆発しようとする手投げ弾に突っ込んでいくことになる。その都度、馬がびっくりして騎手を投げ出す。けっこう死傷者も出ていた。左右から追い越して包囲したいが、整備された道を走るのと整備されていない、でこぼこの荒れ野を走るのとは速度が全然違う。結局、安全な距離を保って追いかけている。そうこうするうちに宿場町が見えてきた。ダミアン少将がルビンスキ少将に相談に行く。同じ少将だがダミアンのほうが先任順位は上だ。先に少将になったほうが順位が上なのでそちらが指揮をとる。同じ日に任命されたら時間の早いほうが先任順位が高い。軍隊は1秒でも早く偉くなったほうが勝ちだ。
「ルビンスキ少将、どう思う?あの宿場町、敵がいると思うか?」
「逆茂木が見える。土嚢も。まあ、待ち構えていますね。不用意に突っ込んだら、道の両側からつるべ打ちされそうですね。」
「・・・馬で突っ込んで市街戦か・・・ぞっとするな。斥候を出して敵戦力の確認からだな。大砲の到着を待ったほうがいいな。ルビンスキ少将、ここを頼めるか。小官は迂回して、この先を威力偵察してみる。」
「了解です。あと2時間ほどで日が暮れます。霧も出始めています。気をつけてください。」
「斥候出し、よろしく頼む。では行ってくる。」
ダミアン少将が威力偵察を決めたこと、霧が出てきたことが真田成繁の不幸を招く。
有賀駅伝真田少将
「・・・赤の信号弾は、春日から撤退。白の信号弾は救援求む。黄色の信号弾は有賀から撤退せよ。でいこうか。」
「了解いたしました、殿。」
「殿はよせ。護国省から軍人として派遣されておるからして、少将という階級で呼称せい。」
「はっ、真田少将、道中お気をつけください。霧が出てきておるようです。」
「うむ、わかった。有賀は頼んだ連隊長。」
大津街道 春日と有賀との中間点付近
真田少将と供の者10名あまり、春日への帰りを急いでいた。
「うん?馬の足音が聞こえんか?多いぞ。」
「西南のほうから聞こえますね。」
ダミアン少将
「少将殿、前方から人の話し声が聞こえます。ルシア語ではありません。」
ここは敵地、味方はいない。なら敵だ。
「前列、銃構え、声のする方に撃て!」
ババーン!
馬のいななき、混乱したような外国語、銃声の音。撃ち返してきた。
真田少将側
ルシアの騎馬銃はマスケット銃を途中でぶった切ったような形をしている。皇国の騎馬銃よりは長いが、馬上で取り回しやすいように短い。従って皇国と同じく命中率は悪い。だが、霧の中のめくら撃ちがあたってしまった。
真田少将の胸に。
「ぐうう。」
真田少将の胸から鮮血が飛び散る。
「とのおおお!」
「か、春日に逃げ込めえええ!」
この日、ダミアン少将は大金星をあげたことを翌日になるまで知らなかった。そして、確実にその場で仕留めていたら、座光寺繁信への指揮権移行がもっと手間取ったであろうことも。重傷ではあったが、真田成繁はまだ生きていた。座光寺繁信へ真田家の家督と軍の指揮権を渡すという意思表示をする時間があった。
ダミアン少将
「ダミアン少将、馬の足音が遠ざかります。多くありません。せいぜい、数騎のようです。」
「伝令か?イヤ違うな。伝令なら普通1騎だ。それよりも我々の存在を知られた。霧も深くなって見えん。ここらで引き返そう。」
「はっ。」
春日駅伝(ダミアン・ルビンスキ騎馬隊が春日駅伝に迫っていた頃)
「第五大隊が通過していきます。敵追撃ありません。」
「ふう、突っ込んでこないな。」
平澤参謀長がつぶやく。
「馬は山や市街には向いていませんからね。大砲を待つつもりでしょう。賢明な判断です。だが、これで時間が稼げました」
座光寺繁信が答える。
「報告。霧が深くなり、何も見えません。」
「見張りを増やせ。空けておいた逆茂木・土嚢を元に戻せ。連隊長、敵が攻めてこないのであれば今のうちに兵に食事をさせてはいかがでしょう?」
「うむ、そうするか。」
「小官もメシとみ~ずを頂いてきます。」
伊藤中尉のほうを向いてニヤリとする。伊藤中尉も苦笑いをしている。
春日駅伝食堂
にぎりめしと水で食事を手早く済ませる。立ち上がろうとしたところで騒ぎが起こる。
「とのが負傷~!軍医、軍医はおらぬかあ。早く、はやくう」
慌てて玄関に駆けつける。両脇から護衛に抱きかかえられた真田成繁がいた。制服の胸がぐっしょり濡れている。軍医があわてて走ってくる。
「そこの台に寝かせて。早く。」
ハサミで服を切り、患部を見て絶句する。
「こ、これは。」
その様子を見て悟ったのだろう。真田公が手を振る。
「もうよい。平澤・辰一郎・三澤もおるな。遺言を残す!わしに息子はおらん。よって長女小夜の婿、座光寺辰一郎繁信を真田の跡継ぎとする。又、わしに与えられた権限により座光寺辰一郎繁信を准将に野戦任命する。」
真田公が苦しそうに喘ぐ。10万石以上の大名の当主であれば少将・中将は当たり前だったが、野戦任命は任命者の階級未満でないといけなかった。だから、真田公は准将と言ったのだ。少将・中将になるには豊臣家の正式な任命が必要だった。
「た、たついちろう、さ、さなだを・・・小夜を頼む。」
それが真田公の最後の言葉だった。座光寺辰一郎繁信という名が歴史の中に登場した瞬間でもあった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
