大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第2章 鷲巣砦の攻防

5 真田作戦会議 鷲巣砦にて

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鷲巣砦本丸作戦会議

 平澤参謀長が発言する。

    「・・・と言うわけで、この鷲巣砦は皇国軍がライナの侵攻があった後に弾薬・食糧の集積地として整備されてきました。3万が1年過ごせる食糧、300万発の弾、なによりここが選ばれたのは頂上に泉があったからです。」

    座光寺改め真田繁信。准将の襟章が目をひく。実は平澤参謀長のを借りている。

    「小官も当時参謀本部にいて関わったから知っている。1年以上かけて準備してきた。備蓄としては十分以上にある。1万以上の兵がここに籠もれば、アーネン・ニコライは大津に手を出せないはずだった。だが、諸君も味わったあの火力優勢。鷲巣の兵力が平野に降りたとたんに、反転されて大砲に粉砕されるだろう。」

    「・・・今ルシア軍は小和田におります。逆落としに攻勢をかけますか?」

    「却下だ。同じ言葉が問題となる。火力優勢。結論、ルシアが大津に進軍しても動けない。動いたらやられる。」

    「しかし、政治的にはまずいですな。松平公がなぜ助けんと騒ぐのは目に見えている。」

    「まずいといえば国元のこともある。早く帰って新体制を固めないとまずい。すこぶるまずい。」

     コンコンと戸が叩かれ、返事をする前に慌ただしく開けられる。

    「報告。ルシアが山を登って来ます。」

    「なにい、本当か?攻撃してくれるのならこんなありがたいことはない。」

    連隊長や参謀団と一緒に飛び出す。一番高いのは見張り台だ。5・6人しか登れない。

    「参謀長と連隊長だけ来てくれ。」

    鷲巣砦からは小和田はもちろん鷲川、はるかウスリー川まで見渡せる。

    「確かに登って来る。」

    一本しかない山道をルシアの大軍が登って来る。

    「急な山道なのに重い大砲を引っ張り上げるつもりか。ご苦労なことだ。しかし、何故だ?大津を攻めれば落とせるのは皇太弟もわかっているはずだ。・・・まあいい、来るというなら相手をしよう。」

    平澤参謀長がボソリと呟く。

    「・・・単なる推測ですが、繁信様を好敵手として認めたのでは?手合わせしたい誘惑に負けたのでは?」

    「・・・ほう。」

    「敵の大砲火力の充実ぶり、いかが思われましたか?ある論文を思い出させませんか?」

    「【火力の薦め】か?思ったよ、自分が書いた論文だもの。それと【諸兵科協働】。砲で叩いて騎馬で追撃。まあ、やりたかったことをやられた感が半端なかった。」

    「それです。明らかに皇太弟は論文を読んでいます。座光寺の名前は脳裏に刻まれていたでしょう。その座光寺が敵の中にいた。意識せざるを得ないでしょう。本人はもっともらしい理由を周囲に言っているでしょうが、好敵手に対する敵愾心ですよ。論文を盗用したという後ろめたさもありそうですね。」

    「・・・鷲巣砦は小官が縄張りをした。当然、大砲は意識したよ。それと・・・」

    「それと?」

    「【火力の薦め】を読んでいるなら、【段列】も採用しているだろう。」

    当時の軍隊は武器弾薬・食糧等の備蓄は決まった場所に置いており、そこから運んでいた。当然のことながら、距離が離れるほど兵站は苦労することになる。【段列】は大砲ならば大砲に必要な弾薬・備品を荷馬車に積んで大砲の移動について行くという意味だ。特に大砲・銃器は弾がないと意味がない。迅速に撃ち続けるためには、必要な弾が常に手元になければならない。論文では特に【段列】の重要性について述べていた。

    「チャンスがあれば、一発かませるかもしれない。」

    
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