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第2章 鷲巣砦の攻防
6 鷲巣砦攻防戦 1
しおりを挟むルシア軍の布陣
ルシア軍が山道を登ってくる。小和田以外で大軍を展開しようとすれば鷲巣の踊り場と呼ばれる平らなところしかない。 が、いきなり進軍しようとはせず停止する。歩兵の一隊が先行してきて、踊り場で横一列に並ぶ。横一列のまま、ゆっくりと歩き始めた。全員、下を見ている。
鷲巣砦 皇国軍
座光寺改め真田辰一郎繁信がその様子を見て感心する。
「見たか?爆弾等が埋伏されていないか確認している。さすがだアーネン・ニコライ。埋伏火薬による煙幕作戦から学習している。爆弾埋めないでよかったよ。爆弾を埋めて置いて那須与一に矢で点火してもらおうかなんて、ちょっと考えていた。やらなくてよかった。やっぱりライナとは違う。」
アーネン・ニコライ
「なんと攻めにくい城だ。砦?とんでもない。立派な城だ。断崖絶壁の上の岩山?だがしかし、それでいてしっかり広い。」
踊り場の先は長い斜面が続いている。斜面の中央に細い道が続いている。その先が鷲巣砦の入口である西の丸の門だった。踊り場からその門までざっと400メートルはあった。堀はない。斜面の終りに石垣が3メートルぐらいの高さに組まれている。踊り場から見て左は鷲川。砦と川の間は切り立った斜面だ。川ははるか下に見えている。踊り場から見て右は川よりも下まで切り立っていた。
「これでは包囲もできない。踊り場から攻めのぼるしかない。・・・この際だ、ライナに汚名挽回の機会を与えよう。伝令、宛 ライナ選帝侯。本文 ライナ選帝侯に先陣の栄を譲る。目標、前面の門。突破の暁にはルシアの賛辞を送る。ライナに幸あれ。発 アーネン・ニコライ 以上」
ここでライナを使うのは妥当な判断だと言える。ライナに名誉挽回の機会を与えたと言えるし、いきなりルシアの精鋭をぶつける気もない。見てわかった。1日や2日で落とせる城ではない。砲を射程距離まで近づけて、門と城壁を破壊したいところだが急な斜面だ。工事をしなければ設置できない。
しばらくしてライナ本陣から3千ほどが進軍しはじめた。ライナの先鋒、クラッツ伯である。現状、ライナは歩兵のみである。騎馬隊は逃げ去ったまま。クラッツ伯、決死の形相である。
「すすめええ~、ライナの名誉挽回じゃあ。なんとしても門を破り、場内に一番乗りじゃあ。ものどもおおお、続けええ。」
と、そこへいきなり城壁の上から胸に抱えるほどの巨大な石が転がり落ちてきた。無数に。斜面を転がり落ちる。集団で斜面を駆け上っていたライナ勢をなぎ倒す。
「ぐああああ、助けてくれえ。」
そここに血まみれの兵士たちが転がり、うめく。クラッツ伯、無念の形相。
「おのれええ、卑怯者めえ。卑しい盗賊のふるまい、恥ずかしくないのかあ。堂々と勝負せいい~。」
返事は次の落石群だった。
「ぎゃあああああ。」
むなしく多数の犠牲者を出しただけで退却する。ライナの損害、死者三百、負傷者三百、実に先鋒隊の2割に及んだ。
ルシア本陣
「砲設置工事は中止。危ない、砲を設置した後にやられていたら・・・ぞっとするな。」
クツーゾフがつぶやく。
「なんとも・・・石器時代の戦ですな。」
「冗談じゃないぞ。あそこは岩山。石の原料はいくらでもあるってことじゃないか。」
「敵の頼むは大砲にあらず、ただ位置のエネルギーあるのみ・・・」
「・・・普段なら、その詩的な表現に感心するところだが、今はその気になれんな。」
「大砲が使えないとなると手がありません。これ以上損害をこうむると大津攻略に支障が出ますぞ。」
「大砲、大砲か・・・軽砲が使えないなら射程の長い重砲を持ってくるしかない。」
「野戦機動についてこれないので置いてきたやつですね」
「至急呼び寄せろ。どれぐらいかかる?」
「重量の塊です。3週間かかるそうです。」
32ポンドカノン砲。砲身長290センチ。射程1900メートル。そして重量は・・・2500キロ。軽砲に較べて射程距離は約4倍。だが重量は2トン半もある。砲弾重量は一発15キロ。標準の1トン馬車では乗らない。専用の馬車に乗せて運ぶことになるが、準備も段取りも必要だ。鷲巣への山道は馬車が1台通るのがやっとだ。こいつは本来艦載用だ。
「何門ある?」
「残念ながら2門しか・・・」
「運んでくるのが大変なのは理解している。が、よろしく頼む。」
「は、かしこまりました。」
「よし、今から包囲持久戦に移行する。夜は音を鳴らせ。奴らを寝かせるな。・・・上から鷲巣砦を見下ろせる場所はないか?凧は無理だろう。山の風が読めんだろうし、高低差が400メートルもあっては難しい。」
「探さないといけませんが、見たところあっても相当遠距離になるでしょう。数キロも離れたら豆粒のようにしか見えんでしょう。」
「忌々しい地形だ。」
「当初におっしゃっていた山城への大砲の有効性の結論は出たかと思います。ここは山を降りて大津を攻めてはいかがでしょう?」
「・・・最初はそのつもりだったが、あまりにもピシャっとやられて神経がざわついている。せめて一撃を加えないと気がおさまらん。」
「・・・わかり申した。長い付き合いです。殿下のその気概がなければ殿下ではない。舐められたら負けです。やりましょう。」
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