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第3章 富国強兵のとき
5 小夜
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信州伊那辰野荒神山城
真田辰一郎繁信の正妻小夜。現在18歳、でもすでに2児の母。長男辰千代3歳、長女美奈1歳。成繁に男子はいない。下に女子2人がいる。次女鶴、14歳、九州の黒田家に嫁いでいる。まだ子はない。3女幸、11歳、こちらはまだ松本城で暮らしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小夜10歳、父親に呼ばれる。母上もいる。なんか雰囲気が変だ。
「とうさま、ご機嫌うるわしゅう。」
「おおおお、良い挨拶じゃのう。さあ菓子をやろう。金平糖は好きじゃったろう。」
「ありがとうございます。」
「今日は小夜に話があってのう。ほれ、あれじゃ、辰野の嫡男に辰一郎というのがおってのう。18になりよる。士官学校を首席で卒業しおった。今度、陸軍大学に入ることになった。士官学校のときにのう、論文を書きよって教官が感心してのう、上へ上へ回されて、とうとう関白(豊臣秀安)様のお目に止まったのじゃ。それでのう、参謀本部というのが護国省の中に作られることになった。これは内緒の話じゃが、陸軍大学を卒業したら、辰一郎めは参謀になる予定なのじゃ。」
「???」
「あなた、それでは小夜にはなんのことかわかりませんよ。小夜、殿は辰一郎様が小夜のお婿さんにどうかとおっしゃっているのよ。」
「お婿さん!」
「そうよ。かあさまもね。辰一郎様なら立派な旦那様になると思うわ。どうかしら?」
「わたくしのだんなさま・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
小夜、両親の前から下がってくると侍女のかえでを呼ぶ。
「かえで、大変よ。わたくしの旦那様が決まったみたいだわ。そなたの実家は探索方だったわね。調べて、調べて。座光寺辰一郎繁信様、どのようなお方か。」
「まあ、おひいさま、おめでとうございます。では、さっそくに弟にやらせまする。ほっほっほ、弟は私には逆らえませんのよ。お任せくださいましな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おひいさま、辰一郎様が大学に入る前に里帰りなさいます。お顔を見られる絶好の機会でございますよ。」
「まあ、辰一郎様が里帰りなさる・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
松本城に向かう道のとある民家。探索方明富家の使用人の家だ。ここに頭巾で顔を隠した小夜姫とかえでが潜んでいた。通常、大名の結婚というものは祝言の席ではじめて顔を見るということも珍しくなかった。小夜姫とかえでは松本城に挨拶に向かう座光寺辰一郎繁信の顔を民家の2階から見に来たのだ。
実は小夜姫、ちょっと辰一郎に対して気後れしている。調べてみると、出るわ出るわ、5歳にして論語を諳(そら)んじてみせたとか、儒教の教えは長幼の序ぐらいは社会秩序の形成には良いが、行きすぎると弊害があると喝破したとか、まあ話題が尽きない。結婚して教養のない女だと思われないか、とっても気になって来ている。
「おひいさま、来ました。」
この日、婚約の打ち合わせと陸軍大学校入学の報告を兼ねて松本城を訪れた辰一郎。陸軍大学校の黒い制服と制帽である。顔はいたって普通。美男ではない。すれ違って5分でどんな顔だったか忘れそうな。騎馬。轡持ちの下男が1人付いている。供の騎馬が10騎。これは辰野の国元からわざわざ出してきた近習どもだ。主君に挨拶に行くのだ。5千石の格式に見合ってなければならない。
小夜姫、辰一郎の横顔を食い入るように見つめる。
と、辰一郎が馬を止め、2階を見てにっこり笑ってくるではないか。
「その方らは、軒先きでしばらく待っておれ。ちょっと挨拶しなければならんお方がおられる。」
馬を降り、民家の前に立ち、案内を乞う。
「か、かえで、ど、どうしよう、どうしましょう。ま、まあ、どうしましょう。」
結局、2階で対面するはめになっていた。恥ずかしくて、頭巾のままそっぽを向いている。
辰一郎、ニコニコしながら頭を下げる。
「辰野の座光寺辰一郎繁信でござる。姫様には初にお目にかかる。いやあ、美人と評判の小夜姫様にお目にかかれて幸運でござる。拙者、子供は10人ぐらい欲しゅうござる。たまに浮気をしてしまうかも知れませぬが、生涯小夜姫様を大事に大事にしまする。どうか、この辰一郎の嫁になって下され。それとこれは西洋の習慣でござるが、花婿と花嫁が左手の薬指に同じ指輪をして夫婦であることを表すのでござる。ぜひ小夜姫様には祝言の席に、この指輪をして出て下され。辰一郎も指輪をしてくるでありましょう。」
「あうあう。」
小夜姫、圧倒されっぱなしであった。
真田辰一郎繁信の正妻小夜。現在18歳、でもすでに2児の母。長男辰千代3歳、長女美奈1歳。成繁に男子はいない。下に女子2人がいる。次女鶴、14歳、九州の黒田家に嫁いでいる。まだ子はない。3女幸、11歳、こちらはまだ松本城で暮らしている。
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小夜10歳、父親に呼ばれる。母上もいる。なんか雰囲気が変だ。
「とうさま、ご機嫌うるわしゅう。」
「おおおお、良い挨拶じゃのう。さあ菓子をやろう。金平糖は好きじゃったろう。」
「ありがとうございます。」
「今日は小夜に話があってのう。ほれ、あれじゃ、辰野の嫡男に辰一郎というのがおってのう。18になりよる。士官学校を首席で卒業しおった。今度、陸軍大学に入ることになった。士官学校のときにのう、論文を書きよって教官が感心してのう、上へ上へ回されて、とうとう関白(豊臣秀安)様のお目に止まったのじゃ。それでのう、参謀本部というのが護国省の中に作られることになった。これは内緒の話じゃが、陸軍大学を卒業したら、辰一郎めは参謀になる予定なのじゃ。」
「???」
「あなた、それでは小夜にはなんのことかわかりませんよ。小夜、殿は辰一郎様が小夜のお婿さんにどうかとおっしゃっているのよ。」
「お婿さん!」
「そうよ。かあさまもね。辰一郎様なら立派な旦那様になると思うわ。どうかしら?」
「わたくしのだんなさま・・・・」
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小夜、両親の前から下がってくると侍女のかえでを呼ぶ。
「かえで、大変よ。わたくしの旦那様が決まったみたいだわ。そなたの実家は探索方だったわね。調べて、調べて。座光寺辰一郎繁信様、どのようなお方か。」
「まあ、おひいさま、おめでとうございます。では、さっそくに弟にやらせまする。ほっほっほ、弟は私には逆らえませんのよ。お任せくださいましな。」
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「おひいさま、辰一郎様が大学に入る前に里帰りなさいます。お顔を見られる絶好の機会でございますよ。」
「まあ、辰一郎様が里帰りなさる・・・」
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松本城に向かう道のとある民家。探索方明富家の使用人の家だ。ここに頭巾で顔を隠した小夜姫とかえでが潜んでいた。通常、大名の結婚というものは祝言の席ではじめて顔を見るということも珍しくなかった。小夜姫とかえでは松本城に挨拶に向かう座光寺辰一郎繁信の顔を民家の2階から見に来たのだ。
実は小夜姫、ちょっと辰一郎に対して気後れしている。調べてみると、出るわ出るわ、5歳にして論語を諳(そら)んじてみせたとか、儒教の教えは長幼の序ぐらいは社会秩序の形成には良いが、行きすぎると弊害があると喝破したとか、まあ話題が尽きない。結婚して教養のない女だと思われないか、とっても気になって来ている。
「おひいさま、来ました。」
この日、婚約の打ち合わせと陸軍大学校入学の報告を兼ねて松本城を訪れた辰一郎。陸軍大学校の黒い制服と制帽である。顔はいたって普通。美男ではない。すれ違って5分でどんな顔だったか忘れそうな。騎馬。轡持ちの下男が1人付いている。供の騎馬が10騎。これは辰野の国元からわざわざ出してきた近習どもだ。主君に挨拶に行くのだ。5千石の格式に見合ってなければならない。
小夜姫、辰一郎の横顔を食い入るように見つめる。
と、辰一郎が馬を止め、2階を見てにっこり笑ってくるではないか。
「その方らは、軒先きでしばらく待っておれ。ちょっと挨拶しなければならんお方がおられる。」
馬を降り、民家の前に立ち、案内を乞う。
「か、かえで、ど、どうしよう、どうしましょう。ま、まあ、どうしましょう。」
結局、2階で対面するはめになっていた。恥ずかしくて、頭巾のままそっぽを向いている。
辰一郎、ニコニコしながら頭を下げる。
「辰野の座光寺辰一郎繁信でござる。姫様には初にお目にかかる。いやあ、美人と評判の小夜姫様にお目にかかれて幸運でござる。拙者、子供は10人ぐらい欲しゅうござる。たまに浮気をしてしまうかも知れませぬが、生涯小夜姫様を大事に大事にしまする。どうか、この辰一郎の嫁になって下され。それとこれは西洋の習慣でござるが、花婿と花嫁が左手の薬指に同じ指輪をして夫婦であることを表すのでござる。ぜひ小夜姫様には祝言の席に、この指輪をして出て下され。辰一郎も指輪をしてくるでありましょう。」
「あうあう。」
小夜姫、圧倒されっぱなしであった。
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