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第3章 富国強兵のとき
6 葬儀と商談
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真田繁信が信州へ帰って来た。何よりも先にすべきは成繁の葬儀であり、跡目を継いだという宣言だった。豊臣諸法度では相続は血縁に限定されている。下手をするとお家を乗っ取ったと言われかねなかった。【関白殿下のお許し】があるので表だっては出てこなくても、そう思うやつはいる。真田家の親族なんかは特に。しばらくは国元を離れられない。足元を固めなければ。葬儀には金に糸目をつけないぞ。もちろん、打算的な理由だけではなく尊敬する人であり、親しみを持てる人であった。本当に死んでほしくなかった人である。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「うむ、今帰ったぞ。父上のことは無念であった。ルシアには必ずお返しをするぞ。」
「はい、・・・はい。」
「菩提寺の禅海和尚と葬儀の打ち合わせをした。一月後ぐらいになるだろう。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
葬儀は京の関白の代理や公家衆が列席し、盛大に行われた。喪主は真田繁信。これをもって名実ともに信州真田家の家督を辰一郎が継いだことになる。嬉しいことに島津久義も列席してくれた。
「疾風を殺したこと、おじいさまが悔いておりました。本人は未だ傷が癒えず、信州にはこれませなんだ。何とか許してもらえないかと申しておりました。」
「・・・事をおさめるには、ああするしかなかったのでしょう。」
久義を厩舎に案内する。中にはひときわ大きな馬体の馬がいた。
「疾風の弟、赤鹿毛(せきかげ)です。可愛がってやって下さいとお伝え下さい。」
「おお、よろしいのか?」
「馬ももっと買っていただきたいとお伝え下さい。ルシアの騎馬隊の数の優勢、島津公ならば目に焼き付けておられると存ずる。」
軍馬は座光寺家の一大産業だ。体格や運動能力の高いもの同士をかけ合わせ、西に大きい馬がいると聞けば飛んで行き、東に速い馬がいると聞けば売ってくれといい、とにかく努力してきた。儲かる工夫をして来た。体格が良く、持久力もあって、速い。しかも軍馬として訓練済み。安く買えると思うなよ。出荷される軍馬は全て去勢された牡馬(ぼば、雄のこと)だ。去勢するのはまず敵に捕獲された時、優秀な血統を増やされるのを防ぐため。もちろん、表立って言わないが、買主が馬を増やして競争相手にならないようにする意味もある。それと去勢しておかないと、気は荒いわ、オス同士喧嘩はするわ、軍馬としては失格である。まあ、失格は言い過ぎかも知れないが使いにくいことは確かだ。この仕組みであればビジネスとしても成立する。それだけに赤兎馬の血統につながる種馬と牝馬(ひんば、メスの馬)の管理は厳しいけどね。赤鹿毛だって島津公に譲るのでなければ種馬としてハーレムを作ったはずだ。去勢前なら1万両でも不足するよ。
「確かに伝えまする。」
「もう一つ。」
「なんでござろう?」
「鉄製大砲の製造に成功いたした。」
「なんと。」
「製造した砲は全門、護国省に納める契約だ。が、平出屋とは関係ない赤羽屋という会社があってな。そこなら島津にも売れる。」
「そ、それで、いかほどで?」
「ルシアが使ってた軽砲と同等の砲、1門150両。」
「や、安い!」
この当時青銅製の大砲は300~400両した。ちなみに護国省には100両で納めることになっている。が、内政を進めるにあたって先立つものがない。真田藩、思ったより貧乏だった。そこで護国省に納める数をちょっと減らして、よそへ高く売りつけようという算段である。こういうことをするから、腹黒いと言われるのだ。
「月に20門は回してあげられる。」
「早速、国元に立ち帰り、ご返事申し上げる。」
「ああ、それと信州も火薬の原料の硝石が足りなくてね。回してくれないかな?」
「硝石でござるか?確認してみます。」
「良い返事を期待してるよ。」
島津は最近琉球を支配下においたはずだ。だが、この琉球。明への朝貢(ちょうこう 親分はあなたですと明に貢物を差し出すとそれより多くの下賜品をくれた。)もしていたはずだ。表向きは明に朝貢し、実質的には島津に支配されている。つまり、琉球なら明との交易が可能だ。皇国は明とは戦争継続中になっている。絶対売ってはくれない。信州は島津に大砲を売ってあげる代わりに硝石を売ってもらう。まあ、久義くんはわかってないようだが久豊なら意味を汲み取るだろう。
さあ、まだまだ金は足りない。金策に走らなければ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
松本城謁見の間
多くの商人が集められていた。思いつく限りの商人に声をかけた。
「皆の者、よく集まってくれた。今日の話は他でもない。松本の城下の近くに兵器廠を作ることになった。火薬・銃砲の製造を大々的に行う。これになあ、30万両かかるんだ。」
「30万両!」誰かが叫ぶ。
「だが金がない。それで考えたのだ。皆に出してもらおうとな。株を買ってくれ。松本兵器廠を株式会社にするつもりだ。今、都では株式会社が流行っていてな。今日は信州大学の松野学頭に来てもらっている。株式会社について説明してもらう。よく聞いてくれ。」
「信州大学の松野です。説明しますからよく聞いて下さい。・・・以上で説明を終わります。」
「皆、理解できたかな?売り出し価格1株100両からで3000株だ。今回は1株でも買った者は苗字帯刀を許す。」
商人の間にどよめきが広がる。100両で苗字帯刀の特権が!
人気が上がれば、株ももっと値段が上がるけどね。
「さらに上位10名には株を保持し上位10位でいる間は領主様から名が与えられるだろう。」
「なんと!」
顔見知りの松本の豪商がいた。
「おや、宮坂屋の甚右衛門じゃないか。例えばだなあ甚右衛門が筆頭株主になってくれたとする。そうなったら甚右衛門は宮坂甚右衛門兵太郎となる。宮坂を姓とし兵太郎の名を世襲してよい。兵太郎の代が変われば2代目宮坂兵太郎と名乗ることになるな。そうなれば立派な武門の家よ。息子の頭が良ければ士官学校の入学試験を受けさせてやるぞ。どうだ?」
「おおお!わての息子がしかんがっこう!」
例に挙げられてしまった甚右衛門は指名されたような形になり、意地でも筆頭株主になるために必死になった。
松本兵器廠の株は3倍の値がついた。すなわち真田のふところには90万両が転がり込んだ。
甚右衛門、息子が士官学校に入れるといいね。
「お帰りなさいませ、旦那様。」
「うむ、今帰ったぞ。父上のことは無念であった。ルシアには必ずお返しをするぞ。」
「はい、・・・はい。」
「菩提寺の禅海和尚と葬儀の打ち合わせをした。一月後ぐらいになるだろう。」
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葬儀は京の関白の代理や公家衆が列席し、盛大に行われた。喪主は真田繁信。これをもって名実ともに信州真田家の家督を辰一郎が継いだことになる。嬉しいことに島津久義も列席してくれた。
「疾風を殺したこと、おじいさまが悔いておりました。本人は未だ傷が癒えず、信州にはこれませなんだ。何とか許してもらえないかと申しておりました。」
「・・・事をおさめるには、ああするしかなかったのでしょう。」
久義を厩舎に案内する。中にはひときわ大きな馬体の馬がいた。
「疾風の弟、赤鹿毛(せきかげ)です。可愛がってやって下さいとお伝え下さい。」
「おお、よろしいのか?」
「馬ももっと買っていただきたいとお伝え下さい。ルシアの騎馬隊の数の優勢、島津公ならば目に焼き付けておられると存ずる。」
軍馬は座光寺家の一大産業だ。体格や運動能力の高いもの同士をかけ合わせ、西に大きい馬がいると聞けば飛んで行き、東に速い馬がいると聞けば売ってくれといい、とにかく努力してきた。儲かる工夫をして来た。体格が良く、持久力もあって、速い。しかも軍馬として訓練済み。安く買えると思うなよ。出荷される軍馬は全て去勢された牡馬(ぼば、雄のこと)だ。去勢するのはまず敵に捕獲された時、優秀な血統を増やされるのを防ぐため。もちろん、表立って言わないが、買主が馬を増やして競争相手にならないようにする意味もある。それと去勢しておかないと、気は荒いわ、オス同士喧嘩はするわ、軍馬としては失格である。まあ、失格は言い過ぎかも知れないが使いにくいことは確かだ。この仕組みであればビジネスとしても成立する。それだけに赤兎馬の血統につながる種馬と牝馬(ひんば、メスの馬)の管理は厳しいけどね。赤鹿毛だって島津公に譲るのでなければ種馬としてハーレムを作ったはずだ。去勢前なら1万両でも不足するよ。
「確かに伝えまする。」
「もう一つ。」
「なんでござろう?」
「鉄製大砲の製造に成功いたした。」
「なんと。」
「製造した砲は全門、護国省に納める契約だ。が、平出屋とは関係ない赤羽屋という会社があってな。そこなら島津にも売れる。」
「そ、それで、いかほどで?」
「ルシアが使ってた軽砲と同等の砲、1門150両。」
「や、安い!」
この当時青銅製の大砲は300~400両した。ちなみに護国省には100両で納めることになっている。が、内政を進めるにあたって先立つものがない。真田藩、思ったより貧乏だった。そこで護国省に納める数をちょっと減らして、よそへ高く売りつけようという算段である。こういうことをするから、腹黒いと言われるのだ。
「月に20門は回してあげられる。」
「早速、国元に立ち帰り、ご返事申し上げる。」
「ああ、それと信州も火薬の原料の硝石が足りなくてね。回してくれないかな?」
「硝石でござるか?確認してみます。」
「良い返事を期待してるよ。」
島津は最近琉球を支配下においたはずだ。だが、この琉球。明への朝貢(ちょうこう 親分はあなたですと明に貢物を差し出すとそれより多くの下賜品をくれた。)もしていたはずだ。表向きは明に朝貢し、実質的には島津に支配されている。つまり、琉球なら明との交易が可能だ。皇国は明とは戦争継続中になっている。絶対売ってはくれない。信州は島津に大砲を売ってあげる代わりに硝石を売ってもらう。まあ、久義くんはわかってないようだが久豊なら意味を汲み取るだろう。
さあ、まだまだ金は足りない。金策に走らなければ。
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松本城謁見の間
多くの商人が集められていた。思いつく限りの商人に声をかけた。
「皆の者、よく集まってくれた。今日の話は他でもない。松本の城下の近くに兵器廠を作ることになった。火薬・銃砲の製造を大々的に行う。これになあ、30万両かかるんだ。」
「30万両!」誰かが叫ぶ。
「だが金がない。それで考えたのだ。皆に出してもらおうとな。株を買ってくれ。松本兵器廠を株式会社にするつもりだ。今、都では株式会社が流行っていてな。今日は信州大学の松野学頭に来てもらっている。株式会社について説明してもらう。よく聞いてくれ。」
「信州大学の松野です。説明しますからよく聞いて下さい。・・・以上で説明を終わります。」
「皆、理解できたかな?売り出し価格1株100両からで3000株だ。今回は1株でも買った者は苗字帯刀を許す。」
商人の間にどよめきが広がる。100両で苗字帯刀の特権が!
人気が上がれば、株ももっと値段が上がるけどね。
「さらに上位10名には株を保持し上位10位でいる間は領主様から名が与えられるだろう。」
「なんと!」
顔見知りの松本の豪商がいた。
「おや、宮坂屋の甚右衛門じゃないか。例えばだなあ甚右衛門が筆頭株主になってくれたとする。そうなったら甚右衛門は宮坂甚右衛門兵太郎となる。宮坂を姓とし兵太郎の名を世襲してよい。兵太郎の代が変われば2代目宮坂兵太郎と名乗ることになるな。そうなれば立派な武門の家よ。息子の頭が良ければ士官学校の入学試験を受けさせてやるぞ。どうだ?」
「おおお!わての息子がしかんがっこう!」
例に挙げられてしまった甚右衛門は指名されたような形になり、意地でも筆頭株主になるために必死になった。
松本兵器廠の株は3倍の値がついた。すなわち真田のふところには90万両が転がり込んだ。
甚右衛門、息子が士官学校に入れるといいね。
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