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第3章 富国強兵のとき
7 ルシアの蠢動(しゅんどう)
しおりを挟むルシア帝都モスコー大宮殿
アーネン・ニコライは戦況報告と軍備再編のために一時帝都に帰国していた。時の皇帝ピョートル・ニコライに今後のルシアの方針を確認するためである。昨日ウスリーの戦いの勝利を祝して凱旋パレードが盛大に行われている。今やアーネンの人気はうなぎのぼりだった。鷲巣の戦いの実態は慎重に伏せられていた。皇帝が密談に使う紫の間。アーネンとクツーゾフとピョートル皇帝、宰相メンシコフ、財務大臣ザトコフ、兵站部長クロトキン中将の6人がいた。
アーネンが紙を皇帝に差し出す。ピョートルはそれを受け取り、目を通すと眉を跳ね上げる。
「15万!帝国軍のほぼ全軍ではないか。」
当時のルシアの常備軍は18万体制であった。これは当時のヨーロッパ列強の軍としても遜色ないものであった。だが、アーネンは大胆な大動員計画を提案していた。
「ルシア以外にもライナ・リトアニア・ラトビア・エストニア・ベラルーシから兵力の提供を受けます。合わせて21万の大陸軍を編成します。更に徴兵を実施し、兵力を増強します。これはクロトキンから説明してくれ。」
「は、ルシア全土に徴兵制を実施し、各村の20世帯に1人を供出させます。これを毎年実施し、最低でも毎年3万程度は確保できる見込みです。貴族階級にも将校を出させ、指揮系統の充実をはかります。帝都の守りは近衛を含めた3万と徴兵する3万で6万、何かあっても大陸軍が戻るまで十分帝都を守れる数かと思われます。」
この徴兵制度は農奴に近い農民たちにとっては今生の別れに等しかった。兵役期間が25年もあったのだ。
「ありがとう、クロトキン。大陸軍はハバロフスクに集結させ、休戦期間が終わるのを待って大津に侵攻させます。大津攻略後、大陸軍は朝鮮半島方面を攻略。大津は港湾の再整備を最優先します。大津攻略が完了次第バルチック艦隊を大津に回航して皇国の本土と大陸を切り離します。」
バルチック艦隊はスウェーデンに対抗するための艦隊戦力だった。当時スウェーデンは北欧の強国だった。ノルウェー・フィンランドを支配下に置きルシアを圧迫していた時期もある。だが今はドイツの紛争にかかりきりであった。今のヨーロッパ方面に問題のない時期だからこそ、ルシアは東方に手を伸ばせたと言える。とは言っても艦隊を全て回すような無謀な真似はしない。ルシアの艦隊はスウェーデンの1.5倍あった。3層戦列艦60隻。内20隻を回航予定だ。40隻あればスウェーデン艦隊に充分対抗できる。フリゲートなどの補助艦艇を合わせて総数80隻の予定だ。100門艦が20隻。ウスリーでは軽砲たった100門で皇国に勝利した。20隻で2000門を越える。圧倒的な戦力である。
「兄上、どうかやらせて下さい。うまくいけば我がルシアは東でも凍らない港を手に入れられます。博打は博打ですが得るものは大きい。これが成功すれば兄上は領土拡張帝と呼ばれるでしょう。」
ピョートルは世評にドンキホーテが皇帝になったような人物と呼ばれる。
「り、領土拡張帝。う~む、そうかそうか。」
「お待ち下さい。このメンシコフ宰相として確認させていただきたい。ザトコフ!国庫は持つのか?」
「・・・国債を発行するしかありません。馬車も増産しないとシベリアは遠い・・・21万を食べさせる食糧を運ぶだけで国内の馬車を動員する必要があるでしょう。つまり、市民生活に支障が出ます。1年で結果を出していただきたい。勝っても負けても1年で軍を引き上げて下さい。それ以上は持ちません。」
「もちろん1年でケリをつけるとも、このアーネン、伊達に【戦を変えた者】とは呼ばれていないぞ。」
もちろん運命の神は、そんな都合の良い神ではありえない。
結局、会議はアーネンによって押し切られた。
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