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第3章 富国強兵のとき
8 外務省と国土基盤整備省
しおりを挟む真田繁信、京都に来ている。朝廷から官位を賜るのだ。従五位上左衛門佐(じゅう ごい じょう さえもんのすけ)、真田家の家督を相続した者のスタートラインだ。松平家の中納言様は従三位だよ。知ってたかい?
関白秀安殿下が参内の介添をしてくれることになっている。参内の後、関白殿下と情報庁の設置について相談する予定だ。
実は緊張している。そりゃそうだろう。初めてなんだから。官位は八位ぐらいまであるらしいが、昇殿出来るのは6位から上だったか?よくわからない。関白殿下について行くだけだ。鷲巣砦で帝国を撃退した英雄ということで。今日は特別だということだ。お上直々にお言葉を賜るらしい。異例中の異例とか。
謁見の間は左右に貴族たちが居並ぶ。正面は御簾(みす)が垂れ下がっている。奥にお上がいらっしゃるのだろう。もちろん、ここでは分をわきまえ、お声がかかるまで頭を下げている。秀安殿下が口火を切ってくれる。
「お上、従五位上左衛門佐を賜りました真田辰一郎繁信がお礼に参内いたしております。」
「おお、そうか直答(じきとう)許す。御簾をあげよ。」
「ははあ、繁信直答が許されたぞ。御下問(ごかもん)にお答えするように。」
「ははあ。」
「繁信と申すか。昔、成繁とは二度ほど話したことがある。ウスリーと鷲巣の戦いのことを話してくれぬか。」
「はは、申し上げまする。ウスリーの戦い、真田成繁様の采配よろしきを得て敵左翼ライナ軍を5分で蹂躙いたしました。まず成繁様の指示にて那須与一が・・・」
参内はつつがなく終わった。お上におかれてはウスリーと鷲巣の戦いのことを聞きたがり、謁見時間を大幅に超過した。最後にお上は・・・
「おお、そうじゃ繁信、これからは信濃守を名乗って良いぞ。楽しい時間じゃった。」
京都豊臣家上屋敷
こじんまりした部屋。繁信と豊臣秀安殿下ともう1人、若い男性が同席している。
「これはな、息子の秀綱(ひでつな)じゃ、見知りおけ。」
秀安は秀吉と違って子だくさんだ。11男15女も子がいる。さすがに全員、正妻の子ではない。秀綱は嫡男だ。秀安が20歳の時に生まれているので32になるはずだ。若く見えるが若くはないな。オレより6つ年上か。
「よろしくお願いいたしまする。」
「秀綱じゃ、鷲巣の英雄に会えてうれしいぞ。こちらこそよろしく頼む。」
「さて、繁信。今日は相談があると言ったな。」
「はい、情報取集力の強化です。3日前、皇帝の側妃イサンドラが男子を出産しております。」
「なんと!」
「現皇帝に子が無いため、弟のアーネンが立太子されておりましたが、この王子が順調に育つようだと、将来的にアーネンの浮世のかじ取りは難しくなると思われます。イサンドラの父はドローネン辺境伯。ルシア第二の都、サンクトペテルブルクを領する太守です。サンクトペテルブルクはルシアの海の玄関とも呼ばれ、ヨーロッパとの海上貿易の最大拠点です。ルシア繁栄の要と呼ばれています。昔からここを直轄化したい王家と父祖の地を守りたい辺境伯家との確執があるようです。イサンドラは辺境伯の次女で13番目の側妃です。一方で正室のマリーネは役職貴族のクツーゾフ侯爵の娘です。クツーゾフ家は代々軍務貴族です。役職貴族と領地持ち貴族は反目し合っています。必然的にイサンドラとマリーネも水面下では足を引っ張り合っています。マリーネには子がいませんので、心おだやかではないと思われます。それとマリーネの父は鎮定軍の正軍師です。つまり、皇太弟の右腕です。」
「ううむ。」
「こういった情報は何の価値もありませんか?」
「今の情報でどこに不和のタネがあるかわかった。後はタネのあるところに肥料を撒けば良い。この価値を否定するやつは無能だと自ら言ってるようなもんだ。」
「こういう情報を収集する部署を設立したいのです。ものすごく金がかかりますが、その価値はあります。ヨーロッパでは国交のある国同士は大使という、ある程度国を代表する立場の者を相手国に派遣し合っています。実はこの大使のお付きの者のほとんどは間者なのです。」
ここで秀綱が口をはさむ。
「ところで、さっき3日前と言ったが、どうやって伝達した?馬を乗り継いでも3日では無理だぞ。」
おお、注意力あるねえ。答えは・・・・
「伝書鳩ですよ。詳細は勘弁願いますが、帝国に地下組織がありましてね。そこの協力を取り付けてます。こういう連中の面倒を見るにも金がかかります。外務省を作ってそこから大使を出します。外務省の下に情報庁を作ります。しかし、実は殿下直轄の情報組織です。外務省の仕事は外交ですが、実態は諜報組織の隠れみのです。」
「父上、やるべきです。」
おっと、思わぬ援軍が現れた。
「立ち上がりの費用は真田が持ちます。」
「いや、良い。それが知れればややこしいことになろう。費用はお上が出さねば、おかしい。」
「ありがとうございます。お願いついでに、もうひとつ。」
「なにかな?」
「日ノ本の基盤整備です。大阪と京は鉄軌道が開通しましたね。松本から尾張・京まで鉄軌道を敷設したいのです。同時に大阪から下関まで。九州では小倉から博多まで。下関と小倉は港湾施設を整備し、厳重に防衛をせねばなりません。これを1年でやります。
国営の日ノ本鉄軌道株式会社を立ち上げ、鉄軌道敷設工事を行います。資本金は全国の領主や商人から集めます。ですが、半分は国が持たなければなりません。
これが会社の設立概要でこれが土地収用法の素案です。
行きと帰りとで複線必要です。土地は相場の1割増しで買い取ります。
問題は大名の領地です。大阪と博多の間には無数の領地がございます。京と尾張・松本の間も。関白殿下に威光を示してもらわなければなりません。大阪・京は豊臣家の領地と直轄地しかありませんでした。今度は必ず反対する大名が出ます。ルシアの脅威が迫っています。間違いなく、大津・朝鮮半島・博多の経路でくるでしょう。信州で生産した武器・弾薬を鉄軌道で博多まで運ばなければ、この戦負けです。」
繁信は間違っていた。ルシアは博多には来ない。だが、来る・来ないに関係なく鉄軌道は絶大な経済効果を皇国にもたらした。
「お上にお許しを願わねばならんな。ところで、博多まで鉄軌を敷くなら朝鮮にも敷かんのか?」
「まことに勝手ですが、外務省以外に道路・鉄軌省も作っていただけるとありがたく思います。この10年、鉄軌道の敷設場所の検討や道路の研究などを行なってきた連中がおります。道路・鉄軌省に入れてやってください。朝鮮は・・・。おそらく間に合いません。作った鉄軌をルシアが利用するだけだと予想しております。」
「・・・まことに、百年に1人の天才ではきかんな。それで道路・鉄軌だけでよいのか?港もやれと言ったろう?名前が不適切ではないか?」
「・・・国土基盤整備省でいかがでしょう?」
「こくどきばんせいびしょう。うむ、それで行こう。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
繁信が帰った後。
「父上、自分は猛烈に嫉妬しておりますよ。今やっと、それを押さえ込んだところです。客観的に見て、アレを敵に回してはなりません。アレはまだたくさん隠し持っておりますよ。」
「・・・可愛がってやることじゃ。そうすれば裏切らん。それになあ、それがわかるお前の成長が父は嬉しい。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
産業革命の象徴、鉄軌。その後、皇国のいたるところに張り巡らされ、爆発的な経済発展を実現する。又、明やシャム、更に西へと、ほとんど無差別にあらゆる国に国交樹立の使者が遣わされ、突然の外交攻勢にどの国も戸惑うことになる。
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