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第4章 ルシアの攻勢

5 ウラジオストック艦隊の到着

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2月22日

ウラジオストック大陸軍司令部アーネン・ニコライ

    「ウラジオストック艦隊司令ドボルザーク中将、着任の挨拶に参りました。」

    「よく来た中将、待っていたぞ。こちらは兵器工廠のレンドル大佐だ。艦に載せたい新型砲がある。」



3月22日博多港皇国水軍

    千石船千早丸、船長進藤大佐、九鬼水軍出身である。千石船5隻、五百石船12隻で港の守りについていた。

    「見張りより船長、3時の方向に艦影5。」

    「国籍がわかったら教えろ。今時、朝鮮の方から来る船なんてルシア以外いそうもないがな。」

    「旗、視認。ルシアです。」

    「合戦準備!な、なんだ?あっちは風下だよな?風に逆らって間切って来てるのか?なんて性能だ。」

    この時代の皇国の帆船は三角帆がなく、風に逆らって航走するのは基本的に無理だった。従って順風でしか走れず、風待ちをすることが多かった。基本、陸地を見ながら航走する地乗りしか出来ず、ヨーロッパの帆船に比べて絶望的に遅れていた。

    ルシア・ウラジオストック艦隊強襲偵察戦隊セルゲイ准将。2層砲甲板艦、3等戦列艦、搭載砲74門、オスラビア座乗。他に同じく74門艦アリョールとフリゲート艦3隻を従える。フリゲート艦とは通常1層砲甲板の快速帆船のことを指す。風上に向かって55度ぐらいの角度で間切って行く。三角帆を備える帆船はそれが可能だ。もちろん甲板要員の水兵は大変だ。ジグザグに間切って行くので、帆の操作でてんてこ舞いとなる。

    セルゲイ准将が吠える。

    「戦闘準備。距離千メートルで砲撃開始。」

    「見張りより報告。距離千メートルです。」

    「撃てえ!」



    32ポンド砲が火を吹く。32ポンドは砲弾の重さを表す。約15キロ。それが脆弱な皇国の千石船を粉砕する。フランキ砲の射程は5百メートルもない。何も出来ず、一方的にやられて行く。皇国側の船を1隻残らず沈めると、ルシア艦隊は悠々と引き上げて行く。進藤大佐は海に投げ出されて、九死に一生を得た。

    以後、ルシア艦隊は皇国沿岸を我が物顔で荒らしまくって行く。さすがに皇国が要所に配置した大口径要塞砲には近づかなかった。皇国の沿岸交易はこれによって大打撃を受ける。帆船よりも快速の蒸気船に新型大砲が搭載されるまで、この状態は続く。


    ルシアのターンはまだ続く。
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