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第5章 混乱

1 松平家光の進軍

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    源氏長者・正三位大納言・陸軍大将・松平家光、幼い頃から病弱であり、癇癪持ちであった。それゆえか、武を好み、強権的であり、武断派と呼ばれる。今回の招集命令無視は複雑な心理の結果である。まず、嫡男の不評。真田に名をなさしめ、大津から船で逃げた御曹司との評判は家光の癇癪を引き起こした。又、大津の失陥による財政の悪化。実は新関東のある場所に隠し金山があるのだ。おかげで松平家は6百万両の蓄えがある。ルシアの侵攻前にかろうじて隠蔽した。そこで働く坑夫などは全て、機密保持のため殺された。豊臣家に知られれば、お家取り潰しになりかねない。鉱物資源は豊臣家が独占しているからだ。自領に金山が発見されても自分の所有とはならない。豊臣家が管理する。だが金山が発見されたとき、その産出量の多さに目が眩んだ。故に新関東は松平家にとって命綱であり、アキレス腱であるのだ。

    もう1つは権力志向である。家光の頭の中には常にある考えが占めている。豊臣家がいなければ、松平家が皇国を支配するのに何の不足もない。そういう内心は隠しているつもりでも、ふとした拍子に現れる。見る人は見ているのだ。実は秀安、秀吉が家康を関東に移封したとき、心の隅で大領すぎると思っていたのだ。家康は生涯、そんな野心のある態度をおくびにもださなかった。秀忠・家光ときて、家光は3代目、生まれながらの源氏長者である。強烈な自負心と、それが生み出す野心に侵されるのに時間はかからなかった。

    そして今。越後方面軍が集合命令を発した。東北の諸将は必ず関東を通過する。これを取り込めば、わが軍勢は10数万に達するであろう。ここが好機だった。だが、そのまま越後方面軍に襲いかかったりはしない。ルシアと組んだりもしない。そんなことをしては、例え天下を取ったとしても長くは続かない。君主は体面が大事なのだ。明智光秀になってしまえば、例え天下を取っても長くは続かない。ここは皇国の敵ルシアをまず討つべきであった。しかるのち、越後方面軍を不意をついて押さえ、指揮下におさめ、京に進軍する。ルシアに勝ちさえすれば、いかに損耗しようと凱旋軍だ。越後方面軍と合流した後、寝込みを襲えば簡単に押さえられるだろう。


    伊達藤次郎政宗・従三位・権中納言、かの独眼竜政宗である。彼はこのときまだ生きていた。67、非常な高齢である。故に嫡男忠宗を遣わした。百戦錬磨の政宗であれば家光の欺瞞を見抜いたかも知れないが、忠宗は騙された。

    「仙台公、よく参られた。お父上は息災かな?」

    「齢(よわい)67になり申したが、元気でござる。ただ、さすがに戦は無理があり申すため、それがしが出て参った次第でござる。」

    「そうでござるか。この度、それがしが石田大将より関東軍の大将に選ばれましてな。東北の諸将についても、それがしの指揮下に置くことになり申した。」

    「そうでござるか。1万5千を連れて来ております。よろしくお願い申しまする。」

    「おお、それはそれは。ついてはな、仙台公には副将を務めてもらいたいのじゃ。」

    「副将でござるか。承知つかまつった。」

    「上野(こうずけの)国より越後に討ち入り申す。」
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