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第5章 混乱

6  制海権

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九州博多

    博多の港湾機能は麻痺している。ルシアが海上封鎖をかけているせいだ。どんな船であろうと湾から出たとたん、拿捕される。ルシアの海軍では、拿捕した船の6分の1は乗組員で山分けして良い。もちろん艦長が一番取る。だが、末端の乗組員にとってもバカにならない額となる。だから職務熱心である。

 蝦夷地の物産を運ぶ北前船もルシアに制海権を握られてからは麻痺している。もはや国の東半分を占領されているので、麻痺もくそもないが。

 ルシアの海上封鎖のやり口はこうだ。陸地を監視出来る場所にフリゲート艦が1隻だけ張り付く。穴から飛び出した運搬船を発見するや、陸地から見えない所に待機している艦隊に連絡する。こうして哀れな運搬船は拿捕されるというわけだ。艦隊を出して、この目障りなフリゲートを追い払おうとしても、沖で待機している戦列艦が何隻いるかわからないので出すに出せない。

    九州は博多・長崎・熊本の港湾機能は封鎖されている。日本海側の主要な港もそうだ。不幸中の幸いは鹿児島までは封鎖されていないことだろう。さすがに現在の艦数では、そこまで手が回らないようだ。だが、琉球ラインの重要性に気づいたら、そこを重点的に封鎖をかけて来るに決まっている。

 今、ルシア艦が入り込めない瀬戸内海の呉(くれ)工廠で蒸気艦を建造中だ。神戸・大阪・尾張でも。日本海側では敦賀に集中して建艦している。



呉工廠

    海軍技術大佐小島晋三。博多沖でのルシアに対する完敗は水軍に深刻な打撃を与えた。あまりなルシアとの格差に呆然とした時期もあった。いや、待て。皇国には産業革命が生んだ蒸気船があるではないか。海賊上がりの水軍士官は保守的だったが、平民出身の士官は蒸気船に全く抵抗がなかった。ましてや。千石船といってもたったの250トンではないか?ルシアの戦列艦を見てしまった後では見劣りする。水軍は敗戦の一週間後、水軍を海軍と改め、新規建艦計画を護国省に提案し承認される。小島大佐はその提案の中心人物である。

 千トンと3千トンクラスの蒸気艦、それぞれフリゲートと戦列艦だ。その設計図を持って、信州の治兵衛を訪ねる。

    「呉海軍工廠の小島と申す。フリゲート艦と戦列艦に載せる大砲の素案を持って参った。戦列艦には30キロ砲と15キロ砲、フリゲート艦には9キロと3キロ砲を搭載いたしたい。」

    「4種類の砲ですな。設計図は?どれどれ、ふ~む、期間はどれほどいただけるので?船の弾薬庫の構造は?弾の運搬はどうされるので?・・・」

    海軍は技術のかたまりだとよく言われる。新海軍が一人前になるには一朝一夕には無理のようである。

    
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