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第5章 混乱
10 関門海峡
しおりを挟む海軍呉工廠技術士官小島晋三大佐
呉工廠で試作した3隻の蒸気艦を引き連れてやって来た。3千トン艦畝傍(うねび)、1千トン艦茶臼(ちゃうす)、岳浦(だけうら)。石炭を燃料に釜を炊いて蒸気で推進する。速力13ノット、明らかに帆船よりも優速を出せるだろう。但し、航走距離は短い。石炭の積載量が少ないからだ。沿岸航行用として割り切っている。ルシア海軍に対抗するための試験艦なのだ。船体を鉄装甲で覆っている。基本、自分と同等の艦の砲には耐えられるよう設計されている。畝傍は30キロ砲、茶臼・岳浦は9キロ砲の砲弾に耐える。外輪推進ではなくスクリュー推進だ。実は外輪船とスクリュー船で綱引きをさせて試験している。スクリュー船が勝った。
小島大佐、畝傍に乗艦している。畝傍艦長木島大佐、小島大佐に話しかける。
「本当に安全な場所にいて下さいよ。あなたに戦死されると蒸気艦開発が止まってしまう。」
「技術者として見たいのです。危険なまねはしませんよ。」
「いよいよ作戦開始です。みんな聞けえ、今回の目標はフリゲート艦だ。沖に隠れている戦列艦が出てきても、逃げる。下関に引き返す。今回はフリゲート艦だけやってしまう作戦だ。それに専念しろ。いいか?では行くぞ!」
全艦13ノットの最大戦速で進んで行く。茶臼・岳浦はフリゲートが逃げられないように風下を押さえる予定だ。そこを畝傍が仕留める。
フリゲート艦は陸からも見えている。さぞや見物人が大勢いることだろう。
フリゲート艦が皇国艦隊の接近に気づいたようだ。慌ただしく戦闘準備をしているようだ。茶臼と岳浦が急速に接近して行く。
ルシア海軍フリゲート艦勅任艦長ピョートル・バグラチオン
「敵艦3隻が接近中。蒸気艦小型艦2隻、大型艦1隻、戦隊長に報告。戦闘準備。」
後方には戦列艦3隻が控えていた。関門海峡は重要な封鎖対象だからだ。瀬戸内海の出口、交通の要衝、本州と九州の連絡地。もちろん皇国側も長射程30キロ砲を海峡の両岸に配置して守りを固めている。
ピョートル・バグラチオン、伯爵家の5男だ。妾腹の子であるため、苦労している。正妻にいじめ抜かれたのだ。正妻の子達も彼をないがしろにした。
見かねた叔父(母の兄)が海軍幼年学校に入れてくれた。叔父には感謝している。士官学校も卒業出来、海軍に長年勤め、勅任艦長にもなれた。昨年、結婚して早くも第1子が生まれた。
皇国の蒸気艦・・・速い。3隻。2隻は同じくらいの大きさ、1隻は3倍は大きい。逃げられないと直感する。2隻が左舷側から回り込んで来る。3隻の戦列艦が帆を上げているが、間に合いそうもない。どうする?
「左舷の小口径砲と右舷のレンドル砲を入れ替えろ。急げ。」
新型艦であろうとも、ルシアのフリゲート艦は負けん。目にもの見せてやる。
岳浦艦長四門健人(しもん たけと)少佐
四門少佐は平民出身である。京の下京の紙問屋の息子である。自分が生まれた頃は、平民が軍人になれる時代ではなかったと両親は言う。
8歳の頃、産業革命が起こり世の中が急激に変わり始めた。紙の需要はうなぎのぼりで、両親の事業は大きくなった。
姉が軍人に嫁いだ。河原町を歩いていたときに、向こうから見初められたという。その義理の兄が水軍士官学校に推薦してくれた。
最初の頃は九鬼だの村上だの海賊上がりの武士が、肩で風を切っていたが、次第に平民が大勢を占めるようになっていった。ルシアが攻めて来てからは、水軍の変化は目を見張るほどだ。1年前までは蒸気艦など、想像の中にもなかった。その自分が新型蒸気艦の艦長とは今だに信じられない。
「最大戦速維持、敵フリゲート艦の頭を押さえるぞ。右砲戦用意。」
岳浦と茶臼が急速にフリゲート艦に追いついて行く。
距離3千。
「射撃開始!」
右舷の砲門から弾が飛び出す。
ドドーン。
全て遠弾。フリゲート艦のはるか遠くに水柱が立つ。明らかに初戦で緊張している。
「何をやっている!もっとよく狙え!」
向こうも撃ち返して来る。岳浦が狙われているようだ。
カーン!
一発が命中した。24ポンド砲のようだ。岳浦は同型艦の砲は跳ね返すよう設計されている。だが、ルシア艦は木製だ。当てさえすれば。
距離2千。
こちらの攻撃は水柱が立つばかり。当たらない。
カーン!
畜生、向こうの弾が又当たった。生きた心地がしない。
「もっと近づけえ~。」
距離1千。
やっとこちらの弾が当たった。フリゲート艦のメインマストが崩れ落ちる。行き足が止まる。
「やったぞ!」
艦内から歓声が上がる。
「トドメをさせ。」
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