大砲と馬と 戦術と戦略の天才が帝国を翻弄する

高見信州翁

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第6章 反撃

1 対空砲実験

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ルシア新潟司令部実験工廠イワン・レンドル大佐

    今はもう夏だ。照りつける日差しが顔を射る。きらびやかな軍服がそこら中にあふれている。ルシアの高級将校たちだ。皇太弟殿下も出席される。試験とは言え。失敗は出来ない。イワン・レンドル大佐、ちょっと胃がシクシクしてきている。

    試作対空砲、別名【イワン砲】。皇太弟殿下が好意で付けてくださった名前だが、成功した後で、付けて欲しかった。失敗したら【イワンのバカ砲】とか言われかねない。勘弁してくれと言いたい。

    皇太弟殿下が入場なさった。

    「さあ、レンドル大佐、見せてくれ。新型対空砲の威力を。」

    始まってしまう。うまくやってくれよ。

    「対空砲実験、開始せよ。」



    対空砲は10門用意された。周囲の3地点に観測所が設けられている。観測所の測定値から諸元を計算。1号砲が試射。2・3・4と試射していき、近弾が出たら斉射に移る。

    実は少しズルをしている。気球の高度は千メートルで固定しており、風もほとんどない。絶対に失敗出来ないからだ。対空砲も観測所も固定だ。動いていては絶対当たらない。

    「標的気球放てえ~。」

    気球を係留していたロープがはずされる。

    フワリと浮かび上がる気球。風に乗って流れ始める。対空砲陣地の方向へ。


対空砲陣地観測所A

    「気球見えた。」

対空砲陣地観測所B

    「測定開始。」

対空砲陣地観測所C

    「方向・・・185度。角度・・・42度。」

対空砲陣地指揮所

    「情報集まったか?計算急げ!」

    3つの観測所の方向と角度から距離が割り出される。

    「方向・・・182度。角度42度。距離3.5キロ。」

    1号砲の射手が復唱して撃つ。

    「方向・182度。角度42度。距離3.5キロ。発射。」

    ドン!

    ドガーン!

    気球の至近距離で爆発する。気球がグラリと揺れたのがわかった。

    「よし。2号砲以下斉射。」

    ドドドン!

    ドガガガガーン

    幸運にも一発が至近距離で爆発。気球に穴を開けて、急速にしぼむ。

    「ウラー!」

    一斉に歓声が上がる。

    イワン・レンドル大佐、安心のあまり、その場にへたり込みそうになる。


    高度千メートルの気球を落とす実験だ。目立たないはずがない。何しろどこからでも見える。皇国民の多数も目撃していた。・・・皇国の間諜も。


越後方面軍司令部参謀本部真田繁信

    「なに?気球を大砲で撃ち落とした?むむっ。アーネン・ニコライ、侮れん。現場を見た間諜から聞き取り調査を行え。こちらも対空砲の開発に着手するのだ。畜生、新潟には気球を飛ばせん。痛いぞ。」

    
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